今日の世界では、ある食品にすっかり慣れ親しんでしまい、祖先が持っていたような価値を見出せないものがある。たとえば、バターがそうで、今ではどの家庭の冷蔵庫に入れられている。しかし、何世紀も前には、バターは手に入れることはとても困難で、しかもそれは大変高価であった。
ロシアでバターに関して最初の記述がなされたのは13世紀で、それはノヴゴロドとドイツ人商人間の貿易関係の文書の中に登場する。ロシアの村落では、脂肪分が多いサワークリームもしくは古くなった牛乳からバターを作っていたが、もっとも美味とされていたものは、普通の生クリームを女性が乳鉢と乳棒で泡だたせて作ったものだ。
このようなバターは長く保存をすることが出来ず、なにか特別な機会か客人をもてなす時に作られた。そして、長持ちさせるためにしばしば溶かして保存され、このようなバターは「ロシア・バター」と呼ばれた。17世紀になると、ロシア人は同じ目的のために塩を加えるようになった。
19世紀になってようやく、ロシアにおけるバター製作に大きな進歩があった。これは主にチーズ製造業者ニコライ・ヴェレシチャーギンによるものだ。パリを訪問中にノルマンディー製のバターを口にして、独自の製造法を編み出したのである。
結果は驚くべきもので、それはヨーロッパで「ペテルブルクのバター」として知られるようになった。しかし、ロシアではしばらく後になって「ヴォログダ・バター」として広まった。この製造法のポイントは生クリームを沸騰する直前まで熱することだった。こうすれば、低温殺菌された上、新鮮なミルクの香りを保つことが出来た。
ロシアの文学や民話の中でバターは特別な意味を持つことがある。そしてバターは多くの諺に使われている。たとえば、「To butter」とは誰かを喜ばすという意味だし、「バターの入ったチーズのように」とは贅沢な生活をするという意味だ。
店に行けば簡単に手に入るのに、どうしてわざわざ家で作る必要があるのだろうと思う人がいるかもしれない。でも、その価値は十分ある。信じてほしい。例をとって言えば、私の叔母は農家から生乳を買ってきて自分で生クリームを取り出し、自家製バターを作っている。
家で作ったバターが店で買ってくるものと味が全然違うことに驚くだろう。今では、ロシアの昔の農村のように乳鉢でかき回す必要はない。ここでは、高脂肪分のクリームとミキサー、それに15分の時間が必要なだけだ。とても簡単で、とても美味しく出来る。
材料(バター300グラム):
- 生クリーム(35~40%) 600ml
作り方:
1. 冷やした生クリームをミキサーに入れ、なめらかになるまで、ミディアムで3分ほど混ぜる。
2. 少しどろっとしてきたら、スピードを最大まで上げ、7分ほど混ぜる。バターのように固くなってくるのが分かる。ボウルに水分が出てきたら、それはバターミルクである。
3. ボウルの中身をゆっくり濾す。バターの塊を壊さないこと。その方が流しやすい。バターの入った漉し器に冷水をかけ、バターミルクを落とす。
4. バターミルクはとっておいて、パンケーキを焼いたりするのに使うこともできる。
5. すべての水分とバターミルクの残りを取り除くためバターを冷たい手でしぼる。
6. ガラスかセラミックの瓶、あるいは棒形の型に入れる。
7. ここでは木製のスパチュラのついたバーの形にした。
8. 冷蔵庫に入れれば、1~2週間保管できる。新鮮なパンか熱いおかゆと一緒にどうぞ。