この続編でロシアについて書かれているのは第7章だけだが、その描写は印象的だ。もっとも、作家自身はロシアを訪れたことはなかったので、あるネタ本に基づいて、ロビンソンの冒険を生き生きと描いた。
その本とは、モスクワから北京まで旅したアダム・ブランド(Adam Brand、ドイツの商人で冒険家)とエベルハード・イズブランド・イーデス(Eberhard Isbrand Ides、デンマークの旅行家で外交官)による、『在中国ロシア大使館に関する覚書』(1692~1695年)」である。
さて、その小説のなかでロビンソンは、1703年4月に、中国からシベリアに入っている。最初、彼は、モスクワ公国について、中国と比較しつつ言及している。「…もしも、モスクワ公国と中国を隔てる距離がこれほど大きくなく、またもしも公国が、こんな奴隷の群れでなかったら――この連中ときたら、かくも野蛮で無力で、統治し難いのだ――、ツァーリは易々と中国人をその土地から追い出しただろうに…」
デフォーは聖職者ではなかったし、異端審問などには反対していたが、彼の主人公ロビンソンは、中国人、タタール人、シベリアの先住民族を含む異邦人を容赦していない。ロシア人については、彼はまず何よりも、キリスト教徒の同胞を見た。
「ロシアのツァーリに属する最初の都市、村、または要塞は、アルグン川西岸に位置するアルグンスコエだったようだ。このキリスト教国――と一応は呼んでおこう――、あるいは少なくともキリスト教徒が支配する国に着いたとき、私はたいした喜びは感じなかった。なぜなら、ロシア人は、私の意見では、キリスト教徒の名に値しないからだ。それでも彼らは、キリスト教徒に見られたがっているし、それなりにやたらと信心深くはあるが」
エヴェンキ
グスタフ=フョードル・パウリ/Wikipedia主人公ロビンソンは、当地の住民が宗教や儀礼に忠実であること、多数の場所の多数の人間において、異教とキリスト教が共存していることを、繰り返し強調している。
「…当地の異教徒の住民たちは、偶像に犠牲を捧げ、太陽と月、そしてあらゆる天体を崇拝している。私が見た未開人や異教徒は、実際、野蛮人と呼ぶにふさわしい…アメリカの野蛮人のように人肉を食べなかった点を除けばだが。…彼らの家、村落は、偶像や野蛮きわまる生活様式で満たされていた。例外は、キリスト教徒もしくは、ギリシャ正教会の“キリスト教徒もどき”が住んでいる都市と、その近くの村だけだ。だが、彼らの宗教には、多くの迷信が混ざっており、単純なシャーマニズムとほとんど異なるところがない」
トボリスク
Wikipedia地元住民に対して民俗学的な関心をもっていなかったロビンソンは、異教の儀式では血と犠牲しか目に入らなかった。それどころか、彼は仲間とともに、異教の偶像を焼くために“出動”したりしている。
というわけだから彼は、先住民に良い感じはもたなかった――中国からトボリスク(モスクワの東2300キロ)に向かう途上で、ロビンソンは彼らを目にしているが。彼は、“野蛮な”ツングース系民族の住む地域をこう描写する。
「ツングースの衣服は、動物の毛皮で作られており、彼らのユルト(移動式家屋)も、毛皮で覆われている。男は、顔つきや服装では、女と区別がつかない。冬になると、すべてが雪で覆われ、互いに地下通路でつながれた穴倉に住む」
もちろん、およそシベリアについて語るとき、「寒さ」に触れなければ、肝心なものが抜け落ちてしまうだろう。トボリスクでロビンソンは、1703年9月から1704年6月まで、半年以上足止めを食っている。白海の航海がもろに季節に左右されるためで、冬は海が氷に覆われてしまうのだ。
「私は、暗く厳しい冬の間、8ヶ月もトボリスクで暮らしていた。寒さは強烈で、毛皮外套にくるまらずには、そして毛皮のマスクというより、目と呼吸のために3つの穴だけを開けたフードを被らずには、路上に出ることはできなかった。3ヶ月間、日中もあまり明るくならず、それもわずか5〜6時間しか続かなかったが、毎日晴天だった。また地表を覆いつくした雪は、真っ白だったから、夜中も決してさほど暗くならなかった」
シベリアでロビンソンが唯一良い印象を受けたのは、トボリスクに流刑になった貴族たちとの交流だった。「素晴らしかったのは、この野蛮な国の僻地にも、良いコミュニティがあったことだ。トボリスクは、なにしろ、北極海から遠くなく、ノヴァヤゼムリャ島のわずか数度南に位置する。しかし、こんなコミュニティがあるのは驚くに当たらない。トボリスクは、政治犯の流刑地になっているから、大貴族、士族、軍人、廷臣などの貴顕がいっぱいいる」。彼がいちばん親しんだのは、某公爵で、ロビンソンはイギリスに逃げようと提案したほどだったが、公爵は立派な態度で断った。
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