ソ連の大佐が発明したシンセサイザー

1958年に独自のシンセサイザーを発明した、赤軍大佐のエヴゲニー・ムルジン氏。

1958年に独自のシンセサイザーを発明した、赤軍大佐のエヴゲニー・ムルジン氏。

M.フィリモーノフ撮影/RIA Novosti
 シンセサイザーほど、20世紀後半の音楽革新を象徴するものはない。だが赤軍大佐のエヴゲニー・ムルジンが1958年に独自のシンセサイザーを発明したことは、ほとんど知られていない。2017年10月25日は、ムルジンの生誕103年であった。

ANSシンセサイザーとは

 ムルジンは1914年に生まれ、モスクワ公共建設技師大学で学んだ。第二次世界大戦の際またその後、電気機械対空検出器の開発を率いた。この発明により、ムルジンは栄えあるスターリン賞を受賞し、ソ連の防空システムの司令部の上級技師になった。

 ムルジンは音楽も好きで、技術と音楽を組み合わせたいと考えていた。まだ学生だった1938年、作曲家が望むような音、音色、音程の機械をつくってはどうかと考えた。

 この発明は映画撮影術で使用される光音響録音方法にもとづいている。音波の可視映像を得る、また人工的に生成された音波から音を合成するという反対の目標を実現するものであった。

戦争とその後の復興までの影響により、実現には約20年を要した。ロシアの革新的な作曲家アレクサンドル・ニコラエヴィチ・スクリャービン(1871~1915年)の名前にちなんでANS(Alexander Nikolaevich Scriabin)と名づけられた、ムルジンのシンセサイザーの最初のモデルは、1958年に登場し、ロンドンとパリでも展示された。

 

音楽のスター

ANSシンセサイザー。

 ANSはモスクワのスクリャービン博物館に展示されるや否や、注目を浴び、音楽イベントの中心となることも多かった。  これは事前プログラムされた音調720からあらゆる音を出すことができるもので、モスクワの音楽界に新たな創造的地平線を開いた。

 鍵盤はなく、光線が光電セルに通る線がガラス上にあり、音楽の絵画のようであった。

 当時としては理想的な発明であった。宇宙開発時代で、ANSは「宇宙」音楽を奏でることができた。現代のシンセサイザーとは異なり、この楽器は演奏用ではなく、サウンドの作成用につくられていた。

 ANSで音楽を作成するために特別に設置されたムルジン率いる実験室からは、ソ連映画の多くの作品が生み出された。ソ連の作曲家エドゥアルド・アルチェミエフとスタニスラフ・クレイチは、ANSシンセサイザーで「ダイヤモンドの腕」(1969年)、「惑星ソラリス」(1972年)、「鏡」(1975年)などの映画のサウンドトラックを書いた。

 「私の音楽キャリアにおいて、電子言語が映画音楽の楽譜の基礎となった唯一の作品が『惑星ソラリス』」と、アルチェミエフは語っている。

 1967年、ムルジン率いる電子音楽実験スタジオがモスクワのスクリャービン博物館に開設された。この時までに、ムルジンは退役していた。1969年、ソ連・ドイツ作曲家アルフレート・シュニトケはANSで「流れ」を作曲。「これは音響を厳密に形式化する試みであった」と後に述べた

 ムルジンは1970年に死去。その後、ANSは、人がイルカの言語を学び、話すトレーニングに使用された。ANSは最終的にはモスクワ国立大学に移され、現在も保管されている。

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