モスクワ東方1400キロのペルミ市第127番学校。ここで、2人の16歳の少年が4年生のクラスを襲い、1人はナイフで女性教師の首に2回切りつけた。計15人が負傷している。
その2日後、モスクワ東方1700キロの、チリャビンスク州の小さな町で、1人の生徒が休み時間中にナイフで別の生徒を襲った。
さらにその2日後、シベリア南部のブリヤート共和国の首都ウラン・ウデ近くの町で、斧と火炎瓶を持った9年生により、7人が負傷している。
つまり、1月にわずか1週間の間に、ロシアの学校は、その生徒により3回も襲われていることになる。
警察・治安機関の説によると、これらの襲撃はお互いに関連している。犯人をその気にさせたのは、アメリカの「コロンバイン高校銃乱射事件」をしばしば取り上げる、SNSの「true-crime コミュニティ」の登録者やブロガーだろうという。(1999年に米国のコロンバイン高校で起きた、同校生徒エリック・ハリスとディラン・クレボルドによる銃乱射事件では、37人が死傷し、うち13人が死亡。犯人は犯行後に自殺している)。
ロシアの学校を襲った生徒はすべて、この「コミュニティ」(複数ある)に登録していた。ブリヤートの少年は、ロックバンド「KMFDM」のTシャツを着て犯行に及んだが、このシャツはコロンバインの犯人たちも着ていた。
ところで、昨年9月にも、高校生ミハイル・ピヴネフが料理用の斧で女性教師を殴り、顔に空気銃を発射する事件が起きているが、この生徒も同じシャツを着ていた。
ロシア連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督局は、SNSのこうしたコミュニティをブロックし始めている。最大のコミュニティは登録者1万人におよぶという。しかし、ブロックするとまた新たに生じるという「いたちごっこ」が続いている。
学校を憎悪する生徒たちが交流する場所
「偉いぜ、お前ら!俺はもう4ヶ月も登録者を集めようと苦労したが、誰も洟もひっかけなかった。一週間ちょっと前(つまり、ウラン・ウデの事件の後)、最初のコミュニティはブロックされちまった。が、その次の週にはもう、前と同じくらいの登録者を集めたぜ」
こうしたコミュニティの1つの管理人「Brock」(ペンネームは変更されている)は、こう書いている。このコミュニティのページには、E&D(エリック・ハリスとディラン・クレボルド)の日記、写真、アーカイブ、ミームなどが載っている。
ロシア・ビヨンドは、Brockのほか、3人の管理人に話を聞いたが、いずれも同じことを主張した。彼らによれば、コミュニティの意義は、学校でのいじめがどんな結果をもたらすか、何をしてはいけないかを示す。つまり「すべての人への教訓」だという(心理学者の見解では、E&Dの犯行の一因は、長年にわたる学校でのいじめであった)。
また、管理人たちによれば、彼らは問題を抱える青少年をある程度助けてさえいる。そういう少年たちはコミュニティで、自分と同じような問題をもつ者と出会い、交流することができるからだという。
「我々はだいたい暴力には反対だ。True-crimeは危険じゃない。これは、20年も前の事件の情報や資料・記事の引用にすぎない。あるいは、私のコミュニティみたいに、ミームを共有しているだけ」。
こう言うのは、コミュニティ「コロンバインに関する古びたミーム」の管理人、ニコライ・ドラズドフさんだ。ロシア・ビヨンドが彼と話した2日後には、彼個人のページは削除された。
だが、管理人たちのこうした主張にもかかわらず、Brockのコミュニティには、こんな意味不明な言葉を記した写真がアップロードされている。
「もしお前が学校で銃乱射をやれないなら、お前は人生でなんにも達成できないだろう」。このコミュニティのコンテンツへのコメントのなかで、セヴァストポリに住むジーマ・コートフという少年は、「コロンバインのようなことをやりたい」と書いている。その彼のページには、true-crimeコミュニティーの多くのリポスト、銃に関するライフハック、そして多数の自分のポストが――「嫌いだ」、「お前らぜんぶ射殺してやる」、「4月20日を待っていろ…」といった文句がピストルと弾丸の写真つきで――あふれていた。
国はどう考えているか
ロシア連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督局の見解では、この種のカルトやコロンバインに関するコミュニティは、テロや自殺を吹き込むそれと同じくブロックすべきである。
「両者の間に本質的な違いはない。いすれも反社会的で破壊的な行動を鼓吹しているから、こういうものはなくさなければならない」。同局のアレクセイ・ヴォ―リン副局長はこう述べた(ロシア語)。
それらのコミュニティは、同監督局の指示でブロックされているのだが、同局ははっきりこう述べている(ロシア語)。ブロックされたコミュニティは、未成年を自殺に導くような情報を含んでいたと。
「すべては小さなコミュニティから始まった」
True-crimeコミュニティがロシアに現れたのは2000年代のことで、長い間、わずかな人たちの興味しか引かなかった。要するに、最も有名な詐欺師とか変質者とかいったテーマのものと同じ状況だった。
18歳のディアナさんがコロンバインに興味をもったのはまったく偶然だった。ネットである投稿を目にして、コミュニティをのぞいてみた(ちなみに、彼女のSNSは、主にハリポタ、米連ドラ『ツイン・ピークス』、ロックバンド「アルト・ジェイ」の曲などの投稿だ)。
「その後、引きこまれちゃって、エリックの日記とか記事とかビデオとかを見た。そのうち、“パズルが埋まってきて”、イメージがまとまり始めた。私はこういう人たちの心理――何がこういう行動に追いやるか――に興味をもったんだけど、これらのコミュニティには、特別なことは何もなかった。ぜんぶコミュニティのせいにするなんておかしいと思う。現代社会は、十代の若者をどんどん追い詰めている。『がり勉』、『落ちこぼれ』、『スポーツバカ』なんてレッテルを張らないで、もっと素直な関係をお互いにもてば、生きるのがずっと楽になるのに。そうすれば誰も、コロンバインを繰り返そうなんて考えなかっただろうに」。ディアナさんはこう言う。
ところで、ペルミとブリヤートの襲撃事件については、true-crimeコミュニティでは、いい格好したがりの「ポーズ」だと決めつけられている。「これはよくあるけど、“切れた”やつさ。そんな考えにとりつかれて、ただ有名人になりたくなったんだ」
「E&Dにいかれたのは確かだろうが、それだけのこと」と、ドラズドフさんは言う。ミハイル・ピヴネフには復讐の気持ちがあったかもしれないが、他の犯人たちは、犠牲者のことを知りもしなかったし、いじめの被害に遭っていたわけでもなかった、と。
マスコミは、今回の一連の事件は、「新しい現実」を突きつけたとし、両親と学校等の社会性を育てる機関が子供をちゃんと見守り、教育していない結果だとみている。例えば、学校の心理療法士がちゃんと働いていないとか、親が無関心であるとか(襲撃の犯人たちは前もって自分たちの意図をSNSで伝え、武器を入手する場所まで尋ねているのに、誰も何の対策もとらなかった。また犯人の1人は心理療法士を訪ねてもいる)。
とはいえ、やはり大本の原因としては、true-crimeコミュニティが指摘され、それが暴力行為を引き出し、連鎖反応を起こしているという意見がある。
「でも、最悪なのは、マスコミ報道の波があって、トップブロガーがいろんなコメントをした後で、かえってこのテーマが爆発したこと。関心の高まりはすごい。こんなに話題にしなければよかったのに」
ディアナさんもこれに賛成する。「これは疫病のようなもの。少人数のグループから始まり、他のすべての人が感染してしまう」