ロシア的ガストロボタニカ:ゴボウは何と一緒に食べるか、シュロで何を作るか?

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 アンドレイ・コロジャジヌィさんはガストロボタニカを専門とするシェフだ。草の摘み方やレニングラード市民を飢餓から救ったフトイをどのように調理するのかを、ロシアのどんなシェフよりも正しく知っている。

 モスクワに新しくオープンするレストラン「モスクヴィッチ」のブランドシェフで、かつてはソチ(モスクワの南1,600キロ)にある「バラン・ラパン」のシェフだったアンドレイ・コロジャジヌィさんは長年、草やベリー、木について研究を重ね、それらを自分のメニューに取り入れてきた。ロシア・ビヨンドの取材に対し、コロジャジヌィさんは、人々に忘れ去られてしまった食材をどのようにメニューとして出すようになったのかについて、また「モスクワ中心部の農場」をオープンする計画について話してくれた。

− どのようにしてガストロボタニカに行きついたのか?

 かれこれ10年以上やっています。ずいぶん前からわたしたちは野生のヨーロッパノイバラやクルミ、さまざまな草を摘みに出かけていました。人生の大半を過ごした南方の地域の自然の豊かさと恵がそんな気分にさせてくれるのです。あるとき、もうレストランで働いていたときのことなのですが、ラズベリーのムースにタイムの泡を飾ろうと思ったのです。この組み合わせは良い効果を生み、わたしはそれが気に入り、以来、食べられる植物を多用するようになったのです。

 それからさらに深く追求するようになり、レストラン「Noma」と「Geranium」(コペンハーゲンにある世界的に有名なレストラン)でも修行を重ね、今は伝統的な意味でのガストロボタニカの枠を超えたと思っています。この専門用語はスペインのシェフ、ロドリゴ・デ・ラ・カジェが提唱したもので、消えつつある植物を栽培し、伝統を復活させることを意味するものです。わたしたちはもう少しこれを進めて、野生の草や植物の研究も始め、季節性を調べていきました。そしてそこにさらにロシアの植物学も加えました。「食べられる草花」という1960年代に研究所が出版した本を持っているのですが、こうした文献にも頼ることもあります。

 

− こうした研究は先人たちがやってきたことですが、そうした過去の経験を参考にすることはありますか?

 これらの知識の9割はすでに失われてしまっています。どこかの村ではおばあさんやおじいさんがどんな植物が食べられるのかを調べて、草を集めたりはしています。また科学として、これを研究している人もいて、わたしたちもモスクワ学術研究所の2人の薬草専門家と協力関係にあります。こうした活動の意味は、失われたもののすべてを復興させることです。8世紀に食されていて、わたしたちがまた食材として復活させた澱粉が豊富なフトイは、レニングラード(現サンクトペテルブルグ)封鎖のとき、人々を飢餓から救ったものです。

 

− シベリアやアルタイなどを始め、ロシアの自然がもつ潜在力をどのように評価していますか?

 わたしたちの国は広大で、地域によってさまざまな草が、あるところではたくさん、あるところでは少なく生えています。わたしは少しずつ新たな場所を開拓しています。アルタイに調査に行きましたが、ここ数年の間に完璧に調査を終えたカフカスと比べて、アルタイの植物の70%はソチと同じものだということが分かりました。

 モスクワに来てから、まずモスクワ州の草花の調査を始めました。モスクワから120キロほど離れたところです。ロシアの自然は非常に豊かで多様です。もっと言えば、ソチにはサフランが生育していて、自分の手で摘むことができます。トリュフもあるんですよ。

 

− 逆に西側にはないロシアの植物というのはあるのでしょうか? 

 わたしが見た感じでは、ニースの植物はソチのそれと似通っていますし、コペンハーゲンの植物はペテルブルグのものに近いです。最近モナコで開かれたフェスティヴァル「ロシア・フランス・ガストロノミック・シーズン」では、わたしが依頼していた草花のすべてを調達することができました。多くの植物は似通っていて、違っているのはその季節性です。たとえばモナコの植物園ではウチワサボテンがたくさん咲いていましたが、ソチではウチワサボテンはもう終わっている季節でした。

 ロシアでは基本的になんでも見つけることができます。それぞれの草や花には自然のサイクルがあり、わたしはそれを知るための表を3年かけて作りました。もっともそれは南方を基準にしたものではありますが。現在は中央部で生育している植物の表を作っているところです。今後はこの表に基づいて作業していくことになります…。

 

− 料理に使う草花はどこから仕入れているのですか?

 自分たちでやっています。1週間に1回か2回、草を摘みに出かけています。自然のあるところに行き、自分たちの手で集めるのです。失敗することもありますが、わたしたちはレストランのお客さまを相手に実験することはありません。試すときは自分たちでまず食べています。

 

− 草以外にはどんなものを使っていますか?

 ベリーですね。よく使うのはツルコケモモとコケモモです。モスクワでは、たとえばウワミズザクラを初めて知りました。これは南方にはない植物です。あとは白樺の樹液と辺材、つまり白樺やもみの木の樹皮です。ソチではシュロの粉を作りました。

 

− あなたはロシアでのこの分野の先駆者ですが、この新たな試みは店の客にどんな風に受け止められていますか?

 最初はこれらの料理を自分が勤めるレストランのメニューには含めていませんでした。人々は基本的に理解していませんでした。ソチのレストラン「バラン・ラパン」で初めて、ガストロボタニカ的な食材を出すようになりました。しかし最初は別の親しみのある食材と組み合わせて少しずつ試していきました。たとえば基本の料理であるビーフストロガノフでは、ジャガイモではなく、ゴボウとジャガイモでクリームを作りました。それからジャガイモの分量を減らしてゴボウの量を増やしていき、徐々に慣れ親しんでもらったわけです。またわたしたちはかぼちゃ、ジャガイモ、肉などのメインの食材との相性はあまり考えず、料理を美しく見せるため、花や草でお皿を飾ることが多いです。

− モスクワで「モスクヴィチ」というレストランをオープンされますが、訪れる人をどんな風に驚かせようと思っていますか?

 オープンは3月を予定しています。わたしはこのレストランを「モスクワ中心部の農場」と名付けています。店にはチーズ製造所もあり、グリル料理とガストロボタニカ料理を用意します。それからパンを使った実験もたくさんしています。草入りのパンやカフカス風パン、イーストのパン、他の食材を混ぜ込んだパン、3–4種類の粉を使ったパンなどです。

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