一度でも門番に遭遇している人は、状況が手に取るようにわかるだろう。友だちを訪ねようとマンションに入ろうとすると、入口が開放されている。なんだ、簡単に入れるんだ、と思ったら大間違い。上階にあがる前に、バーブシカ(老女)の大声が響いてくる。「ちょっと待ちなさい!どこ行くの?どこの部屋?」と。部屋の番号を言うまで、その先に通してはもらえない。
門番は大抵、60代~70代の女性で、神経が図太く、自分の意見は絶対的だと考える、典型的なロシアのバーブシカだ。
フランス語の「コンシェルジュ」という言葉を、ロシア語の女性形にした「コンシェルジュカ」という呼び名まであるほど。一体、このバーブシカたちは何者なのだろう。なぜ誰にでも声をかけ、どこに行くかとしつこく聞いてくるのだろう。
年金以外の収入を得ようと門番の仕事をしている人が多く、決して裕福ではない。ちなみに、2017年の平均年金額は1万3700ルーブル(約2万7400円)。ロシアの「ザ・ビレッジ」誌が行った、異なるマンションの門番4人へのインタビューによれば、月給は9000~1万2000ルーブル(約1万8000~2万4000円)である。
月給はマンションの各部屋からの少額の寄付金でまかなわれている(市から支給される場合もあるが、まれ)。そのため、各家庭が定期的にしっかりと支払うことが重要になってくるが、応じない人も中にはいる。
なぜ門番に金を支払わなければいけないのかと考える人は必ず少数存在し、時に住人同士の大喧嘩に発展する。優しい住人のいる新たなマンションをバーブシカが探さなくてはいけなくなる場合もある。
門番への支払いに反対する人は大抵、こんな主張をする。入口付近に女性を座らせてもマンションの空き巣を防ぐことはできない、エレベーターを破壊するような行為に門番が立ち向かうことはできないと。また、普通の訪問者を疑いの目で見て、余計な質問をし、建物に入るのを邪魔していると。
一部の門番に対する不満もある。うるさい、人のプライバシーに干渉する、噂を広める、自分が嫌いな人を批判しまくるなど。確かに、これは大変である。
門番の仕事を社会的に意義深いと高く評価し、保護する人もいる。「何かが起これば、警察に連絡してくれる。また、毎日床を磨いて、入口を花で飾っている」というのが、擁護派の典型的な声だ。
バーブシカ自身、門番の仕事に誇りを持っている場合が多い。「家に門番がいるっていうことは、清潔、美、安全を楽しめるということ。出入りを自由にしたら、入口で酒を飲んで、おしっこをする人が現れるわよ」と、69歳の門番スヴェトラーナさんはザ・ビレッジ誌に話す。
侵入者から建物を守ることだけが仕事ではない。76歳のニーナさんは、他の門番と同様、建物の通信や電気を確認し、住人のニーズに応じて専門家を呼ぶ。住人にとても丁寧に接し、仲良しになるバーブシカもいる。門番の質問は、決して難問ではない。正直に、礼儀正しく答えればいいのである。
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