ロシアのエスキモーの人口はわずか1700人。アジアまたはシベリアのエスキモー、Asian Yupik(ユピック族)である。チュコトカのエスキモーは、アメリカ・アラスカ州セントローレンス島のエスキモーの親類である。同じ言語で話し、海を船で渡って互いに行き来している。セントローレンス島はチュコトカ沿岸部からわずか60キロに位置し、晴れている日には島が沿岸部から見える。
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アラスカのエスキモーに混ざって、チュコトカのエスキモーのおじ、おば、おい、めいが暮らしているが、信仰は異なる。アラスカのエスキモーはプロテスタントになっている。チュコトカ沿岸部のエスキモーの多くは、自分たちを異教徒だと考えている。信仰しているのは、石、草、土などのすべてのものに霊がやどっているというアニミズム(精霊信仰)。
コンスタンチン・レメシェフ/タス通信
先祖の霊や土地の霊は常に、目に見えない形で生活に加わっている。異なる観点は時に、アラスカとチュコトカのエスキモーのケンカに発展する。アラスカのエスキモーは悪霊崇拝だと非難し、チュコトカのエスキモーはアラスカで先祖の古代の信仰を忘れたんだと怒る。
チュコトカのエスキモーの日課では、必ず霊に食事を与えなければならない。食事をする時に、空間に食べ物の欠片を投げ、茶を飲む時に、一滴を投げる。
あの世でも人は食べ物を必要とすると信じている。廃村のわきを通りながら、そこの霊すなわちその村にかつて暮らしていた死者に食事を与える。
チュコトカのエスキモーは、病気が治るように、または飛行機に乗るために天候が良くなるようにと霊に願う時、空中にビーズを投げる。これは霊への贈り物である。
タス通信/ヴァレンティン・クジミン撮影
チュコトカのエスキモーの驚きの世界観はその民話に反映されている。ヨーロッパ的な感覚からすると、変わっているが、美しい。自然と文化、動物と人、死者と生者の世界の間に境界はなく、人はオオカミやアザラシに変わったり、アナグマと結婚したり、カラスにさらわれたりする。
「先住民族の意識の中では、世界という観念が違うのではなく、自然と文化の境い目のないまったく異なる世界なのである。動物、植物、自然の世界が人の世界に入ったり、その逆になったりする」と、モスクワ国立大学の民族学者ドミトリー・オパリン氏は話す。
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エスキモーは、海洋動物の捕獲を許可されている、ロシアで数少ない民族である。年間3~5頭のクジラをモリで捕らえたり、アザラシ、セイウチ、アゴヒゲアザラシを銃撃したりすることができる。
ごちそうと考えられているのは、セイウチの「腐臭のある」半腐敗(半熟成)肉。クジラの生の脂身と皮が好きで、セイウチの肉、生の気管、セイウチの心臓、肝臓を食べ、またアザラシの肉を食べる。
狩猟家のもとに肉があるが、狩猟家の家族は親戚に肉をふるまう。他の住民は狩猟家から購入したり、借りたりする。チュコトカのトナカイ飼育者から、エスキモーはトナカイの肉を購入する。
食事には他の採取された物が加わる。ベリーや植物は重要なビタミン源。カンコウランを冷凍保存し、カモの胃に詰めたり、ウサギの添え物にしたり、ジャムをつくったりする。ビタミンたっぷりの料理はヌニヴァク。イワベンケイの葉を発酵させて、凍らせて食べるもの。
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エスキモーの伝統的な生活を守っているのは狩猟者の家族。エスキモーの狩猟の概念とフレーズを使い、神聖な場所やツンドラの領域を認識し、伝統料理をつくり、霊に狩りを助けてもらえるように儀式を行う。
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オパリン氏によれば、村から出ることは良いことなのだという。可能であればいつでも村からツンドラに行き、ベリーやキノコを採ったり、湖で魚を釣ったり、鳥を捕まえたりする。狩猟者にとって村はからっぽで退屈な場所である。大好きなツンドラや海ははるかに広大で、動物、霊が住み、廃村や伝説の記憶の残る空間である。
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