ジュード・ロウ、
『スターリングラード(Enemy at the Gates)』で狙撃手ワシーリー・ザイツェフ役、『アンナ・カレーニナ』でカレーニン役
イギリス人俳優ジュード・ロウはすでに2回ロシア人役を演じており、観客はいよいよ彼の容貌にスラブ人的特徴を見出すまでになっている。
ハリウッド映画『スターリングラード(Enemy at the Gates)』(2001)の狙撃手ワシーリー・ザイツェフ役は、非常に評価が高かった。スターリングラードの戦闘を描く本作は、ザイツェフ自身の自伝的手記に基づいている。特にザイツェフとドイツ軍狙撃手との対決シーンは、心理描写の巧みな演技が光った。本作はステレオタイプな描写が赤軍を貶めるものであるとして、ロシアでの評価はあまり高くないが、ジュード・ロウの演技について批判は無い。
光るもう1つのロシア人役は、ジョー・ライト監督による『アンナ・カレーニナ』(2012)における、アンナの夫アレクセイ・カレーニン役。まさにジュード・ロウが演じたこのカレーニンこそ、焦点をヒロインのアンナではなく夫カレーニンに当て、カレーニンもそんなに悪い奴ではないじゃないか、と思わせるに至ったのである。
キーラ・ナイトレイ、
アンナ・カレーニナ役、ドラマ『ドクトル・ジバゴ』のララ・アンティポワ役
キーラ・ナイトレイは古典文学の映画化作品、とくに19世紀文学の映像化で存在感を発揮してきた。
『パイレーツ・オブ・カリビアン』で名を挙げる以前から、ドラマシリーズ『ドクトル・ジバゴ』(2002)に出演した彼女はララ役を巧みかつ繊細に演じ切り、ロシア風の三つ編みで新鮮な印象を与えた。内戦の時代を舞台にした作中でナイトレイのパートナー役を演じたハンス・マシソンは、1965年版の映画で同役を演じたレジェンド俳優オマー・シャリフ以上にロシアの観客から好評を得た。
『プライドと偏見』(2005)の主演で大成功をおさめると、2012年には最も有名なロシア人ヒロイン、アンナ・カレーニナを演じた。相手役はジュード・ロウ。トルストイの生み出したこのキャラクターをナイトレイは巧みな演技で見事に表現し、観客は目論見通りカレーニナにひどく苛立った(結果として、夫のカレーニンに同情が集まった)。
ダニエル・ラドクリフ、
ドラマ『ヤング・ドクター(A Young Doctor's Notebook)』でボムガード医師役
ミハイル・ブルガーコフの自伝的小説を原作とするドラマ『ヤング・ドクター(A Young Doctor's Notebook』』(2012)は、ややステレオタイプなロシア奥地を描写している。ドラマチックさを内包したブラックコメディで、ロマ音楽がコメディ要素を補完している。ラドクリフにとっては『ハリー・ポッター』シリーズ後の最初期の役の1つであり、世界中の観客(ロシアの観客はとくに)はラドクリフのコメディ演技の才能に驚き、演じられる幅の広さを印象付ける作品となった。
ポール・ダノ、
ドラマ『戦争と平和』でピエール・ベズーホフ役
2016年にイギリスで放映されたドラマシリーズ『戦争と平和』は、トルストイ作品の映像化には特に敏感なロシアの視聴者にも好評だった。ナターシャ・ロストワを演じたリリー・ジェームズ、アンドレイ・ボルコンスキー役のジェームズ・ノートンも印象深かったが、葛藤するピエール・ベズーホフ(トルストイのオルター・エゴ)役のアメリカ人俳優ポール・ダノの好演は特に光った。
レイフ・ファインズ、
オネーギン役と『ふたりの女』のミハイル・ラキーチン役
イギリスのレジェンド俳優は、ロシアでは同胞に近い扱いだ。『シンドラーのリスト』や『イングリッシュ・ペイシェント』、そして『ハリー・ポッター』シリーズのヴォルデモート役で名を馳せた名優は、ロシアでは古典文学の映像化作品でもよく知られている。
ファインズは1999年に『オネーギンの恋文』で主演。ただ、プーシキンの詩を原作としながら、全て散文に変えられ、作中で詩が読まれなかった事はロシアの観客には少々残念であった。しかし、無愛想で冷たいオネーギンが恋焦がれて混乱していく様子を巧みに演じたファインズは好評だった。
ファインズのもう1つのロシア人役は、ツルゲーネフの『村のひと月』を映画化したロシアのヴェーラ・グラゴーレワ監督の『ふたりの女(Две женщины)』(2014)。ファインズは殆どがロシア人キャストで占められた中で演じ、ロシア語で吹き替えこそされたが、わざわざロシア語を勉強して撮影に挑んだ。
ファインズ自身、ロシア文化への関心は高く、2018年にはプロデューサー兼監督として『ヌレエフ ホワイト・クロウ(The White Crow)』を制作した。この作品でファインズは、ヌレエフの恩師のバレエ教師役を演じている。