ロシア語学習に最高の12の歌:歌いながら言葉を覚えよう

ロシア語
ヴィクトリア・マリク
 言葉と文化を学ぶうえで最高の体験の一つは、1950年代の曲であれ、現代のラップであれ、とにかく音楽を聴くことだろう。その点で最高の音楽をご紹介する。これらに耳を傾けると、ロシア文化への理解を深め、語彙を増やし、文法をしっかり覚えることができる!

1950s年代

レオニード・ウチョーソフ「黒海にて」(Леонид Утёсов - ‘У черного моря’)、1951年 。ジャズ、ロマンス 

 歌うのはレオニード・ウチョーソフ。ソ連のフランク・シナトラといったところか。この歌は、20世紀を通じて多くのソビエト市民のお気に入りだった。ロシアのアコーディオンとジャジーなブラスが美しく調和している。

 歌は、この歌手が生まれたオデッサ(ウクライナ)への郷愁を優しく奏でており、壮麗な海の街の、いわば非公式の市歌となった。

 曲のペースが遅いので、5秒ごとに曲を停止しなくても、確実に歌詞をキャッチできるだろう。

 

夢に見る街がある。

ああ、あなたが知っていたら、

私にとってどんなに大切であるかを。

黒海のほとりに浮かび

アカシアの花咲く街が、

そう、黒海のほとりの

アカシアの花咲く街が。

Есть город, который я вижу во сне.

О, если б вы знали, как дорог

У Чёрного моря явившийся мне

В цветущих акациях город,

В цветущих акациях город

У Чёрного моря. 

*歌詞のほかの部分とその翻訳はこちらをどうぞ。

 

1960年代

ウラジーミル・ヴィソツキー「好きじゃない」(Владимир Высоцкий -  ‘Я не люблю’)、1968年。シンガーソングライター

 ブラート・オクジャワとともに、最も有名なソ連のシンガーソングライターだ。パセティックなしわがれ声をふり絞るように歌うこの曲は、何十年にもわたり、高校のすべての男子生徒の脳裏に刻み込まれてきた。

 ヴィソツキーは、自分の生活のなかで嫌いなものを率直に語り、社会的、政治的状況も解き明かしている。それは現在、いまだかつてないほどアクチュアルだ。

 この歌は今日にいたるまで、ソ連とロシアの広範な聴衆に強烈なインパクトを与え続けている。以上のことから、多くのロシア人は、ヴィソツキーが歌手であるだけでなく、20世紀後半の偉大な詩人でもあると主張する。

 

運命的な結末なんてものは好きじゃない、

生きることに疲れたりすることは決してない。

楽しい歌をうたえないなら、

どんな季節だって好きじゃない。

Я не люблю фатального исхода,

От жизни никогда не устаю.

Я не люблю любое время года,

Когда веселых песен не пою.

 

*この歌の歌詞についてもっと知りたい方はこちらをどうぞ。

 

1970年代

ニーナ・ブロツカヤ「愛しい人に会うのは」(Нина Бродская - ‘С Любовью Встретиться’)、1973年。ポップ 

  ソ連の最高の人気映画の一つ、『イワン・ワシーリエヴィチは職業を変える』のシグネチャ・ソングだ。この映画は、あのイワン雷帝がタイムマシンで今のモスクワに現れるというドタバタ喜劇。この映画と曲に接すると、ソ連映画とその1970年代の「美学」が好きになるかもしれない。

 この曲が語るのは、現代社会の人々にとって、お互いのことに気づき、本当の愛を見つけることがますます難しくなっているということ。

 映画でその素敵な声を聞けるニーナ・ブロツカヤは、1970年代後半からアメリカに移住しており、現在も活動し歌っている。

 

愛に出会うのは難しい問題。

まるい惑星はぐるぐる回る。

惑星は日々の喧騒のなかを彼方へ飛んでいく

その上で愛するのは簡単じゃない

С любовью встретиться проблема трудная

Планета вертится круглая круглая

Летит планета вдаль сквозь суматоху дней

Нелегко нелегко полюбить на ней

 

*歌詞の全文と翻訳はこちら

 

1980年代

ジャンナ・アグザロワ「古いホテル」(Жанна Агузарова - Старый Отель)、1987年。エクスペリメンタル、ポップロック、グラムロック

 1980年代後半に、ゴルバチョフによって「鉄のカーテン」が徐々に下ろされた結果、ソ連のすべてのジャンルのアーティストが非常な文化的反応を示した。多くのアンダーグラウンドのソ連ミュージシャンは、初めて欧米の音楽を耳にして、それぞれの形で芸術的にインスパイアされ、ソ連の聴衆の人気を博した。

 そうした新たな時代の歌手の一人がジャンナ・アグザロワだ。彼女の強靭で鋭い声とエイリアンのようなイメージは、ソ連音楽の新時代の道を開いた。

 ちなみに、この曲はロシア語の初心者にも適している。ゆったりしたテンポで、歌詞もシンプルであり、動詞の活用と名詞の性の基本形が分かるからだ。 

 

人がまばらな地下鉄の車両、長いトンネル、

夜行のエクスプレスが私を古いホテルへ連れていく。

誰もドアの前で私を待っていないといいんだけど。

夜行のエクスプレス、私を連れていって、早く連れていって。

Полупустой вагон метро, длинный тоннель

Меня везет ночной экспресс в старый отель

И пусть меня никто не ждет у дверей

Вези меня ночной экспресс, вези меня скорей

 

*歌詞の全文と翻訳はこちら

 

アリヤンス「黄昏」(Альянс - ‘На заре’)、1987年 。シンセポップ、ロック

  この歌は主に、ゆっくり発音される名詞と形容詞で構成されているので、その詩的な歌詞は容易に理解できる。歌のすべての単語がふだん使うロシア語の語彙に不可欠だというわけではないが、トラックの魅力的なパフォーマンスは(キーボードプレーヤーの素敵なファッションは、ちょっと時代を超えている感じがする)、あなたの関心を引くだろう。

 この曲は依然として消えていない。ロシア語を話す多くのミュージシャンによってカバーされており、今でもとても有名だ。

 

日の光と心臓の音、

おずおずした眼差しと手の力、

私の夢が天空に星々のように煌めくときが来た。

黄昏に幾多の声が私を呼んでいる。

Солнца свет и сердца звук,

Робкий взгляд и сила рук,

Звёздный час моей мечты в небесах.

На заре голоса зовут меня.

 

*歌詞の全文と翻訳はこちら

 

キノー「前進するための場所」(Кино - ‘Место для шага вперёд’)、1988年。ポップパンク、ロック、ロシア・ニューウェーブ

  この簡潔で劇的な歌は、ソ連のカート・コバーンとも言うべきヴィクトル・ツォイによるものだ。ソ連が崩壊に近づいていた頃の、閉塞感と若者の気分を見事に描いている。ツォイは、カザフのニューウェーブの映画『針』に出演したが、その撮影中にこの曲を書いた。YouTubeの動画は、この映画のシーンを使っている。

 ロシア語を学ぶ人にとって、この曲は、難しい生格(英語の所有格に相当)をマスターし、「私は~を持っている」(у меня есть +名詞の主格)と「私は~を持っていない」(У меня нет +名詞の生格)の言い方を習得するのに最適だ。ここで翻訳、発音、歌詞を見てみよう。

 

僕には家はある。ただ鍵はない。

太陽はある。ただ雲に覆われている。

頭はある。ただ肩がない…

У меня есть дом, только нет ключей,

У меня есть солнце, но оно среди туч,

Есть голова, только нет плечей...

 

1990年代

フィリップ・キルコーロフ「僕のウサギちゃん」(Филипп Киркоров - ‘Зайка Моя’ )、1996年。ポップ、キッチュ

  フィリップ・キルコーロフは、1980年代半ば以来、国営チャンネルの音楽番組を独占し続けているせいで、彼自身が、ロシアの大衆文化と音楽のミームになってしまった。

 「僕のウサギちゃん」は、1990年代のキッチュでぶっ飛んだ、ロシアのミュージック・ビデオがどんなものだったかよく示している。

 とはいえ、ありとあらゆる愛称形と所有代名詞を練習したい学生には、今でも役立つだろう。

 

僕のウサギちゃん(愛しい女〈ひと〉)!僕は君のウサギだよ
僕のお手て!僕は君の指だよ

僕のお魚!僕は君のお目々だよ

Зайка моя! Я твой зайчик

Ручка моя! Я твой пальчик

Рыбка моя! Я твой глазик

 

*もっと全体がよく分かるように、歌詞全文と翻訳をこちらで見てみよう。

 

2000年代

Bi-2「誰も大佐に手紙を書かない」(Би-2 - ‘Полковнику никто не пишет’)、2000年 。ロック、グランジ

  この曲は、ガブリエル・ガルシア=マルケスの小説にちなんで名付けられており、ゆったりしているがドラマティックだ。ロシア語の初心者が、語彙を早く増やしたい場合にぴったり。曲の歌詞は、場所や何らかのモノの簡潔で印象的な描写からなっていて、動詞はほとんど使われていない。

 Bi-2は、アレクセイ・バラバノフ監督の有名な映画『ロシアン・ブラザー2』のために演奏し、それでこのバンドは人気を博した。

 

いくつかの大都市、

無人の列車、

岸辺も底もなく、

一からまたやり直し。

冷たい戦争、

時代は水のようで、

彼は気が狂ったわけじゃない、

君は何も知らなかった。

Большие города,

Пустые поезда,

Ни берега, ни дна -

Всё начинать сначала.

Холодная война

И время, как вода,

Он не сошёл с ума,

Ты ничего не знала.

 

この便利なサイトで、曲の翻訳と歌詞を見ることができる。

 

グリュコーザ(ブドウ糖の意味)「雪が降る」(Глюкоза - ‘Снег идёт’)、2005年。ポップ

  このクリップには、暗い冬景色が出てきくる。そこで物語られるのは、恋人がデートに現れず、フラれた少女。

 女性歌手のグリュコーザは、キャリアの初めの頃は、自分の姿を現さず、オーディオレコーディングにのみ登場した。実際、彼女の風変わりで電子的に処理された声は、コンピュータでアニメ化された、いわゆる「ヤンキー」風の少女と巨大なドーベルマンにぴったりだ。だから、素顔を見せるより効果的だったかも。

 この歌はすべてのロシアの学習者の役に立つ。歌詞が非常にシンプルでキャッチーなため、聴いてすぐに覚えることができるからだ。 

 

雪が降る、雪が降る

頬を打つ、頬を打つ

ひどい風邪で、熱もある

立ってあなたを待っている、ばかみたいに。

А снег идёт, а снег идёт

По щекам мне бьёт, бьёт

Болею очень, температура

Стою и жду тебя, как дура.

 

翻訳歌詞はこちら。

アクアリウム「コップ」(Аквариум - ‘Стаканы’)、2006年。ケルティック・フォーク、ニューウェーブ、フォーク・インディー・ロック

  アクアリウムは、ロシアのバンドの中では最も完成度が高いだろう。シンガーソングライターのボリス・グレベンシコフが常に率いており、1970年代初めからロシアで人気がある。

 このバンドは、音楽上の実験で知られており、なかでも驚くべきものは「コップ」だ。アイルランドの民俗音楽と、ロシアおよびアイルランドの典型的素材を混ぜ合わせている。

 この歌はすべてのロシア語学習者に適している。歌手がほとんどの行を3回ずつ繰り返しているので、とても覚えやすいからだ。

 

テーブルにコップを投げてくれ、

テーブルにコップを投げてくれ、

テーブルにコップを投げてくれ、

そして、他の食器も投げてくれ。

誰もが飲めないと言う、

誰もが飲めないと言う、

誰もが飲めないと言う、

だが僕は飲むと言う。

Ну-ка мечи стаканы на стол,

Ну-ка мечи стаканы на стол;

Ну-ка мечи стаканы на стол

И прочую посуду.

Все говорят, что пить нельзя,

Все говорят, что пить нельзя;

Все говорят, что пить нельзя,

А я говорю, что буду.

 

*歌詞の全文と翻訳はこちら

 

2010年代 

ワレンチン・ストルイカロ「僕たちの夏」(Валентин Стрыкало - ‘Наше Лето’)、2012年。レトロ、エレクトロニック、コメディ 

  YouTubeのおかげで、この歌手はロシアで幅広い人気を得た。彼は、意図的にアイロニカルでアマチュア風のスタイルをとっており、世界中の人気歌手にこの歌を捧げている。

 このクリップで、ストルイカロは、1980年代~90年代への郷愁という世界的なトレンドを先取りしており、早くも2011年に、あの時代のキッチュなルックスと音楽スタイルで演奏した。

 この歌手が、ロシアのハードロックをユーモラスに捉え直していることに注意してほしい。彼の歌詞はもっとシンプルで、しかも陽気だ。

 

ヨット、帆、この世界には僕たちだけ

ヤルタ、8月、僕たちは愛し合っている

ヨット、帆、この世界には僕たちだけ

ヤルタ、8月、僕たちは愛し合っている

Яхта, парус, в это мире только мы одни

Ялта, август и мы с тобою влюблены

Яхта, парус, в это мире только мы одни

Ялта, август и мы с тобою влюблены

 

*歌詞の全文と翻訳はこちら

 

エゴール・クリード「ハートブレイカー」(Егор Крид - ‘Сердцеедка’)2019年。ポップ、ラップ

  エゴール・クリードは、言ってみれば、11歳~40歳の女性に愛される超人気歌手。ジャスティン・ビーバーのロシア版といったところだ。

 この自虐的な筋のクリップでは、ポップスターは、都会の喧騒とストレスを嫌い、もっとシンプルな生活を求めて、農村に出かけていく。ところが、突然、彼は田舎のパワフルな美女に出会って一目惚れし、必死に彼女を追い回し始める。

  長いラップパートはちょっと難しく思えるかもしれないが、コーラスは覚えやすく、語学の練習にとても役立つ。

 例えば、ロシア語では、「スポーツやゲームをする」というときには、英語の「in」に当たる前置詞「в」を使う。

 つまり、「играть в スポーツやゲームを意味する名詞の対格(英語の目的格に相当)」。

 英語で図式化すると、「play IN games and sports」のようになる。

 例えば、「君は僕たちとロシアンルーレットをする」は、

  “Ты играешь с нами в русскую рулетку.”

 このようになるわけだ。

 

ハートブレイカー、ハート、ハートブレイカー、

君は僕たちとロシアンルーレットをする。

5発装填し、1つは空。

君は今までに何人の求婚者を殺したんだ?

Сердцеедка, сердце-сердцеедка

Ты играешь с нами в русскую рулетку

Пять заряженных, один — холостой

Сколько женихов уже убитые тобой, а?!

 

*歌詞の全文と翻訳はこちら