1. イリヤ・イリフとエフゲニー・ペトロフ『十二の椅子』
愉快でユーモラスな夏の読書!
この二部作は、濡れ手に粟で一獲千金を狙う2 人のトリックスターとともに、ロシア全土の冒険の旅にあなたを連れて行く。
元地主貴族のキーサ(イッポリート)・ヴォロビャニノフは、義母が椅子セットのうちの一脚に縫い込んだ宝石を探し求めて、架空の都市「スタルゴロド」にやって来る。革命後、椅子はすべて全国に散らばってしまったらしい。たまたまこの街に流れてきていた詐欺師のオスタップ・ベンデルは、キーサのダイヤ探しの手伝いを買って出る。
*日本語訳:
江川卓訳、世界ユーモア文庫〈2〉、1977年。
2. ミハイル・ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』
独特の雰囲気に満ち、神秘的だ。読み出したら止まらない!
この作家の最高傑作であり、風刺的で超自然的な物語だ。1930 年代のモスクワを、悪魔とその従者が訪れる。
その悪魔のヴォランドは、ソ連の役人――まさに官僚的で非人間的だ――という新たな悪に立ち向かう。一方、「巨匠」は、イエス・キリストについての小説を書いている(その一部が、この小説の主要なプロットに組み込まれている)。
「巨匠」の小説は、当時のソ連の反宗教的政策にはまったくそぐわぬものであり、原稿を出版する可能性はないが、といって執筆をやめることもできない。ゲーテの『ファウスト』におけるように、ヒロインのマルガリータは、愛する「巨匠」を救うため、悪魔に魂を売り、魔女となる。
*日本語訳:
・水野忠夫訳、岩波文庫、2015年。
・法木綾子訳、群像社、2000年。
・中田恭訳、三省堂書店、2016年。
3. イワン・ブーニン『暗い並木道』
とにかく愛について多彩な物語を読みたいときに!
ロシア初のノーベル賞作家が、亡命先でこの連作短編集を書いた。それらは、ロシア文学の偉大な伝統の最後の「破片」だ。すべての物語は、愛と情熱について一見、極めて優美に語っているのだが、実は、当時としては「一線を超えた」あり得ない内容だった。
誘惑される令嬢、身分違いの異常な情事、苦しみをもたらす不幸な恋…。これらすべての物語は、初恋についての多少なりとも甘美な思い出と混ざり合っている。
この作品が書かれた時点では、実に衝撃的で真実な内容であり、今なおすべての読者にとってスリリングだろう。
*日本語訳:
『ブーニン作品集』(全5巻)、群像社。
4. フョードル・ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』
もう時間がある今読むしかない!
夏になると、ロシアの学童たちは皆、宿題で『罪と罰』を読んでいる(そしてその後で、ドストエフスキーが嫌いになる)。それを尻目に、この桁外れの小説に目を向けるようお勧めする。悲恋、人生の意味の探求、哲学、父と子の相克、狂気、そして神の探求…。ドストエフスキーのまさにロシア的小説のすべてがここに提示されている。
その一方で、実は、探偵小説の体裁も備えており、微に入り細を穿つ推理と、力強い法廷弁論を含んでいる。
物語は、自堕落なフョードル・カラマーゾフの、おそらくは彼の息子の1人による殺害をめぐって展開していく…。そして、お金と女性も事件に関係しているらしい。
*日本語訳:
・原卓也訳、新潮文庫。
・亀山郁夫訳、光文社古典新訳文庫。
・米川正夫訳 岩波文庫。
その他
5. ストルガツキー兄弟『ストーカー』(原題は『路傍のピクニック』
パラレルワールドに思い切りハマってみよう!
ソ連の最も有名なSF デュオによる最も有名な作品だ。アンドレイ・タルコフスキー監督の名画『ストーカー』(1974)と、一連のビデオゲームの原作になった。
時は1970 年代。奇妙な「ゾーン」がいくつか地球上に出現した。そこでは、物理法則が機能しない。人々は、これらのゾーンへの立ち入りを禁じられているが、いわゆる「ストーカー」はいまだに不法に侵入し、エイリアンのものらしい人工物を収集して、闇市場でそれらを売ってお金を稼いでいる。
しかし、これらのアイテムが悪人の手に渡ると、人類にとって危険を及ぼしかねない。ストーカーは、日々命を危険にさらしつつも、ゾーンなしでは生きていけないことを認識してもいる。
*日本語訳:
『ストーカー』深見弾訳、ハヤカワ文庫、1983年。