ロシアの子供は習い事漬け: 為になるか害になるか

ヴィタリー・チムキヴ撮影/TASS
 現代のロシアの子供はかつてないほど忙しい。子供の一日の予定表に自由時間がないことさえある。こうした「超絶多忙」によって子供を神童に変えられると思っている親もいれば、子供を通して自分のかつての夢を叶える親もいる。

 「驚異の人々」というテレビ番組に出演した4歳のベラ・デヴャトキナちゃん。驚嘆する大人たちの眼前で、彼女はロシア語、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語での会話と音読を披露し、それから読んだ内容をアラビア語で要約してみせる。ベラの母親によれば、初め両親は子供が英語で自由に話せるようになってほしいと考えていただけだった。10ヶ月の時にフランス語も必要だと判断した。

 まだ話さないうちから、ベラはカードで単語を覚えた。3歳で中国語の勉強、それからスペイン語、ドイツ語、アラビア語の勉強が始まった。今や彼女のレッスンはさまざまな形式で行われている。英語で演劇の練習、フランス語で絵画のレッスン、ドイツ人トレーナーを付けてフィギュアスケートの特訓。ベラのようなケースは例外的だ。一方彼女の両親のようなケースは珍しくない。多くが神童を「作ろう」とし、子供の一日を大人の仕事以上の量の習い事で埋める。

 「声楽は5歳から、演劇と英語は6歳から、チェスは7歳から、バレエは9歳から、それから応用美術のサークルも」とチェリャビンスク州ミアス市の11歳のユリアさんの母親、エレーナさんは、我が子の習い事を説明する。エレーナさんによれば、ユリアさんが学ぶ5年生のクラスでは、全員が習い事やサークルに通っているという。習い事をしていないのはただ一人だけ、それも「健康上の理由」だ。

二大危険要素:無為とスマートフォン

 学校や幼稚園のほか、多くの子供が習い事やスポーツ教室に通っている。首都や百万都市の幸せな親たちのソーシャルネットワークには、習い事に励む子供たちの無数の写真が溢れている。

 ロシア連邦国家統計局のデータによれば、ロシアには14歳以下の子供が3200万人いる。これは全人口の5分の1以上だ。親たちは、子供の未来が輝くことを望んでいる。成功への道を塞ぐ主な障害として大人の多くが挙げるのが、無為と情報テクノロジーだ。

 「子供を何かに夢中にさせられなければ、子供はコンピューターゲームや怠慢で時間を浪費してしまうでしょう」とノヴゴロドに住む4歳のローマ君の母エカテリーナさんは考えている。「私たちの頃はこんなに情報もなかったし、インターネットもコンピューターもありませんでした。それが今では逆に情報がありすぎて、取捨選択の必要があります」と10歳と6歳の娘を持つモスクワのナタリアさんは話す。「もし子供が程よく習い事をしていれば、学校の授業にも、音楽教室にもスポーツにもついていけるでしょう。大事なのは、子供が興味を持つことです。そうすればくだらないことで頭をいっぱいにすることもないし、携帯をいじることもありません」と彼女は考えている。母親たちは、子供時代にテレビが同様に諸悪の根源とされていたことは思い返したくないようだ。

 とはいえすべての子供がはっきりと何かをしたいわけではないので、最初の選択は子供に代わって両親によってなされる。最も責任感の強い親は、年端もいかない頃から子供に習い事をさせようとする。「ヤンデックス」の検索エンジンで「子供をどこにやるべきか」と入力すると、自動的に「……3歳から」という検索候補が現れる。検索結果は実に2億7700万件。

 時には、自身が叶えられなかった夢が選択の動機となることもある。エカテリーナさんは、子供時代に音楽(声楽とピアノ)を習ってみたかった。しかし母親が娘を習い事にやることを認めなかった。今では、彼女の息子のローマ君が音楽(と体操)に取り組んでいる。具体的には歌唱のレッスンだ。「ローマは歌うのが好きです。たぶん母の遺伝子でしょう」とエカテリーナさんは話す。

個人の時間と空間

 もちろん、超絶多忙の子供たちにも自由な時間はある。土日と学期間の長期休暇だ。「自由」とは:土日は両親と過ごす時間で、長期休暇は恒例の課外イベントの時間だ。学校での成績を落とすわけにはいかず、さらに「休暇中の宿題」もある。ロシアの子供は、大人と同じく週休二日制で一年の大半を忙しく過ごし、常に教師、講師、トレーナー、親の監視下に置かれている。

 さらに、2018年9月5日付のロシア教育科学省の通達によれば、学童は課外活動に参加しなければならない。学校ではロシア人には馴染みの「証明書」文化がある。参加しないならば、どこで、どのサークルで、どの教室で習い事をしているのかが記された証明書を提出すること。あるいは健康上の理由から参加できないという証明書が必要だ。

 首都の親たちはこのような手続きとはほとんど無縁だ。課外活動はここではたいてい「任意参加」である。だが地方の教育機関は、教育科学省の通達を守ることにより神経を尖らせている。娘と息子を持つノヴゴロドのアンナさんは、彼らの街では習い事の選択肢が限られており、しかも概して料金が高いと話す。多くの子供が学校の課外授業に通うが、それは参加義務を仕方なく果たしているにすぎない。

 「『常に課題をさせること』は、コントロールが不可欠な場合の解決策ではあります。ですが、負の側面のほうが多いのです」と発達心理学の専門家であるアナスタシア・クレピニナ氏は考えている。「皆そうであるように、子供にも自分の個人的な時間と空間が必要です。子供に存分に走らせ、遊ばせるべきです。するとこれを基礎として、新しいことを知りたいという強いモチベーションが生まれます。これが知力形成の新しい段階となります。さもなければ、折悪しく学習したことを忘れてしまうばかりか、学習プロセスそのものに嫌悪感を抱いてしまいます。」

 さらに彼女によれば、現代の未成年には、常に両親のコントロール下に置かれたことに起因する問題が現れ始めているという。「彼らには責任感がありません。自分で課題をこなすことにも難があります。着替えさえも。常に面倒を見られ、コントロールされてきたことで、子供は自分の中に自立した人間を育むことができなくなってしまうのです。」

 「子供は定期的に課題から解放して携帯電話をいじらせたりどこかへ行かせたりして良いし、そうすべきです。無為は人生の重要な要素です。そうでないと発狂します」とノヴゴロドのアンナさんは考えている。彼女の長女、16歳のヴェーラさんは、小さい頃からダンスに興味を持ち、今はヒップホップダンスを踊っている。長男のイリヤ君(12歳)は自宅で学習し(健康上の問題ではない)、週に2度、自分で選んだトレーニングジムに通っている。

子供はどう思っているのか

 「ホッケーを観るのは好きじゃない。やるのが好き。やってる理由は格好良いから。幼稚園の友達にちょっと羨ましがられる。『すげー、ホッケー習ってんだ』って」とモスクワ郊外のルィトカリノに住む6歳のサーシャ君は話す。タブレットや携帯電話(母親の)にはよく触れ合っている。もっと幼い頃、彼は画面から目を離すことなく2、3時間過ごすことができた。だが今や彼には別の目標ができた。

 サーシャ君は、レッスンで彼に満足感をもたらすのが、自分自身の達成だということをよく理解している。「最近ね、滑ってる時に自分で止まれたの。それまではね、止まるのはぶつかる時だけだったの。でもね、あの時は自分で滑って自分で止まれたんだ。それまではできなかったんだよ!すっごく嬉しかった。」

 ミアス市のエレーナさんの娘、声楽のレッスンがお気に入りのユリアさん(11歳)も、習い事で得られる心の底からの喜びについて話す。「舞台に上がるとすごく怖いけど、皆が拍手をしてくれるから、それで気分が楽になるの」と彼女は言う。ユリアさんは習い事だけに週に12時間を割いているが、彼女はそれが気に入っているようだ。「遊ぶ時間の多い子たちを羨ましく思ったことはあるけど、それでも今通ってる教室がすごく面白いから、『自分の』時間を別のことに使いたくないって思うの。」

 「全部お母さんのおかげ」

 自由な時間を習い事で埋めて自分の子供を神童にできる可能性は高まっているのだろうか。我々は、子供時代の習い事が自分の人生にどう影響したか、また親の役割はどのようなものだったか、大人に評価してもらった。

 イリヤ君の父親、42歳のアンドレイさんは、情報テクノロジーの専門家だ。彼が最初にコンピューターに夢中になったとき、これが一体何なのか、誰も理解できなかった。「親から文句があるとすれば、『コンピューターで目を悪くするよ』とか、基本的にテクノロジー音痴によるものでした。」 だがこのような状況でも、アンドレイさんの母親は彼に習い事が必要だと理解した。「うちの街で最初にできて比較的講習料も高かったコンピューター教室に通うことを提案してくれました。母は、私が気が狂ったようにコンピューターから離れないだろうことを悟ったのでしょう。そしてその予想は正しかった。」とアンドレイさんは言う。

 モスクワのアレクサンドラさん(32歳)は、まさに元「超絶多忙」児童だ。彼女は、自分と弟の予定表が「文字通り毎日」埋まっていたことを記憶している。弟はスポーツ教室に通わされていた。母親にとっては、息子が「力強く育つこと」が重要だったのだ。きょうだい共に外国語教室に通った。子供たちがモスクワ大学に進学するのに役立てばという母親の願いが込められていた。

 アレクサンドラさんにとって最も苦しかったのは、週に3回通っていた音楽教室だった。「大嫌いでした。音感はあったけれど。ソルフェージュとピアノはもう……。家でも母に練習を強いられ、これがまた酷かったんです。結局修了せずに辞めましたね。」それから週に2回の民族舞踊のレッスンと、週末にはギターのレッスンもあった。アレクサンドラさんと弟が学んだギムナジウムでは、演劇、遠足、旅行など、課外活動が盛んだった。

 「過酷だと思います」とアレクサンドルさんは言う。「でも、子供時代を無にされたと思ったことは一度もありません。夏の間は祖母と一緒に村にやられたのですが、そこではずっと無邪気に走り回っていました。時々、なぜ他の(別の学校の)子たちは放課後外で遊んでいるのに私は遊べないのか尋ねました。すると母は、あの子たちは将来店員になったり、もっと酷い仕事に就いたりするのよと答えたものです。実際そうなりましたね。」アンドレイさんと同様、アレクサンドラさんも確信している。「私と弟は人生でいろいろ得ることができましたが、これはすべて母のおかげです。母があれだけのエネルギーを注いで私たちの面倒を見てくれたからです。」

 アレクサンドラさんは現在音楽には携わっていない。彼女は外国語関係の仕事に就いている。だが時々、音楽教室を辞めたことを後悔するという。あと少し頑張っていれば、修了証書がもらえたのだ。だが彼女は母にこのことを話したことはない。「辞めたら後悔するよと常々言われていたものですから。」

 

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