ロシア人は何をネタにするのか

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 終わりのない冬やウォッカ、マトリョーシカではない。ロシア人は自分たちの天才的な素質をネタにするのだ。

自分たちをネタに

 実はロシア人は、自分たちのことをネタにするのが大好きだ。それも涙を流すほどの大笑い。インターネットでは、「この国には勝てねえわ」(あるいは「この国民ときたら」)というミームが流行っている。これは、ロシア人の機知が生み出した天才的かつ目も当てられない「発明品」をネタにしたものだ。

 テスラのファルコンヘビーロケットが宇宙へ行ったとき、ロシア人は皮肉たっぷりの表現を考え出し、「イーロン・マスクよ、気に入ったか?」というミームを作った。大富豪も羨む(?)信じ難い発明品が投稿されている。

 だが外国の方にご注意。ロシア人は自分たちのことを好きなだけ笑い、批判することができるが、よそから嘲笑されたり批判を受けたりすることは容認できない。

  また、ロシア人は決して第二次世界大戦をネタにしない。これは繊細なテーマだからだ。どの家庭にも、戦争で戦ったり、戦死した人間がいる(ただしヒトラーやファシストについてのアネクドートはある)。スターリン自身はアネクドートに常に登場するが、スターリンによる弾圧やグラーグはネタにされない。神に関するネタもあまり見かけない。

汚職官僚や交通警察官をネタに

  逮捕される危険に怯えながら台所で話された政治的アネクドートの伝統は今なお健在だ。舞台が匿名のインターネット空間に変わったに過ぎない。ロシア人は全権を持つ権力者、特に汚職官僚を笑う。テレビでは、汚職官僚や予算泥棒が窮地に陥り、一文無しになるコメディー寸劇が放送される。ロシア人が特に喜んでネタにするのが、それまで何不自由ない人生を送ってきた者が一般人になるさまだ。どん底で彼らがどう感じるのか、面白くて仕方がない。

ドラマ「自宅軟禁」のポスター

 高位の汚職官僚はテレビでしか見ることがないが、交通警察官はどこにでもいる。彼らが薄給で、交通違反者から免許を取り上げる代わりに金を巻き上げて儲けようとしていることをネタにするのも一般的だ。この際ロシア人は矛盾に満ちた冗談を言う。「酒気帯び運転をしたらお巡りに止められた。ちくしょう、さて免許を取り上げられるか賄賂を要求されるか。」「酒気帯び運転をしていたらお巡りに止められなかった。ちくしょう、何のために給料をもらってるんだ、こんなべろんべろんの俺に気づかないのかよ。」

「我がロシア」の一場面

 同性愛者嫌い、貪欲なオリガルヒなどを笑う「我がロシア」という寸劇では、賄賂を取らないために家族が飢え、毎日目にクマを作って出勤している国内唯一(?)の誠実な交通警察官もネタにされている。

プーチンに対する恐怖をネタに

 プーチン大統領については毎日のように新しい冗談が生まれている。最も広まっているネタは、プーチンの名前そのものに影響力があり、この名を聞いた人は皆働き始め、秩序を生み出し、どうにかして忠誠心を示そうとするというものだ。

  プーチンが世界中で、特に西側で恐れられていることもネタにされる。このようなユーモアはコインの表裏のような関係だ。一方では、これはロシアとプーチンが世界の主たる脅威であるという西側のプロパガンダに対する防衛反応だ。他方で、これは個別に選ばれたメディアの人間が、プーチンはまだまだ目に物を見せてくれる、プーチンを怒らせないほうが良い、と愛国心をたぎらせて熱弁を振るう国内プロパガンダに対する拒否反応でもある。

 テレビのお笑い番組では、しばしばプーチンの名が出される。曰く、プーチンは強い男で、イスカンデル・ミサイルを持ち、貴婦人たるヨーロッパや旧ソ連の共和国を粗野で野蛮なNATOの誘惑から救っているのだとか。

アルメニア─アメリカ─ロシア

隣人をネタに

 ベラルーシは、弟のように可愛くネタにされる。ロシアは、ベラルーシにジャガイモがたくさんあり、国民の宝として愛してやまないことをネタにする。

 ロシアのお笑い芸人の考えでは、ベラルーシ人は、1994年からずっと共和国大統領の座に就いている国民の父アレクサンドル・ルカシェンコをジャガイモ同様に愛している。

ブロンド女性、概して女性をネタに

 あまり知的でないブロンド女性が、非常に多くのアネクドートに登場する。概して、「女性のロジック」という理解し難いものを、男性はネタにして来た。「あんたに腹が立つんだけど、どうしてか忘れた。」 お笑い芸人らは女性との付き合い方をこう諭している。自分に非がなくても、とにかく謝れ。残念ながら多くの人が、こうしたネタを差別的だとは思っていないのだが、状況は変わりつつある。「お馬鹿なブロンド女性」をネタにする人は、10年前よりはずっと少なくなった。

 特にネタにされるのが、(ブロンド)女性ドライバーというカテゴリーだ。免許は金で買い、車は金持ちの恋人からもらい、まともな運転ができず、車の仕組みを全く知らず、すべての装置について、トランスミッションでさえ、「ほらこの何かが壊れちゃった」と言う。渋滞に巻き込まれると決まって爪にマニキュアを塗り、そもそも「左のウィンカーを出したからといって、左折するとは限らない」。

アメリカ人をネタに

 自分たちとアメリカ人とを比較することは、ソ連時代からロシア人の大の楽しみだ。ロシア人は、あらゆる点でアメリカ人に追い着き、追い越さねばならないと感じている。アメリカで起きていることは、ロシア人にとってある種の比較基準、比較対象となる。「あのアメリカでは〜」というフレーズで、兵器、流行、製品、習慣に関する話が始まる。

 人気のスタンドアップ芸人ミハイルザドルノフは特にアメリカ人に注意を払い、「なんて鈍感!」という決まり文句を考え出した。彼は、自身のアメリカ旅行の笑い話やアメリカ人との付き合いで感じた困惑、アメリカの奇妙な法律を紹介している。

 ミームが人気を集めて以来、一般の人もザドルノフに自身のアメリカ人話を語り、ザドルノフはそれを元に一度ならずコンサートを開いている。例えばあるホテルでは、アメリカ人が電子レンジと間違えて金庫でサンドイッチを温めようとしたという話が彼に紹介された。

 しかしザドルノフは後に、自分の風刺は二重底だということを説明しようとしている。彼がネタにしてきたのは、アメリカ人をどこか理解しきれないロシア人自身なのだと。「アメリカ人のほうがロシア人より劣っている点を真似する私たちこそが鈍感なのだ」と芸人は言う。それでもなお、「鈍感なアメリカ人」はましてロシア人のことなど理解できないだろうという考えが、ロシア人の国民意識の中に染み付いている。

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