場面 1
ピョートル(立ち上がりながら):こんなのはもうたくさんだ!私はロシアのツァーリだぞ。望むことは何でもできるんだ!お前たちなんか皆お払い箱にしてやる!
これは、モスクワのクレムリンにおける儀式の間でのできごと。ピョートルとイワンは、古めかしく、快適とは言い難いロシアの衣装を着せられて、二つの玉座に座っている。いく人かの大貴族や廷臣が長たらしく退屈な演説をしている。
ソフィア(玉座の後ろから顔を出して):しっ!ピョートル、座りなさい!ツァーリといえども、尊敬され影響力ある大貴族の演説を妨げることは許されません。これは私たちの伝統のしきたりです!そんなことをすると、非常にまずいことになりますよ…。
ピョートル:ふん、その結果はどうです?あなた方の慣習が既に国に対してしでかしたことを見るがいい!我々の父帝アレクセイがみまかった後、我が国の対外貿易は急減した。オスマン帝国との戦いでも勝利できない。なぜなら、我が国には艦隊が存在せず、陸軍も惨憺たるありさまだからだ!我々の技術は時代遅れであり、衣装は15世紀のものに執着している!ヨーロッパ人に比べれば、我々はすべて野蛮人です!私はこれを一変させるつもりだ!
ソフィア:ピョートル、自分勝手に何世紀もの伝統を壊すことはできません!
ピョートル:ふん!私のやることをみているがいい(プレオブラジェンスコエに去る)
場面 2
プレオブラジェンスコエ付近の牧草地。ピョートルがロシア兵の前に立っている。
ピョートル:私の歩兵たちよ!我々が、時代遅れのロシアの武器を新しいヨーロッパ式兵器に変える時が来た。ヨーロッパ人と戦うためには、ヨーロッパ人のように考え、ヨーロッパ人のように戦わなければならない。私の新しい連隊で最初の兵士になることを望むのは誰か?
一人の兵士が隊列の前に進み出る。
ピョートル:ほらここに、勇猛にして果敢な兵士がいる!お前がプレオブラジェンスキー連隊の最初の一員だ。
他の兵士もブフヴォストフの例に倣う。間もなく二つの連隊が編成された。プレオブラジェンスキー連隊とセミョーノフスキー連隊だ。
ピョートル:だが、お前たちに戦術と武器の扱いを教えられる外国人の連隊長が必要だ!幸い、私はそういう人間を見つけられる場所を知っている…。
場面 3
モスクワのドイツ人居住区。ピョートルは、ドイツ人商館の客となっており、護衛と大貴族たち(奇妙な帽子をかぶっている)に囲まれている。裕福なイギリス人とドイツ人が数多くいる。 彼らは皆、大ジョッキでビールを飲んでいる。
ピョートル:みんな、私のために軍隊を編成してくれる人間が必要なんだ!つまり、わが勇敢なる兵士たちに戦術、撃ち方、行進を教えてくれる者がな。
ゴードン: 陛下、私はパトリック・ゴードン将軍、53歳です。ロシアにほぼ30年間勤務してまいりました。喜んでお招きをお受けしたく存じます。
ピョートル(ジョッキから一口飲みながら):貴下は、ブトゥイルスキー連隊を訓練してくれたゴードンか。あれは、ロシア軍の最精鋭部隊の一つだ!貴下といっしょに他の大佐も連れてきてくれ。人がもっとたくさん必要なんだ。
ゴードン: 新生ロシア軍の教練、演習をさせていただけることは、私にとって大きな名誉であります。
ピョートルについてきた大貴族たち:陛下、このドイツ人たちは、陛下の前でも、私どものように頭を下げず、まるで対等であるかのように陛下と話しておりますが。彼らは特別な人間なのですか?
ピョートル:これが、彼らの欧州の王室に対する流儀なのだ。お前たちもそれに慣れるだろう!あんなしきたりなんて糞くらえだ!さあ、飲め、飲め!
皆、ジョッキと杯をあげて:ピョートルのために、我らが恵深き寛大な陛下のために!
場面 4
ピョートルは書斎で簡素な木製の机に座っている。服装は洋風だ。大貴族が入ってくる。
大貴族:陛下…。南方を成功裏に征服された後、我が国は今や、アゾフ海へ進出する足がかりを得ました。…が、我が国には艦隊も、国庫の金もございません…。姉君ソフィア大公妃の、狂気の沙汰としか申し上げようのない政治決定で国が枯渇しておりますので…。
ピョートル:今や私が唯一のツァーリなのだから、金は見つけるさ。新税を導入しよう。国民1万人ごとに新たな軍艦1隻分の税金を納めるのだ!
大貴族:しかし…それは大きな一揆、反乱を引き起こすかもしれませぬ…。
ピョートル:今の言葉をもう一度言ってみろ。貴様を犬の餌食にしてやるぞ。もっとも、お前たちが国庫の状態について話していることは、私も耳にしている。欧州に自ら出向いて、ある程度の資金を集めてみよう。
ピョートルは大使節団を結成し、欧州に派遣する。自らも偽名を使って一員として加わる。
場面 5
ピョートルは、銃兵(ストレリツィ)の反乱を知り、帰国する。
ピョートル(汚れた外套にブーツという姿で部屋に駆け込みつつ):何が起きたのだ!早く言え!
貴族: 銃兵が、この夏に反乱を起こし、指揮官たちを殺し、あるいは追い出し、姉君ソフィア大公女をを国家元首に戻すよう要求いたしました。しかし、陛下に仕える外国人の将軍ら、とくにパトリック・ゴードンが鎮圧に成功。鎮圧後に我々は、極悪人57人を処刑いたしました…。
ピョートル(激怒して):57人だと?!冗談もいい加減にしろ!あの穢れた悪人どもは2000人以上もいるんだぞ!傲岸にも自分たちのツァーリに 反旗を翻すとは!私は捜査をやり直させる。もはやこの国には銃兵は一人もいなくなるのだ!古い秩序は一掃されねばならぬ!
貴族:はい、陛下、仰せの通りです。正義が行われねばなりません。ご旅行の成果のほどはいかがでございましたか?
ピョートル:うむ、まさしく大成功!私は欧州各国の王侯たちと食いかつ飲んだ。砲術と造船を学び、アイザック・ニュートンに会った。英国議会を訪れ、多くの外国人の科学者と将軍を、ロシアに奉仕させるために雇った。間もなくロシアは強力無比となり、欧州と世界に覇を唱えるだろう! ロシア万歳!お前とは明日、プレオブラジェンスコエで会おう。そこで大式典を行う!
場面 6
プレオブラジェンスコエの儀式の間。ピョートルは玉座に座っている。大貴族(昔ながらの裾長の服をまとい、長いひげをたくわえている)と貴族がいる。
ピョートル:モスクワの離宮によく来られた!本日、私はひげと服装に関する法律を導入した。今後は宮廷に来るときは、皆ひげを剃り、洋風の服を着用しなければならない。
いく人かの大貴族:ツァーリよ!我々のひげは貴族のしるしでございます。これをそり落とすわけにはまいりません!
ピョートル:歯向かうのか!近くに寄れ…(巨大なハサミを取り出す)
大貴族たちはツァーリに近づく。ツァーリは、はさみでひげを切り落とし、長い上着を切って、哄笑する。大貴族たちは打ちのめされている。
ピョートル:さて今度は、楽しもうではないか!飲もう!ロシアよ、とこしえにあれ!ツァーリを守りたまえ!
いく人かの大貴族:この世の最後の日々が来た…我らがツァーリは狂人か、さもなくば、これはロシアがかつて目にした最良の時代となるかだ…。