「おやすみなさい、こどもたち!」:ロシアの長寿人気子供向け番組

カルチャー
オレグ・エゴロフ
 ロシアの人気子ども向け番組「おやすみなさい、こどもたち!」は、既に60年間も続いている。そこに出てくる人形たちは、子どもたちにちゃんとした振舞いを教え、アニメを見せ、おやすみなさいを言い続けてきた。これは単なる番組以上の存在で、これまで三世代を育ててきた社会現象だ。しかも依然人気は増している。

 どの国にも子供向け番組がある。架空の生き物たちが滑稽でかわいい話をして、子どもたちの成長を助けてくれる。そして、我々が住んでいるこの不可思議な世界の道案内をしてくれる。アメリカには、そうした番組に「セサミストリート」があり、ロシアには、「おやすみなさい、こどもたち!」という大長寿人気番組がある。ロシアの各世代は、これを類例のない芸術作品と考えてきた。その理由は次の通りだ。

1/ ドイツの伝説に触発

 この番組の構成そのものはとくに独創的というわけではない。操り人形の動物たちが、何らかの問題にぶつかる。そこに人間のホストが参加する。そしてジョークを飛ばしたりしながら、解決方法を見出す。そして、例えば、パイをうまく分けたり、過ちを犯した友だちを許したりする。最後に、彼らは短いアニメを見る。

 いずれも時間は10分で、夜のニュース番組直前の20時50分にそれが始まる。見終わると9時になり、子どもたちが寝る時間になる。動物と人間が全国の子どもたちに「おやすみ」を言って、番組は終わる。

 「おやすみなさい、こどもたち!」は、1964年に始まっており、ロシアのテレビの最長寿番組の一つだ。もともとは、旧東ドイツの「僕らのザントメンヒェン」に触発されたもの。ザントマン(砂男)は、ドイツなどヨーロッパ各地の民間伝承の睡魔で、魔法の砂を目の中に投げ込み、子どもたちを眠らせる。しかし、ロシア人は不気味な砂男には気乗りがせず、ソ連のテレビは彼をかわいい動物に置き換えた。たぶん、子どもを怖がらせないように。

2/ 当局からの圧力にもめげず

 「おやすみなさい、こどもたち!」はもともとは、静止画と朗読(画面に見えない)で構成されていたが、やがて、短時間の人形のスケッチと人間の俳優が現れた。1968年には、いまだに現役の“古典的なキャスト”が登場する。すなわち、犬のフィーリャ、子豚のフリューシャ、ウサギのステパーシャ、カラスのカルクーシャ(動物中の紅一点)。

 しかし、何十年もの間には、プログラムにはいくつかの変更があった。例えば、1982年11月11日、「おやすみなさい、こどもたち!」は初めて放送取りやめとなった。ソ連の指導者レオニード・ブレジネフが死去し、国民全体が喪に服したからだ。そのなかには当然、人形の動物たちもが含まれていた。

 それから、3年間にわたり、動物が番組から姿を消し、人間のホストだけがいた時期があった。 なぜか?アンドレイ・メンシコフ氏は、かつて子ども向けのTVスタジオを統括していたが、こう振り返っている。

「ソ連共産党が、子豚のフリューシャの出演を禁じた。イスラム教圏のソビエト共和国の指導者たちが、ブタがイスラム教徒の子どもたちに『おやすみ』を言うべきではないと考えたためだ」。ペレストロイカ期に入りようやく、ソ連の新指導者ミハイル・ ゴルバチョフが、フリューシャと他の動物の復帰を許可した。 

3/ 鉄のカーテンの撤去に一役

 ゴルバチョフには、フリューシャに共感する理由があった。この子豚は、ソ連と米国の緊張を緩和する助けとなったからだ(実際には、米ソのプロデューサー、メンシコフとクリストファー・セルフのおかげだが)。

 1988年、 特別テレビ番組「Free To Be… A Family」で、フリューシャは、ソ連を訪れたカエルのカーミット(「セサミストリート」の「マペット・ショー」のメインキャラクター)と対面する。そして初顔合わせの両者は、一対一で外交上の議論を繰り広げる。当時、米ソの両大統領、ゴルバチョフとレーガンの真剣な話し合いが行われていた。

4/ 愛されるキャラクターたち(いささか風変りではあるが)

 メンシコフの回想によると、ソ連の子どもたちは当局に「フリューシャを返して」と頼み、それが聞き届けられた。フリューシャとその他の ’’古典的な’’ 動物たちは、子どもたちに愛され続けている。この4人(?)の ’’ビートルズ’’(フリューシャ、フィーリャ、ステパーシャ、カルクーシャ)に加え、後に他の動物も現れる。

 1960年代には、ブラチーノ(ロシア版ピノキオ)が、2000年代には、クマのミシュートカが登場した。ロシアのテレビ番組にクマが出ないわけにはいくまい!いちばん最近の新顔は、アムールトラの「ムル」だ。その登場で、この絶滅危惧種を保護する必要性に注意を向けさせようとしている。

5/ 伝統へのこだわり

 人間のホストも変わってきた。オクサーナ・フョードロワ(元ミス・ロシア)、ポップシンガーのドミトリー・マリコフ、元ボクサーで下院議員のニコライ・ワルーエフもその一部だ。

 しかし、操り人形からコンピュータで合成するモデルへの「アップグレード」はなかった。フリューシャ、ステパーシャその他はいまだにテーブルの下に隠れた人々によって操作されている。

 数年前、最初にフィーリャの声を演じたグリゴリー・トルチンスキーが、こんなジョークを飛ばしたほどだ。「私が引退したら、回想録を書くよ。題して『20年間、ワーリャおばさんのスカートの下で』」

 「直情径行な子豚、シャイなウサギ、おしゃべりのカラス、投げやりな犬。あなたが子どもであろうと大人であろうと、誰もがこのキャラクターたちのなかに自分自身を見つけることができるだろう」。テレビ番組「ロシアの朝」は、この子ども向け番組の記念日に、こうコメントした。

 実際、この番組は今後も長く放映され、多くの新たな世代の子どもたちがそれを見続けるだろう。 

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