ウォッカの国のワイン

ソ連の学者は収穫量が多く、低温に強い品種のぶどうを何とかつくることができた。=ミハイル・モスダーソフ撮影

ソ連の学者は収穫量が多く、低温に強い品種のぶどうを何とかつくることができた。=ミハイル・モスダーソフ撮影

ロシアやCIS諸国以外の国の人にとって、「ロシア・ワイン」とはどこか奇妙な響きがあるかもしれない。まるで「シャンパーニュ・ウォッカ」のように。 ただ、世界有数の人気を誇るグレイグース・ウォッカは、シャンペンやコニャックで有名なフランスのプロバンスでつくられているから、実在する「ロシア・ワ イン」にもいつか世界で認めてもらえるチャンスはあると言える。「ロシア・ワイン」とは一体どのようなものなのだろうか。

 スターリンがつくったプロレタリアート向けのワイン 

 ロシア人がワインでもてなしてくれたら、ほとんどの客人はその味を気に入らないか、おかしな印象を受けるだろう。ロシアで今日販売されているワインの 80%は半甘口だ。辛口ワインは酸味があるとされているため、ロシア人はあまり好まない。ロシアのワインがいくらおかしな味でも、ソ連崩壊後20年以上経 過した今なお、普通に愛され続けている。こんな”独特の”ワインをつくったのはスターリンだ。

 今となっては信じがたい話だが、国際ぶどう・ぶどう酒機構の1950年代末のデータによると、ソ連はブドウ園面積で世界5位、ワイン生産量で世界7位を 誇っていた。ソ連のワイン生産の歴史がまだ浅かった1930年代、スターリン書記長(当時)はこの分野を強烈に後押しした。スターリンはグルジア人、ミコ ヤン商工人民委員はアルメニア人と、どちらの政府高官も、古代からワインをこよなく愛していたコーカサス地方の出身者だった。現代の考古学的発掘活動か ら、グルジアとアルメニアのワインの生産文化は、古代ギリシャのワイン文化よりも古いことが明らかとなっている。

 

 ぶどう糖やエチル・アルコールを混ぜて甘口に 

 ソ連で産業化が起こった時代、さまざまな食材の大衆需要を満たすため、食料プログラムがつくられた。ここには、1917年まで貴族しか入手できなかった ワインも含まれていた。ソ連は土地が広いという、ワイン生産に必要な条件を満たしていたにもかかわらず、質の高いぶどうを育てられるような土壌があまりな かった。政府が目指していた、国民の誰もが購入できるような価格のワインにするには、原価を抑えるという課題もさらに解決しなければならなかった。

 学者も巻き込んで、収穫量が多く、低温に強い品種のぶどうを何とかつくることができた。ただ、このようなぶどうから作られたワインは、酸味が強すぎる、 風味がない、といった欠点があったため、ここを補うために、ぶどう糖やエチル・アルコールが加えられるようになった。この技術はいまだに広く採用されてい る。

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ロシアのワイン

 今のところマイナーな質の高いロシア・ワインを製造している、「シャトー・ル・グラン・ヴォストーク」取締役会長のエレーナ・デニソワ氏はこう話す。 「イランやイタリアでは、質の悪いぶどうやジュース工場の残りから、濃縮物をつくっている。これは要するに、純度の低いぶどう糖で、おいしくないワインをカモフ ラージュできる、最高の材料だ。酸っぱい“ワインもどき”を発酵させる時にこの濃縮物を加えるか、またはひどい味を整えるために、発酵し終えたワインに混 ぜている」。

 1930年代はソ連にワイン文化がなかったため、プロレタリアート(無産階級)はこの新しい飲み物を喜んで飲んでいた。以来80年が経過したが、ロシア人の甘いワインに対する愛は変わっていないようだ。

 

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 国内では2006年ごろから、舌の肥えた世界のワイン愛好家にふるまっても恥ずかしくないような製品を製造する、ワイン醸造所が現れ始めたからだ。中でも目立っているのが、黒海沿岸の港町ノヴォロシースクの前山にある、アブラウ・ ジュルソだ。=ミハイル・モスダーソフ撮影

 ロシア市場で人気のワインは今も甘口 

 ロシアぶどう栽培家・ワイン生産者組合のデータによると、ロシアのワイン市場では現在、半甘口ワインと甘口ワインの割合が全体の80%を占めているとい う。また、格安ワイン部門がもっとも大きく、そのシェアは90%を超える。ロシア連邦国家統計局のデータによると、ロシアの格安ワイン市場の規模は4億 8510万本である。うち国産品は63.2%を占める。

 販売量上位10社のうち7社が、一番安い1リットル紙パックのワインを製造している工場だ。このようなワインの1リットルあたりの価格は3ドル以下であ る。ロシア連邦アルコール市場規制局は1ヶ月前、クラスノダール地方にある大手5工場のうち、3工場のライセンスを停止した。理由は製品を検査し、国の基 準にも国際基準にも合わない、偽物のワインと判断したためである。

 質の高いロシア・ワインの製造者はかなり前から、1本4ドルほどの最低限の価格のワインを国内店に納入しているが、格安ワイン部門では競争できるところがないため、ビジネスはうまくいっている。

 ロシアのワイン製造者の昨年の販売量は、度数の高いアルコールの製造者や、ビールの多国籍製造者の販売量を下回った。統計局のデータによると、国内のワ イン生産の下落率は昨年、9.2%にもなった(ウォッカの生産量は13.2%増加)。ただ、ワインの輸入量は4.5%増加しており、特に高品質ワインのカテ ゴリーでは昨年、2.4倍となる6040万本まで増えた。

 

 一筋の光 

 このような状態でも、世界のワイン地図からロシアを削除する必要はない。国内では2006年ごろから、舌の肥えた世界のワイン愛好家にふるまっても恥ず かしくないような製品を製造する、ワイン醸造所が現れ始めたからだ。中でも目立っているのが、黒海沿岸の港町ノヴォロシースクの前山にある、アブラウ・ ジュルソだ。

 また、質の高いワインの生産を目指し、国のライセンス要件を余裕で満足している会社の中では、「シャトー・ル・グラン・ヴォストーク」、「レフフカジ ヤ」、「ヴェデルニコフ」などをあげることができる。また昨年には、国内の醸造所13ヶ所の55種類のワインについて説明書きのある、初のロシアのワイ ン・ガイドが発行された。このガイドブックの作成には、ロシアの一流ソムリエが参加しており、偉大なロシアのワインの登場もそう遠くはないと述べている。

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