身体に入れるタトゥーはかなり以前からオシャレであったが、顔に入れるタトゥーは非常に珍しいことから、見た人に、好奇心、驚き、ショックなど、かなり矛盾したさまざま感情を呼び起こす。しかし文字やマーク、動物などの形のタトゥーを顔に刻んだ人たちの姿はモスクワだけでなく、多くの地方都市でも見られるようになっている。ロシア・ビヨンドは、そんなタトゥーを入れた人たちに、なぜ身体の一番目立つ部分に、消すことのできない印を入れる必要があるのか取材した。
外国の王女、セーラームーン、イスラム女性・・・。サンクトペテルブルグ出身の31歳のタトゥー彫師、アヴローラを見て連想せずにはいられないのが、額の三日月である。
しかしアヴローラ自身はそのような連想を否定する。そしてタトゥーへの関心は、4年前に彼女に訪れた「天からの声」から始まったと話す。
「鏡を見たとき、まさにこのマークが顔に映って見えたんです。そしてそんなとき、そのようなヴィジョンに抵抗すると言うのはわたしのルールにはないんです」。そして数日後、彼女は鏡のなかで見たイメージを現実のものにした。
それは彼女にとって最初のタトゥーではない。そのような「天からの呼びかけ」は10年ほど前、卒業式の後、アヴローラがカレリアの山々の間をピクニックしていたときから感じるようになった。
アヴローラは回想する。「そのとき、大学はもう卒業していたのですが、何をしたらいいのか分からなかったんです。もう環境学者としての証書を受けとり、その専門で仕事はしていましたが、仕事はタトゥーのようなドキドキした気持ちにはさせてくれませんでした」。
山から戻った彼女はタトゥーの歴史を学び始め、機械を買い、最初のタトゥーを彫った。この最初のタトゥー、今では人に見せるのが恥ずかしいほどの出来だという。しかし次第に経験を積み、客も増えてきた。アヴローラは単にタトゥーをするだけでなく、本人曰く、その人が密かに持っている望みを叶えるのを助けているのだそうだ。
「わたしのところに来たお客さんが言うんです。“夢の中でタトゥーを見ました”と。わたしたちは一緒になって、何を見たのか、なぜそれを見たのかを検証し、イメージを作り出し、それを本物にするのです」とアヴローラは小さな声で話してくれた。
周囲の人が顔に彫られたタトゥーにどう反応するのかと言う質問に、彼女は「額のタトゥーはサンクトペテルブルクの多くの人々を驚かせています」と話してくれた。
「あるとき、聖職者のタクシー運転手がわたしに、タトゥーは奴隷の印だと言ったんです」とアヴローラは回想する。しかし彼女はそのような言葉にも怒りを感じたりしないという。「だって、わたしの中でそれを求める人物が目を覚まし、祖先からの“呼びかけの声”が止まなかったらどうすればいいのでしょう?」。
イワノヴォ出身の笑顔が素敵な若い料理人のドミトリーの関心は、アヴローラとはまた異なる。彼は顔にタトゥーを彫るのが痛いのかをどうかどうしても知りたかったのだという。しかしそれは痛みを伴うものではなかった。目の下に彫られた、「痛み」という文字にバツをつけたタトゥーがそれをアピールしている。また額には「斧」という文字、頰にはサメ、鼻には3本線、首には触角が彫られていて、まもなくうなじにタコを彫るつもりなのだそうだ。
「でも頭は一番痛い場所らしいです。わたしは怖くありませんが」とドミトリーは自慢する。
明るく微笑むこの青年がタトゥーに興味を持ち、色々と調べるようになったのは14歳のとき。それから2年かけて、腕のよい彫師を見つけ、最初は腕にタトゥーを入れ、その後、あちこち順番に入れていった。ドミトリーさん曰く、タトゥーは面白いものならなんでも入れているが、大事なのは、異なるスタイルをうまく組み合わせることだとのこと。
タトゥーが原因で問題に巻き込まれたことが1度だけあるという。それは地元の衣料店の販売員の仕事に就こうとしたときのことで、田舎町では、他の人と違う外見が、客を驚かせるかもしれないと言われたのだそうだ。
モデルでDJでデザイナーでもあるヴェガンさんが何をしようとしているのかを知るのは難しいことではない。彼の名前と生活スタイルが表されたタトゥーは、額、両頬、そしてまぶたにも彫られていて、それは遠くからでも見える。
多才なヴェガンさんも、顔にタトゥーを彫ることについてはすぐに決心したわけではない。モデルとしてのキャリアの妨げになるかもしれないと心配したのである。
「しかし結局は入れようと決め、タトゥーが禁止されているモデルから、タトゥーが好まれるモデルに移行しました」とヴェガンさん。
「ヴィーガン」と「アニマル」という文字を散らした古風なタトゥーは、菜食主義というテーマに人々の注意を向けてもらおうとする彼独自の試みである。ちなみに、彼がタトゥーを入れてもらっているのはヴィーガンの彫師だけだという。
「すべては、人間という理性を失った動物が、他の動物を食べてもよいと考えていることが間違いだということを知ってもらうためにやっているのです」とヴェガンさんは憤る。顔にタトゥーを入れていることを非難されるような場所にはできるだけ行かないようにしているというヴェガンさんだが、そのような場所はロシアにはそれほどたくさんはないと言う。
ヴェガンさんは、「いまや地方でも、皆、リスペクトしてくれ、本当は自分も顔や腕にタトゥーを入れたいけれど、仕事の関係でなかなか許されないと打ち明けてくれる。しかしこのような問題もまもなくなくなると思う」と語ってくれた。
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