サイカはイースト生地から作るスラブの伝統的な楕円形の菓子パンである。サイカという名前は、「白いパン」を意味するエストニア語のサイから来ており、ノブゴロドの商人が16世紀にバルト海国家の料理のレシピを持ち帰ったのだと考えられている。そして、小麦粉から作られた楕円形の小さなパンはすべてサイカと呼ばれるようになり、実際に何十ものレシピや種類が存在している。フィリッポフ・サイカは、私がとても好きなサイカで、レーズンを惜しみなく加えた、濃厚な甘い生地から作られ、とても柔らかくふかふかの食感である。
この有名なフィリッポフ・サイカの歴史は伝説的なモスクワのパン職人と商人イワン・フィリッポフがいくつかのパン屋を開いた19世紀に遡る。その当時は、その最高のパン、カラチやサイカはモスクワで一番と考えられ、イワン・フィリッポフは「モスクワのベーカリー王」と呼ばれていた。彼のパンはとても人気があり、アレクサンドル2世の公式の食卓にも上った。さらに、フィリッポフはパンを冷凍する独特の方法を考案し、自分のパンを遠くシベリアの土地にも送ったのである。
もともとフィリッポフ・サイカにレーズンは入っておらず、一種のシンプルな濃厚なパンであったと考えられている。このパンの最大のファンの1人は、モスクワ州知事であったアルセーニー・ザクレフスキーで、彼は毎日欠かさずこれを朝食に食べていた。言い伝えによれば、あるよく晴れた朝、知事は焼き立てのサイカに小さなゴキブリが紛れ込んでいるのを見つけた。たいそう怒った彼は、すぐさまフィリッポフを呼びつけ、この不愉快な出来事の説明を求めた。パン職人は、その場の思い付きで、それはゴキブリでなくレーズンであると申し開き、それを証明するために、自らパンを口にし、最後まで食べた。この日、フィリッポフは初めてレーズン入りのサイカを焼き、自分の言い訳が正しいと知事に知らしめたのだが、このレーズン入りサイカが元の何も入っていないシンプルなもの以上にたちまち大人気となった。
レーズン入りサイカのレシピはとてもシンプルで基本的なものだが、なくてはならないふかふかの食感を得るためには、いくつかのコツがいる。ポイントは、イースト生地を寝かしてこねる作業を少なくとも3回は繰り返すことだ。十分時間をかけてこの作業をすれば、甘くて最高においしいお菓子ができあがること間違いなしである。
1.大きめのボウルに室温に温めた牛乳とイースト、大さじ1杯の砂糖を入れる。大さじ山盛り5杯分の小麦粉を入れ、なめらかになるまでよく混ぜ、清潔なふきんで覆い、ふっくらしてくるまで暖かい場所に30分ほど置いておく。
2.次に残りの砂糖、温かいバター(熱くしないこと!)、卵2個、バニラシュガーまたはバニラエッセンス、塩を加える。すべて混ぜあわせ、小麦粉を大さじ1杯ずつ加えながら、混ぜる。
3.生地が柔らかく、のびがあり、少しくっつくくらいになるまで、小麦粉の量を調整する。最後にレーズンを生地に加える。レーズンは前もってふやかし、乾燥させておくこと。前日の夜にするとよい。
4.生地を丸くまとめたら、きれいなボウルに入れ、ラップし、温かい場所に1時間置いておく。生地が2倍の大きさに膨らんだら、空気を抜き、もう一度ラップをかぶせてもう1時間置いて膨らませる。
5.生地を8–10等分し、それぞれを楕円形にまとめる。たっぷりバターを塗った天板にサイカを並べ、ふきんで覆い、20分ほど置いておく。ちなみに、卵黄1個分に水大さじ2杯ほど入れたものを塗れば、ツヤを出すことができる。
6. 180℃のオーブンに入れ、表面が黄金色にツヤツヤしてくるまで30–40分焼く。温かいサイカにバターを塗ったら、1杯の紅茶と一緒にどうぞ。プリヤートナヴァ・アぺチータ!(どうぞ召し上がれ!)
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