ペトローヴィチって誰?:ロシアの「父称」の不可思議な世界

『イワン・イワーノヴィチとイワン・ニキーフォロヴィチが喧嘩をした話』映画、1959年

『イワン・イワーノヴィチとイワン・ニキーフォロヴィチが喧嘩をした話』映画、1959年

 父親など男系祖先の名にもとづく呼び名、「父称」は、多くの言語に存在するが、ロシア語のそれには、いろいろびっくりするようなことがある。オフィシャルな会話では、名と父称で相手に呼びかけるのに、親しい友人同士は、姓と名の両方を省略して父称だけで呼び合うことがある。こんな使い方でまったく問題ないのだ!いったいロシア人に対しては父称をどう使うべきなのか?混乱を避けるために、ロシア・ビヨンドのガイドをお読みいただきたい。

 国によってさまざまな父称の使い方がある。ほとんどの英語圏の国では、父称はミドルネームとして使われことがあるが、それ以外にも、希望通りのどんなミドルネームでもつけられるし、また全然つけなくてもかまわない。あるいは、名前の中途で止めることさえできる。

 例えば、アメリカの第33代大統領、ハリー・S・トルーマンは、「S」の文字とピリオドだけを(つまり“S.”だけを)両親から与えられた。だから、この「S」は何も表していないのだ!

 また他の国では、状況がかなり異なる。アイスランドでは、姓はまったくない。例えば、有名な歌手ビョークの名はビョーク・グズムンズドッティル(Björk Guðmundsdóttir)。これは「Gummundの娘」を意味する。文化が違えば父称も違うわけだが、ロシアはどうだろうか?

 

こんにちは、イワン・イワーノヴィチ

 大多数のロシア人は、父称をもっており、これは、パスポートなどの公式文書に、一種のミドルネームとして記されている(父称はロシア語で「otchestvo」という。父「otets」から来ている)。ロシア人に父称がないケースは稀で、それはその人が外国にルーツをもつことを示す。

 ロシア人の父称は、男性の場合は -ovich、 -evich、 -ichの語尾を、女性の場合は-yevna、 -ovna、 -ichnaの語尾をもつ。いずれになるかは名前次第だ。

 例えば、ピョートルという男性に、エカテリーナという娘とイワンという息子がいたとしよう。とすると、娘の名と父称はエカテリーナ・ペトローヴナ、息子はイワン・ペトローヴィチとなる。もし父がイリヤなら、娘はエカテリーナ・イリーニチナ、息子はイワン・イリイチである。

 

礼儀正しくありたいなら

 職場では、人々はお互いに名と父称で呼び合う傾向がある。それが丁寧だからだ。もしオフィシャルな会話で敬意を表したいのなら、名だけでなく父称も使ったほうがよいだろう(もちろん、あなたが相手の父称を知っていればだが)。若い人は、年配者に名と父称で呼びかけることが期待されているから、そうすれば年配者に対して敬語的な効果がある。

 例えば、あなたが診療所にいるとしよう。あなたが用紙に正しく記入しなかったので、不機嫌そうな女性の医師からガミガミ文句を言われたと。そのとき、もしあなたが相手の名札を見て、名と父称で呼びかければ(例えば、ダリア・セルゲーエヴナとか)、彼女の心は溶けるだろう。とくにあなたがロシア語と悪戦苦闘している外国人なら、ハートがとろけるに違いない。


親愛なるレオニード・イリイチ

レオニード・イリイチ(ブレジネフ)

 父称は、ロシア文化のなかに深いルーツをもっている。文学について言えば、トルストイ、ドストエフスキーその他の19世紀の文豪が書いた作品では、ほとんどすべての登場人物たちがお互いを名と父称で呼び合う。それらの登場人物は貴族で教養ある人々だからだ。

 もっとも、ニコライ・ゴーゴリには『イワン・イワーノヴィチとイワン・ニキーフォロヴィチが喧嘩をした話』という作品があるが、これはロシア人にも、一見やりすぎのように思える。これは、二人の友人が些細なことで大喧嘩する皮肉な話で、このやりすぎでうまい効果を上げている。

 これと関連するが、父称を過度に使用しないことが重要だ。使いすぎると、皮肉が込められていると思われかねない。それというのもソ連では、ウラジーミル・イリイチ(レーニン)、ヨシフ・ヴィッサリオノヴィチ(スターリン)、レオニード・イリイチ(ブレジネフ)など、指導者の名前が絶え間なく言及されるのに飽き飽きしていたからだ。だから、例えばブレジネフを「我らの親愛なるレオニード・イリイチ…」と呼ぶのは、数多くのジョークに見られるように、この指導者をあざ笑う方法にもなり得た。

 

友達とのおしゃべりでは?

 こうした父称に込められた敬意とは矛盾するようだが、父称は、友人の間で使用される場合は、別の側面をもっている。つまり、父称が一種のニックネームになるのだ。さっき出てきたイワン・ペトローヴィチが同僚のアンドレイ・セルゲーエヴィチとバーでくつろいでいるとしよう。二人はたぶんお互いを「ペトローヴィチ」、「セルゲーエヴィチ」とだけと呼んで、ビールを二、三杯ひっかけた後で、自分たちの妻や仕事や天気について愚痴を言い始めるだろう。これは、全然オフィシャルなケースではない。

 しかしこういう呼びかけ方は、男性しかしない。いくら親しくても女性同士がこんな風に呼び合うことはない。女性がこういう使い方をするとしたら、非常に年配のバーブシカ(おばあさん)たちが、ベンチに座りながらお互いを「ペトローヴナ」とか「アンドレーエヴナ」とか呼んでいるようなケースくらいだ。

 おそらく、父称について最も重要なことは、ロシア人は外国人がその使用に慣れていないことを知っている点だ。だから、父称を省いて、つまりイワン・ペトローヴィチではなく単にイワンと呼んでも問題はない。

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