18世紀以降ロシアでは、布教活動のための移動型教会はよく見られ、常設の教会がない国中のあらゆる場所に運ばれた。今では移動型教会はもっと突飛もない形で作られている。
1.列車教会
19世紀中ごろ、ロシア帝国の時代に列車教会は現れた。十字架と三つの鐘から成る鐘堂が車両入り口がある切妻部分につくられており、プラットフォームから鐘堂に頑丈な鉄製の階段が架けられている。1917年まではいくつかの列車教会が北部ロシア、特にシベリアやウラル地方のために建造された。
記録画像:
ロシア正教会は現在10の列車教会を所有しており、聖遺物の移動や、儀式を執り行うのに使われた。これらの車両は通常の列車に連結されたり、ときには巡礼地に向かう特別列車につながれたりする。
外観写真:
普通の教会と同様に列車教会にも祭壇、イコノスタス(イコンで覆われた壁)があり、天井からは小さな鐘が吊るされている。小さな書庫をも備えている。
内部写真:
ニジニ・ノヴゴロドでは、教会が建造されるまでの間、車両の一つに聖堂をしつらえた。鉄道労働者が地域にこの列車教会を寄贈したのだが、これはのちに固定された教会として使われるようになった。
2.水上教会
1910年に最初の蒸気船教会がニコライ・チュドトヴォレッツ(奇跡者聖ニコライ)を記念して、19世紀中ごろに作られた英国製の船の上に建造された。アストラハンの商人がこの事業に資金を提供した。この水上教会はヴォルガ川での宗教活動に使われた。
記録画像:
ソ連崩壊後は、1999年にヴォルゴグラードで水上はしけ教会が現れた。
外観写真:
内部写真:
2004年にはヴォルゴグラードで、大型揚陸船「オレクマ」の上に教会が作られた。この船は国防省から寄贈されたもので、聖ウラジーミルと名付けられた。
外観写真:
内部写真:
少なくとも24隻以上の水上教会がはしけやタグボートから作られ、レナ川、アルダン川、ヴィリュイ川で使われている。
3.バス教会
タタール共和国に行くと、屋根にドームを備え、教会に必要な主なものを積んだバス教会を目にすることができる。地域の正教会の聖職者が運転して、離村を回る。この聖職者は自分の車を売り、古いLIAZ製のバスを買い取り教会を作った。ボランティアやヘルパーたちも彼と一緒に地方を回る。このバスは50人の信者を乗せることができる。
こんな感じ:
4.自動車教会
イヴァノヴォ州では、ウラジーミル大公に捧げる教会が古いガゼリ車から作られた。車の中にはイコン(聖像画)が飾られており、外側には正教会の絵が描かれている。聖職者がこのクルマで地域をくまなく回り、宗教活動を行い、洗礼などの儀式も執り行う。
5.トラック教会
トラック(カマズのトラックがほとんどであった)の後部に設けられた移動型教会はロシア軍に多く見られた。2000年代初頭に作られ始めた。2人いれば教会を組み立てることができ、中には最大100人もの信者が入ることができる。内部にイコノスタスや聖具を設置するスペースはないが、庵室、湯沸かし器、自動バッテリーチャージャーがある。すべてのイコン(聖像画)は壁に固定されていて、トラックの上部には十字架のついた丸屋根も備えられている。
6.空飛ぶ教会
ロシア正教会は聖具を備えた飛行機やヘリコプターを用意している。大規模な儀式のときや聖遺物を運ぶ際に使われる。
ロシアの国境付近や国内の特別な地域への移動に利用されることが多い。
7.落下傘教会
もう一つ変わった移動型教会に、ロシア空挺軍に使われているものがある。平箱に梱包された教会が航空機から落下されるのである。
折りたたまれ梱包された教会はおよそ1トンの重量がある。航空機からパラシュートを使って降下する勇気のある聖職者だけが、地上で教会を組み上げることができる。