知っておくべきロシアの女性芸術家15人

 アバンギャルドから現代アートまで。

1. オリガ・ロザーノワ

 アバンギャルドの女性芸術家の中で独自のモダニズム、「色彩描写」を考案できた唯一の人物だ。アバンギャルドの多くの芸術家と同様、ロザノワは自分の手法を手にするまで新しい潮流をいくつも試した。未来派に属し、恋愛関係にあった詩人アレクサンドル・クルチョーヌィフとともに、文章と絵画とが一体化する未来派的な本を生み出した。彼らの最も有名な作品は、白黒のアルバム『戦争』だ。それから間もなく、彼女はカジミール・マレーヴィチのグループ、「スプレムス」に加わった。1917年、マーク・ロスコやバーネット・ニューマンの抽象表現主義を数十年先取りしたような傑作『緑の筋』と『無対象構成』を制作した。

オリガ・ローザノワ、『緑の筋』

2. ヴァルヴァーラ・ステパノワ

ヴァルヴァーラ・ステパノワ。織物のデザイン。プーシキン美術館。

 アバンギャルド芸術家のアレクサンドル・ロトチェンコの妻であり戦友であったステパノワは、構成主義の創設に立ち会った。1921年、彼女は構成主義者らにブルジョア的と宣言された絵画芸術を離れ、「有益な芸術」とされたデザインの仕事へと自身の才能を向けた。彼女は、職業ごとの要件に応じて変わるユニフォームを基盤とした作業服を開発した。1920年代初めには、リュボーフィ・ポポーワとともに更紗捺染工場で働き、そこでアバンギャルド精神に基づく布地用装飾の開発に努めた。

3. アレクサンドラ・エクステル

 エクステルは、ロシアでいち早く抽象絵画に移行した芸術家の一人だ。キュービズムが登場した年にその存在を知り、1907年にパリを訪問、そこでピカソやブラック、アポリネールと知り合った。キュービズムに没頭した後、イタリアの街並みを描いた立体未来主義の都市風景画で有名になった。1916年、独特の色彩とダイナミズムが特徴的な無対象芸術に移行した。また、モスクワの室内劇場でキュービズムを舞台に取り込み、輝かしいプロジェクトを生み出した。

アレクサンドラ・エクステル、「ベネチア」

4. ジナイーダ・セレブリャコワ

 彼女の芸術にはアール・ヌーヴォーの影響が色濃く反映されている。彼女の肖像画に描かれたヒロインらは、「銀の世紀」の美と詩的な魅惑の権化である。ロマンチックで穏やかな彼女らは、嵐のような生活の外、革命や戦争の轟きなど聞こえてこない永遠の女性の世界に暮らしているようだ。同時に、この画家は歴史の渦に巻き込まれた。革命後夫が亡くなり、セレブリャコワは4人の子供と貧しく暮らすことになった。彼女は1920年代半ばにパリへ移住したが、子供のうち2人はソ連に残った。セレブリャコワの最も有名な作品は、『身支度、自画像』と農民シリーズの一つ『麻布の漂白』だ。

ジナイーダ・セレブリャコワ『麻布の漂白』

5. ナタリア・ゴンチャロワ

 「ロシア絵画における女性権利活動家」は、今日ではその作品に最も高い値が付くロシア人女性画家となった。作品の市場価格は650万ルーブル(約10万ドル)に達する。彼女の芸術においては、ネオ・プリミティヴィズム、イコン画、アバンギャルドの新しい芸術潮流が独自の解釈をなされている。ゴンチャロワは宗教絵画を再解釈し、自身の農民シリーズでその現代版を作り出した。若い頃は活発に未来派のパフォーマンスに参加し、胸をさらけ出してパフォーマンス映像の撮影に臨んだこともある。革命後は夫のミハイル・ラリオノフとともにパリに移住し、主に劇場でセルゲイ・ディアギレフの『ロシアの季節』のために働いた。

ナタリア・ゴンチャロワ「ダンス」

6. リュボーフィ・ポポーワ

 ポポーワは立体未来主義とシュプレマティスムに没頭し、その後構成主義に行き着いた。1921年に「ものの製作」に取り掛かった。「現代の芸術家の活動は避け難く具象的な製作行為の範囲内で行われている」とポポーワは綴っている。彼女は、ヴァルヴァーラ・ステパノワとともに作業服の開発に注力した。彼女の作る衣装においては、何よりも建設的・機能的な役割が強調されていた。ポケット、縫い目、ベルト、留め具の独特のデザインが、労働者、パイロット、扇動家、その他「革命的な」職業の人々のイメージを特徴付けた。 

俳優第1番の制服

7. ヴェラ・ムーヒナ

 彫刻家・記念碑制作者であったムーヒナは、ソビエト彫刻の英雄的な様式を生み出した者の一人である。彼女の作品のモデルは、新しいソビエトの生活の巨人たち、歴史の征服者たちだった。1920年代の記念碑プロパガンダ計画の具現化に活発に参与した。ムーヒナの主な作品は、1937年のパリ万国博覧会のソビエト館のために制作した24メートルの彫像『労働者とコルホーズの女性』だ。この像は現在ヴェー・デー・エヌ・ハー公園の近くにそびえ立っている。戦後はソビエトのインテリの肖像制作に取り組んだ。 

 ヴェラ・ムーヒナ『労働者とコルホーズの女性』

8. タチアナ・ナザレンコ

 ナザレンコの芸術は1970~80年代のランドマークとなった。リアリズム芸術の枠内で、ソビエトのインテリの声を表現し、当時の希望を具現化することに成功した。彼女が注目したのは個人の経験、内省、不満、孤独感で、彼女はそれを寓意、メタファー、アレゴリーを利用して表現した。彼女が関心を抱いていたのは、自分自身の運命、近しい人々の運命、同世代の人々の生活だった。ソ連においてナザレンコは、その人物描写の独特のグロテスクさゆえに、現実を醜く歪めていると非難された。

タチアナ・ナザレンコ、「昼食」

9. リディア・マステルコワ

 無葛藤理論を擁護するグループに属した数少ない芸術家の一人だ。1950年代、彼女は「リアノゾヴォ派」に加わった。このグループにはオスカル・ラビンやゲンリフ・サプギル、ウラジーミル・ネムヒンなどの非公式の詩人や芸術家が参加していた。ネムヒンとマステルコワは14年間事実婚状態にあった。マステルコワは形而上学的抽象化の手法で作品を制作し、幾何学図形に神聖な意義を与えた。また彼女は、作品の中でコラージュの技術を使用し、レースや金襴、古い布地を絵画に取り込んだ。伝説的な「ブルドーザー展覧会」に参加したが、このプロジェクトの壊滅を受けて1975年にパリに渡った。

リディア・マステルコワ、「孤独で迷子になって忘れられた」

10. イリーナ・ナホワ

 1980年代、ナホワはモスクワ・コンセプチュアリズムに参加した。彼女はソ連の女性芸術家として初めて、モスクワの自室に完全なインスタレーション『部屋』を作り、環境アートの模範を示した。1990年代初めに渡米した。彼女は自身のインスタレーション作品に、絵画、写真、コラージュ、ビデオなどさまざまなメディアを使用している。最も有名な作品の一つが、インスタレーション『私と居て』に展示された、鑑賞者を密に締め付ける巨大な女性器だ。2015年にはヴェネツィア・ビエンナーレのロシア館の代表芸術家となった。

 イリーナ・ナホワ。ヴェネツィア・ビエンナーレの緑色のパヴィリオン。

11. アイダン・サラホワ

 現代ロシア芸術界の主要なオダリスクである彼女は、現代世界の東洋の女性の運命を研究している。彼女の芸術は、東洋と西洋、伝統と現代、永遠と瞬間の接点に生じる緊張の火花を散らしている。彼女の作品の東洋美人は安逸と誘惑の世界に生きており、ヒジャブの内に爆発するような性感を秘めている。近年サラホワは絵画を離れて彫刻に取り組んでおり、自身の芸術宇宙のシンボルであるファルス・ミナレットとヴァギナ・カアバをカララ大理石から彫り出している。

アイダン・サラホワ。モスクワ現代美術館での展覧会「FASCINANS AND TREMENDUM」。

12. イリーナ・コリナ

 ポスト・ソビエト文化を皮肉たっぷりに研究しているコリナは、現代ロシアの生活を正確にスキャンする。彼女はインスタレーションとオブジェクトのジャンルで活動しており、舞台装飾の技術を駆使して照明や音響、空間を演出している。彼女が用いる表現手法の中で中心的な位置を占めるのが、肌理だ。彼女は非常に繊細に素材を感じ取っており、彼女が作品に使用する防水布のかばん、瓦、襞の入った金属、サイディング、ラミネート材、袋、壁紙の組合せの中には、現代というものがはっきりと浮き出ている。彼女の展覧会はこれまで世界の多くの美術館で開催されており、2017年にはヴェネツィア・ビエンナーレのメイン・プロジェクトに携わった。

イリナ・コリナ。ヴェネツィア・ビエンナーレ、「善意」

13. オリガ・チェルヌィショーワ

チェルヌィショーワは、絵画、グラフィックス、写真などさまざまなジャンルで活動しているが、彼女が特に有名になったのはビデオ・アートのジャンルだ。全ロシア映画大学での卒業制作は、19世紀で最も辛辣なロシア人芸術家と言われるパーヴェル・フェドートフをテーマにしたものだった。それ以来、彼女にはフェドートフの精神が息づいている。彼女は、ソビエト崩壊後の人々の生活と、そこに見出される夢や矛盾に騙された希望とを注意深く、皮肉たっぷりに観察している。チェルヌィショーワは欧米で最も頻繁に展覧会が開催されているロシア人女性芸術家で、テームズ・アンド・ハドソン社から最近出た『女性芸術家』(Women artists)という本で取り上げられている唯一のロシア人だ。 

オリガ・チェルヌィショーワ。展覧会「両立可能」での写真「警備員」。エアフルトのアートホール、ドイツ。

14. アンナ・ジョールチ

 アンナは、「みすぼらしいものの美」を詩化する芸術家だ。彼女が特に関心を寄せるのが、日常生活において我々を取り巻く最も散文的なものである。古い孤独なブリキ缶、鍋、やかん、アイロンが彼女の作品の主題になっている。初めは絵画だったが、後には金属棒を曲げて彫刻を作るようになった。ジョールチはものの骨格だけを残す。ものが金属の肉体を失って、ものの観念、生活の中での用途を忘れた分身に姿を変えるようにするためだ。第53回ヴェネツィア・ビエンナーレ(2009年)では、『コミュニケーション』というプロジェクトで主要な展示に参加した。

アンナ・ジョールチ。モスクワ現代アート・ビエンナーレでのインスタレーション「特別な場所」。

15. タウス・マハチェワ

 マハチェワは自分の芸術を通して、古代の文化的伝統と儀式が現代のダゲスタン(ロシア連邦北カフカス連邦管区の共和国)の文化の中にどのような形で存在しているかを研究している。ゴールドスミス・カレッジとキングス・カレッジ・ロンドンを卒業した彼女は、皮肉に満ちた演出プロットを作ったり、実生活から題材を集めたりしながら、ビデオ・アートのジャンルで活躍している。2016年には、『無題2』というプロジェクトの女性スーパーヒーロー像『スーパー・タウス』が評価され、ロシアのカンディンスキー賞を受賞した。

タウス・マハチェワ。「オブジェクトの道」。モスクワの現代美術館「ガレージ」で行なわれたトリエンナーレにて。

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