日本と違いすぎる”転職事情”とは

「ロシアNOW」のオフィス

「ロシアNOW」のオフィス

=セルゲイ・ファデイチェフ/タス通信
 モスクワのレストランで働く店員を見た父がこう言った。「ロシア人は、今より1円でも高い給料の仕事が見つかればすぐに転職を考えるイメージがあるな」。”1円でも”という点はあくまで極端な表現としてではあるが、ロシアの転職事情に関心を持つきっかけとなったのがその父の言葉であった。今回、転職に関する興味深いインタビューを通して感じたロシアの魅力を、日本との違いを踏まえながらまとてみた。

 「同じ職場に埋もれたままじゃ、成長できない」。爽やかな笑顔のアレクセイさんはこう語る。現在31歳にして4回の転職を経験したそうだ。政治関連の職に就いた後、コピーライターとして企業を転々とし、現在メディアに就職して4年目だ。複数の企業での就業経験を持つ例は珍しくなく、ロシアでは転職が頻繁に行われるという。

 物腰のやわらかなナタリアさん(25)は、転職経験はないが職についてこう考える。「卒業後も続けられる仕事を見つけたい、もしくは生活費を稼ぎたいという理由で大学在学中から仕事をする人も多くいます。しかし、それは一時的な職であることが多いため、しばらくしたら転職して新しい職場を見つける人が多いのではないでしょうか」

 

職種ごとの違い

 転職する際の職の見つけやすさは、希望する業種と求める地位による。とてもフレンドリーで気さくなマリアさんに話を聞いた。何度かの転職経験を持つ彼女は、今まで就いた職は全てメディア関連だという。今までのメディア経験を存分に生かせばより高いレベルのものを作り出すことができるため、転職のたびに経験と知識を積むことができる、と語った。

 彼女の職探しは簡単であったとはいえないが、早くて3ヶ月、長くて1年で次の職を探すのが通常だそうだ。

 もちろん、転職が上手くいかない場合もある。優良企業の銀行で高い地位に就いて10年間勤めた後、より高い待遇を求めてその職場を退職したケースもあるそうだ。その男性は退職後なかなか条件の良い職場が見つからず、5ヶ月かかって新しい銀行に就職。しかし新しい職場に満足できず、転職したことを後悔しているという。

 

転職の理由

 なぜ、ロシアでは転職する人が多いのだろうか。

 モスクワで働くロシア人への取材を行った結果、転職理由には

  • 給料
  • 労働環境
  • 出世のチャンス
  • マンネリ化

の4つが主に挙げられた。

 まず、より高収入の仕事を求めて職場を変えるケースが非常に多く見られた。同じ職場で給料UPを期待して待つよりも、転職によってより良い給与条件の元で働くスタイルをとる人が多いことが分かる。

 次に、労働環境が挙げられる。例えば、通勤が長さが大変だとを感じ始めた。エレベーターが備え付けられていないため階段を毎朝利用する必要があった。同じ職場の社員と気が合わなかった。外国人と働ける国際色豊かな職場に変えたかった、等々。

 取材した方々の話によると、実際にはこのような理由が転職を考えるきっかけだったそうだ。

 転職の習慣が浸透していない日本では、このような労働環境への不満は第一に我慢する部分であるが、その一つ一つの我慢が近年の大きな問題に関わっていることを考えると、ロシアのような転換の早さはストレスを不必要に生まない最も効果的な方法であると感じる。

 3つ目に、出世のチャンスだ。転職が頻繁に行われるといえども、出世する望みがない訳ではない。今の会社にいても地位が高くなることはないだろうと感じれば、新しい空気を求めて同業種の企業に転職、もしくはグローバル企業への転換を図るそうだ。

 最後に、最も印象深かったのは「マンネリ化」による転職だ。ロシアでは「3,4年も同じ職場で働いていては飽きてしまう」という共通認識があるようだ。

 2度の転職を経験するアンナさんはこう語る。「好きなら残る、気に入らなければ動く。それだけのこと。もし今の職場が自分に合っていなくても、日本人の皆さんはそのまま我慢するのですか?」

 モスクワの企業で働くロシア人への取材の中には、”boring” ”restricted” ”limited” という言葉が繰り返された。そのようなマイナスな状況を脱却し、自分を最大限に成長させるための手段としての転職なのだろう。

 

就活事情

 これほどまでに日本とロシアの転職事情が異なると、ロシアの「就活事情」も気になる。

 日本の学生にとっての就活は”戦争”と言っても過言ではない。リクルートスーツに身を包んだ学生が大学の授業を犠牲にしながら企業に赴く光景は、日本では当たり前の儀式だ。

 しかし驚くべきことに、ロシアでは大学卒業後から就職について考え始める学生も多い。卒業後に1,2ヶ月あれば、企業を見つけてそこで働き始めることも十分に可能であるためだ。職探しへの不安や焦りは日本と同様にあるものの、ロシアでは「就活=追い込まれるほど辛い」という振り切ったイメージはない。

 ロシアにおける「flexsearch」人材紹介会社によると、近年の傾向として国内企業よりも外資系企業を志望する学生が増えているという。

 最近はコンサルティング企業の人気が上昇しており、IT、電子商取引、FMCG (日用消費財)の企業も若者からの人気が出てきたそうだ。

 就職した企業が自分にぴったりの場所であるとは限らない。「Push forward. (前へ進む)」 「Develop myself. (自分を成長させる)」というアレクセイさんの言葉が印象に残る。

 転職は、会社に新しい刺激を与えることも、自分をさらに成長させることも可能だ。ロシア人の職に対する考え方を知ると、転職は日本人が思っているほど後ろめたいことでも、してはいけないことでもない、と新しい気付きを得ることができる。

 

日露の違い

 今回の取材を通し、ロシア人と日本人の職に対する考え方は予想以上に大きな差があると強く感じた。

 ロシア人は仕事への向き合い方に幾つかの選択肢を持ち、自分の成長のために邁進している。 一方で日本人は、仕事を一本道だと考え、その道を極めることで自己成長に繋げる。

 その中で、ロシア人にあって日本人に無いものとは、「我慢して無理に自分を押し込めるだけでなく、流れに身を任せて次のステージに進む選択肢もある」と考える余裕なのではないかと考える。ナタリアさんの言葉がそれを教えてくれた。−−− 「Go with the flow. (時の流れに身を任せよう)」

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