大小にかかわらずほとんどすべてのロシアの都市に、ロシア共産主義革命の指導者ウラジーミル・レーニンに因んだ場所や記念碑がある。ならば彼のイメージを、聖人たちの万神殿から移していわゆる家庭の偶像の一員にしてしまい、大衆文化に近づけてみてはどうだろう。これが、ロシアの街ノヴォシビルスクの女性アーティスト、マヤナ・ナスィブロヴァさんの創作の背景にある考えだ。
この考えに従って、彼女は2015年に“魂のためのレーニン”と題するプロジェクトを立ち上げた。そして翌年にレーニンの頭をしたシリコンのアヒルを作ったが、この作品は後にモスクワのヴラデイ・オークションで4200ユーロという衝撃的な値で落札された。通常、ミニフィギュアはサイズに応じて200〜500ユーロで売れるのが相場だ。
こうした関心の理由の一つとして考えられるのは、このレーニン・ダックがどういうわけか世の中の支配的な雰囲気を捉えたことだ。これはロシアの反体制派のシンボルにさえなった。このことは、自身のそれまでの作品より高い値が出たことも相まって、アーティスト自身を驚かせた。「このことは、単なるおもちゃとして見ていた自分の作品の意味を変えてしまいました。」彼女はそう振り返る。
それ以来彼女はプロジェクトのためにレーニンのミニフィギュアを作り続けており、今ではモスクワの“信心の危機”と題した全く新しい展示会を開いている。
展示会では依然レーニンを取り上げているが、これとそれまでの作品との違いは、そのインスピレーションの出所だ。
「以前はレーニンの同じ胸像を複製して違う衣装を着せていましたが、最近ではいろいろな文化からトーテム的なイメージを取り寄せ、それらに“レーニンの顔”を付けています。」ナスィブロヴァさんはロシア・ビヨンドにこう話す。
現地の共産主義者コミュニティーは初め不満げだったが、概してこのようなレーニン像の表現に対し、このアーティストは世論の不満のうねりには遭っていない。
「本心からの敵意というより、むしろ老人の愚痴のようなものでした」と彼女は言う。「メディアは事を大げさに取り上げようとしましたが、状況はソーシャルメディアが騒ぎ立てるほどには悪化しませんでした。」
ナスィブロヴァさんは単なるレーニン作りのアーティストとして見られることにかなり飽き飽きしている。このため現在の展示会が終わったら、別のプロジェクトへ移るつもりだ。
それでも、彼女は今後もこれを続けるかもしれないとも言っている。彼女がこれからどこへ進んで行くか、まだはっきりとは分からない。
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