ロシア正教会へのイコン返還をめぐっては、多くの白熱した議論が展開された。さて、ルブリョフの名高いイコン「聖三位一体」は何が特別なのだろうか?
この聖像画家は、1422~1427年に、大修道院の聖三位一体大聖堂のため特別にこのイコンを描いた。イコンのベースになっているのは、主が三人の旅人の姿でアブラハムに現れた『旧約聖書』創世記の「アブラハムのもてなし」だ。ルブリョフは、三位一体を表わすのに、こうした視覚的イメージを初めて提示した。その際、彼は、副次的な細部を省き、三位一体を象徴的に描いた。唯一の神が、父、子、聖霊の三つの位格で現れる(美術史家たちは、このイコンの三者のどれが誰なのかについていまだに議論している)。
ルブリョフは、名画を生みだしただけでなく、神の三つの位格を理解し表現した最初のイコン画家となった。彼のイコンは、正教徒が三位一体を感得し正しく理解するのに役立った。三位一体は難解だが、正教徒には極めて重要な教義だ。それ以来、ロシア正教のイコンは、三位一体を描くに際してはルブリョフに依拠するようになった。