ロシア人は計画性がなく、即興性が凄まじい――このアネクドートは、普通なら二進も三進も行かないような状況でのロシア人の信じがたいほどの発明の才を表現している。この記事では、第二次世界大戦中のロシア兵の並々ならぬ軍事的な創意工夫についてお話ししよう。
1) 「トラクター戦車」
独ソ戦開始間もなく、ドイツ軍はソビエトの軍用車両の大半を破壊した。ソ連は戦車その他の装甲車両の深刻な不足に見舞われた。
オデッサ防衛戦で、ソ連兵はトラクターを戦車に改造することを思いついた。戦略的というより心理的な打撃を狙った作戦だった。大砲を搭載したトラクターが本物の30トンの鉄の巨人とまともに張り合うことは到底不可能だったからだ。
こうしてロシア軍は、街を包囲していたルーマニア軍(ファシストの同盟軍として参加していた)に対し、鉄板を結い付けた20台のトラクターをこしらえた。兵士らは夜半にサイレンを鳴り響かせ、照明を煌々と灯して侵入者に攻撃を仕掛けた。兵士ら自身も驚いたことに効果は覿面だった。ルーマニア軍は撤退したのだ。
「初めからソビエト連邦のトラクターは、戦車を模した車両に改造できるように作られていた。ソビエトのトラクターの無限軌道の幅も、戦車の無限軌道の幅と同じだった」と歴史家のヤロスラフ・リストフ氏は話す。
「そして敵軍は自分たちが『通常とは異なる構造をした戦車』に攻撃されていると勘違いし、パニックに陥って撤退を始める。ソ連兵はこうした戦車型トラクターを『ナ・イスプーグ-1』(『ハッタリ1号』)と呼んでいた。」
2) 偽造証明書
レニングラード包囲のさい、ドイツの司令部は街に自軍のスパイを定期的に送り込んだ。彼らは作戦の成功に不可欠な最良の文書や、住所と連絡先のリストを手に入れていたが、いつも最初の身分証明書の確認の段階で正体を見破られてしまっていた。
ドイツ軍の司令部はロシア軍がどうやって斥候の正体を見破っているのか理解できなかった。身分証明書の偽造には最も優秀な人員が当てられていたからだ。専門家がソ連製の見本を参考に紙の質感を厳選し、色合いも精巧に真似て秘密の記号まで暴いていたが、何もかも無意味だった。
戦後明らかになったことには、ドイツ軍が見落としていた「穴」はかなり単純なものだった。仕事に几帳面で周到なドイツ人は、身分証明書用のクリップを錆びない鋼鉄で作っていた。一方本物のソビエトの身分証明書は普通のクリップで留められていて、使っているとすぐに錆びたのだ。
3) 「村の」スナイパー
ドン川上流でドイツ人と対戦したさい、ソビエトのスナイパーは自分たちの人的損害なしに迫撃砲部隊を丸々一つ壊滅させることができた。
ドイツ軍は部隊を窪地に配置し、トーチカでしっかり防備を固めていた。彼らの視界は理想的で、攻撃を仕掛けてくるソ連軍のいかなる部隊も掃射することができた。
しかしこのことは、ソ連軍のスナイパーが敵陣に向かって出撃することを阻まなかった。2人の兵士が、窪地に一番近く、すでにドイツ軍に破壊されていた農家に忍び込んだ。自分たちの位置が分からないようにするため、狙撃兵は木製の廃墟に火を放ち、自分たちは破壊された家の暖炉に潜んだ。 燃え尽きようとしている村の中心の古い暖炉から狙撃されているなどとは思いも寄らなかったドイツ軍部隊は、朝までにスナイパーの弾丸で全滅した。
4) ドイツ軍の「通信傍受」の上を行く
ヒトラーの暗号解読班は、ソ連軍の通信兵やパルチザンの無線やコードを容易に解読して司令部に伝えることができた。そこで個々のパルチザン部隊は自分たちの暗号に意図的に正書法上の誤りを組み込み、ドイツ軍の諜報員を混乱させることにした。 こうして「bronetransportery」(装甲輸送車)の代わりに「branetronaspaaaartery」、「samolety」(飛行機)の代わりに「somalety」、「avtomaty」(自動小銃)の代わりに「vovtomaty」、「bombezhki」(爆撃)の代わりに「bonbeshki」などが現れた。
ロシア軍にとっての特典は、ロシア語の「広さと豊かさ」、つまるところ豊富なマット(卑猥な罵詈雑言)だった。通信兵にブロークンなロシア語、しかもありとあらゆる罵詈雑言を使って連絡をするよう指令が出た途端、ドイツ軍暗号解読班の楽な生活は終わりを告げた。