1. レフ・トルストイ『戦争と平和』
(ロシア語版で全4巻、約1900ページ)
レフ・トルストイがこの小説を書いた頃、それはロシア文学では目新しく、「叙事小説」という新ジャンルを与えられたほどだった。この作品ではナポレオン戦争時のロシアを描いている。語りの中心は数家族の物語だ(トルストイは自らの親戚もモデルにしている)。実は、今日大半のロシア人はトルストイの記述を通してナポレオン戦争の経過を理解している。
トルストイがこの小説を書き上げるまでには6年を要した。原稿を手書きで6度も校正した妻の助けなしにはなし得なかっただろう。レフは校正になかなか満足しなかったからだ。
2. フョードル・ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』
(ロシア語版で全2巻、約1000ページ)
この小説には続編があるはずだったが、ドストエフスキーは刊行から2ヶ月後に死去してしまった。これは忠誠と不実、愛、裏切り、運命、奇跡、人間性に関する作者の考えを反映した根本的な作品だ。
ドストエフスキーの暗く深い哲学を恐れる必要はない。それに、この小説の筋は読者を最後まで惹きつける推理物となっている。情熱、嫉妬、殺人ミステリー。小説の長さも忘れてしまうことだろう。最も信じ難いクライマックスの一つが、殺人の被疑者が判決を受ける法廷の場面だ。
3. ミハイル・ショーロホフ『静かなドン』
(ロシア語版で全4巻、約900ページ)
この小説は往々にして「20世紀の『戦争と平和』」と呼ばれる。ロシア革命後の内戦でドン・コサックがいかに戦ったかを描く大河小説だ。赤軍と白軍の間を数度行き来し、自分がどちらに近いか決めかねているグリゴリーというコサックの話が中心である。同時に彼は生涯にわたって2人の女性と恋愛関係を持ち、ここでも態度を決めかねて行ったり来たりしている。このような荒々しい時代にあって、普通の人間は自分が何を必要としているのか全く理解できない。その行動はすべて悲劇につながり、戦争が悲劇に拍車をかける。
この矛盾を孕む筋書きは、赤軍を肯定的に描くことを要求するソ連の検閲に引っかかって発禁となる恐れがあった。しかしヨシフ・スターリンは自らこの小説を読み、刊行を承認した。
4. アレクサンドル・ソルジェニーツィン『収容所群島』
(ロシア語版で全3巻、約2048ページ)
これは決して軽い読み物ではなく、小説でもない。これは「虚構の調査の試み」だ。10年以上にわたり、ソルジェニーツィンは密かに250人以上の元囚人と話したり手紙を書いたりし、自身のグラーグでの経験も引用した。彼は1918年から1956年までのソ連の矯正労働収容所制度の全容を描いただけでなく、個人的な体験談を盛り込んだ。彼はこうしたものこそ学術的な記述以上に重要であると考えていた。
彼は囚人の労働によって成り立っていたシステムであるグラーグの歴史を再建した。彼はソ連時代を通してどれほどの収容所が存在したのか、それぞれどのように異なっていたのかを明らかにしようとした。
『収容所群島』は1970年代にフランスで初めて出版されたが、これが原因でソルジェニーツィンはソ連国籍を剥奪され、国外追放された。この本がようやくロシアで出版されたのはソ連崩壊後のことである。
5. ヴァシリー・グロスマン『人生と運命』
(ロシア語版で880ページ)
この大河小説も「20世紀の戦争と平和」と呼ばれており、第二次世界大戦中の複数の家庭の運命を描いている。グロスマンは従軍記者としてスターリングラードの戦いを取材したため、小説の時間軸は1942年から43年に設定されている。
戦時中に人々が克服した最も恐ろしい苦しみの数々がこの作品には反映されている。グロスマンは疎開、家族の離散、ホロコーストについて書いている(著者は実際にウクライナでナチスに母親を殺害された)。グロスマンはソ連における反ユダヤ主義とスターリンの大粛清にも触れ、家族の誰かが逮捕されれば友人からも隣人からも見放されるという事実を描き出している。
『人生と運命』はスターリン体制に非常に批判的だったため、作品はまるで推理小説のような運命をたどった。原稿はKGBに押収されたが、写しが幸い西側に送られ、そこで出版されたのだ。
おまけ:現代ロシア作家の三大大河小説
冗長さでは現代作家も負けていない。
1. マリアム・ペトロシャン『ある家の出来事』
障害を持つ子供たちの寄宿学校で神秘的な出来事が起こり始める。いわばソビエトの雰囲気に包まれた「ハリー・ポッター」だ。
2. ザハール・プリレーピン『修道院』
ソロヴェツキー収容所内での一人の普通の男の暮らしを描いた大作。ソルジェニーツィンと比較するのも面白いかもしれない。
3. リュドミラ・ウリツカヤ『ヤコブの梯子』
ある女性が祖父の日記を見つけ、それぞれの人生が奇妙に結び付いていることを知る。愛と心理学的要素に満ちた素敵な家族小説だ。