モスクワの「ヤンデクス ・ラフカ」デリバリーサービス
Belitsky Anton/TASSInfoLineの評価によれば、2023年までにロシア国内におけるオンラインを使った食料品の売り上げは年間2,000億ルーブル(およそ340兆円)に達する。ロシアのインターネット会社「ヤンデクス」は2019年8月に食料品のデリバリーサービス「ヤンデクス・ラフカ」をスタートしたが、そのサービスの速度は市場を驚愕させている。どのようにしてここまでのスピードを実現できるのか、確かめてみた。
「ヤンデクス ・イェダー」の拠点
Maksim Blinov/Sputnikヤンデクス は2020年の2月初旬までに、モスクワで、最大150平米のいわゆる「ダークストア」形式(実店舗とは異なるネット販売専用の物流センター)の小さな倉庫のある拠点を確保した。各拠点にはさまざまな消費者の需要を考慮した1,500から2,000点のさまざまな商品が保管されている。たとえば、それぞれの拠点には、普通の牛乳だけでなく、豆乳、オートミルク、無脂肪牛乳、ココナツミルクなどいくつかの種類がある。また倉庫にはヤンデクス と契約しているレストランで調理された料理、レシピ付き料理キットなども用意されている。
しかしこれがすべてではない。各拠点には小さな調理場が設置されており、依頼があれば、無料でそこにある半加工品を使って、温かい料理を作ることもできるようになっている。
さらに必要に応じて、食料品以外に、洗剤や衛生用品、ペットフード、電池、電気コードの延長線なども宅配してくれる。
各拠点にはスタッフが待機しており、オーダーが入ると3~4分で商品を用意する。商品の準備ができた頃に配達員が拠点に到着し、セットされた商品をピックアップし、自転車で発送先に向かう。すべての食料品は紙袋に入って届けられる。
各拠点からの配達範囲は1.5~2キロ、あるいは自転車で10分以内となっており、これにより15分で商品を届けることが可能となっている。しかも「ヤンデクス ・ラフカ」はこれ専門の配達員というものを用意せず、レストランのメニューを宅配する大手サービス「ヤンデクス ・イェダー」での経験を持つ配達員たちを使うというシステムを使っている。
デリバリー料金は無料だが、今後、需要が高まっていけば、配達無料のための最低注文金額が設定される可能性もあるという。最低金額は100~300ルーブル(およそ170~520円)と想定されている。
「ラフカ」の平均の発注金額は600~1,000ルーブル(およそ1,000~1,800円)となっている。広報によれば、もっとも発注されるのが多いのは飲料水(5リットルまたは1.5リットルボトル)、卵、牛乳、バナナ、レモンだという。
119ルーブル(およそ200円)のサーモン入りクロワッサンを注文してみることにしたのだが(ちなみに近くのカフェで食べるとおよそ200ルーブル=およそ350円)、さっそく問題に直面することになる。わたしの職場があるモスクワの中心部には「ラフカ」の拠点がほとんどないのである。「ラフカ」は2020年までにモスクワにさらに200ほどの拠点を増設し、またペテルブルクでの食料品のデリバリーを開始するとしているが、わたしはその間にも母親の職場に同じクロワッサンをオーダーする。時計は15:03を指している。デリバリーの進捗状況はその都度、スマホのアプリで知ることができる。
梱包と配達員への受け渡しにおよそ2分。そして配達員がオフィスに行くまで、わたしは10分ほどアプリを見ていた。するとそのとき、配達員はまだ配達し終えていないのに、突然、向きを変え、拠点に戻っていった。時間は15:25。わたしがオーダーしたクロワッサンは視界から消えてしまった。
配達員に電話する。
「ええ、あなたのオフィスが見つからなくて、拠点に戻ったんです。しかしこの住所の方にはオーダーがたくさんあるので、すぐに戻ります」。
クロワッサンが戻ってきたのは15:34。15分から20分で届くはずのデリバリーに31分かかったことになる。
「今、確認します。そんなはずはないので」と「ラフカ」のプレス部が答える。また、規則では、配達員は発注主を10分待つことになっていると知らせてくれた。
また会社側は「そのようなことが起きることはほとんどなく、デリバリーの遅れや発注主と連絡が取れないためにキャンセルするといったようなことが起きる確率は非常に低い」と付け加えた。
「ヤンデクス ・ラフカ」のようなサービスの登場は、消費社会の重要な進歩を反映したものである。「ヤンデクス ・ラフカ」のプレス部は、利用者たちはより衝動的に買い物をするようになったと指摘する。
「人々はスーパーに出かけて、1週間分の食料品を買い込むというようなことをしなくなっています。つまりヤンデクス・ラフカは、店舗と競い合っているのではなく、言ってみれば、冷蔵庫と競い合っているのです」とプレス部のエレーナ・ノヴィコワ部長は述べている。
配達のために使われているスクーター
Belitsky Anton/TASSノヴィコワ部長によれば、「ラフカ」の最終的な目標は、利用者が必要なときに、新鮮なものをすぐにオーダーでき、食料を保存しておかなくてもいいよう、瞬時に要求に応えるようになることだという。
オンラインショッピング企業連合のリヤ・レヴィンブク副代表は、ロシアでは、オンラインによる食料品販売の売り上げは年々増加しているが、通常の店舗に脅威をもたらすものではないとしている。
「わたしたちにとって馴染みのあるお店が閉店されることはないでしょう。ロケーションや店舗の大きさは変わっていくことはあっても、店舗そのものはこれからもオンラインショップよりも多く存在することになるでしょう」とレヴィンブク副代表は述べている。
一方、リテール市場専門家協会のアンドレイ・カルポフ理事長も、今後10年の間に大量の店舗が閉店するというようなことはありえないと確信を示す 。「もちろん、仮定として、いつか一般の店舗が消滅すると考えることは可能ですが、わたしたちが生きている間にそうなることは絶対にないでしょう。オンラインでの食料品の売り上げは一定の割合で伸びるとは思いますが、それが近い将来50%にまで増えるとは思えません」。
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