利賀村でロシア版ハムレット

 ロシア文化フェスティバル「ロシアの季節」の一環として、サンクトペテルブルク・アレクサンドリンスキー劇場の「ハムレット」が、演出家・鈴木忠志氏が率いる「演劇の聖地」、富山県利賀芸術公園で上演された。この舞台は、芸術公園のサマー・シーズン2017のプログラムに入っており、日本の観衆は初めて接した。ロシアNOW記者は、楽屋裏を訪れ、アレクサンドリンスキー劇場のワレリー・フォーキン芸術監督に話を聞いた。

芝居のリハーサル=ナタリア・ススリナ撮影芝居のリハーサル=ナタリア・ススリナ撮影

 今回の「ハムレット」の舞台は、 利賀の演劇空間に合わせてある。アレクサンドリンスキー劇場の舞台装置の縮小版を特別に木材で作り設置した。

芝居の舞台=ナタリア・ススリナ撮影芝居の舞台=ナタリア・ススリナ撮影

 また、日本のほか、中国、オーストラリア、アメリカなどを含む世界各国の俳優、研修生も、上演に参加した。彼らは、鈴木忠志氏のもとで、スズキ・トレーニング・メソッド・プログラムにより研鑽を積んでいる。

ハムレットとレアティーズの剣術試合の稽古=ナタリア・ススリナ撮影ハムレットとレアティーズの剣術試合の稽古=ナタリア・ススリナ撮影

 ワレリー・フォーキン監督は、こうした日本の演劇スクールについて、また日本の俳優たちとの共演や日本の観客の特徴などについて、ロシアNOWに語ってくれた。

最も現代的な演出の『ハムレット』でさえ、欠かせない小道具がある。髑髏だ。=ナタリア・ススリナ撮影最も現代的な演出の『ハムレット』でさえ、欠かせない小道具がある。髑髏だ。=ナタリア・ススリナ撮影

古典芸能と現代芸術の人気

 「バレエや音楽の公演が成功するのはむしろ自然なことだ。それは言葉を必要としない、より普遍的で国際的な言語なのだから。だが、新しい芸術となると話は別で、既存のイメージをひっくり返さねばならず、誰もがそれを受け入れる準備ができているわけではない」

芝居の舞台=ナタリア・ススリナ撮影芝居の舞台=ナタリア・ススリナ撮影

 「我々が上演する『ハムレット』は非常に“現代化”されている。例えば、俳優は、現代の衣装を着たり、歴史的衣装をまとったりする。こういうのも、一部の観客にはあるていど理解しにくいだろう。概して、異なる意味の流れを捉えられないような観客には難しいのは当然だ。いくつかの意味の層が展開し始め、それらの背後にある内的な流れを捉えねばならないとなると、やはり難しい。それには一種の教育が必要になる。どんな観客も準備、教育されねばならない。ロシアにはそうした問題があり、我々はこれに取り組んでいるわけだが、日本にも同じ問題はあると思う」

ローゼンクランツを演じる俳優チーホン・ジズネフスキー=ナタリア・ススリナ撮影ローゼンクランツを演じる俳優チーホン・ジズネフスキー=ナタリア・ススリナ撮影

日本の観客

 「日本人は、その性格からして、また物事の受容の仕方からして、とても統制がとれており規律正しい。ホールではとても注意深く、態度も抑制されていいる。開けっ広げな反応、感情は示さない。そういうことがあっても極めて稀で、特定のジャンルに集中している。例えば、トークショーとかある種のコンサートでは、若者はオープンにふるまうことがある。だが、私が目にした限り、演劇では常に控えめな反応で、とても滑稽な場面があっても、微笑が浮かぶか、小声で笑うくらいだ。ヨーロッパやロシアのように爆笑するようなことはない。しかし、だからといって、日本の観衆に気に入らなかったとか、ユーモアが分からなかったとかいうわけではない」

舞台裏=ナタリア・ススリナ撮影舞台裏=ナタリア・ススリナ撮影

日本の俳優たちとの共演

 「日本の俳優たちと稽古したときに、私は彼らに自分の“楽譜”や、自分がもっているロシア的イメージを詰め込もうとしたのだが、しばらくして、何かうまくいっていないと感じた。それから、彼らが、私の押し付けたイメージでがんじがらめになり、自分の“地”のための空気が足りなくなっているのだと悟った。それで通訳と俳優にいろいろ話を聞き、手加減し始めると、彼らはのびのびするようになった。それで、私は彼らを、ロシア的テンポ、リズム、しゃべり方で締め付けるのをやめた。これは彼らには別の言語なのだから。すると、すぐにすべてがうまく行きだした」

舞台裏の俳優ステパン・バラクシン=ナタリア・ススリナ撮影舞台裏の俳優ステパン・バラクシン=ナタリア・ススリナ撮影

日本の演劇

 「ある条件を設定する芝居のシステムは、日本のほうがより発展している。もっと鮮やかだし、そもそも歴史的なルーツがあるのだから。つまり、能、歌舞伎などの古典芸能に発している。こういうシステムは一定程度、鈴木氏のスクールとそこでの訓練にも活かされている。だから、私の考えでは、フォルム、形式、俳優の統制などに関わるすべては、日本の演劇の強みだと思う」

富山県利賀芸術公園の野外劇場=ナタリア・ススリナ撮影富山県利賀芸術公園の野外劇場=ナタリア・ススリナ撮影

日本との縁

 「私の経歴にはあるていど日本とのつながりがある。だから、日本では快適だし、これが大事なことだが、ここでは私は十分に自由な感じがして、緊張せずに済む…。日本人はグルジア(ジョージア)人に似ていると思うことが時々ある。グルジア人はとてもとても控えめだが、感情を爆発的に示すこともあり、とても親切で、センチメンタルなこともある」

9.鈴木忠志氏構成・演出の『世界の果てからこんにちは』。利賀フェスティバル世界演劇祭のオープニングにて。=ナタリア・ススリナ撮影9. 鈴木忠志氏構成・演出の『世界の果てからこんにちは』。利賀フェスティバル世界演劇祭のオープニングにて。=ナタリア・ススリナ撮影

将来の計画

 「現在我々が(というのは、『演劇オリンピック委員会』の委員のことで、鈴木忠志氏も入っている)いろいろ心を配っているのは、2019年にサンクトペテルブルクで『演劇オリンピック』を開催しようとしていること。これはすでに2001年にモスクワで行われている。こうしたグローバルな演劇のイベントがペテルブルクで行われるのは正しいことだと思う。この街は、この種の演劇見本市に驚くほどマッチしているからだ。日本を含めて様々な国の劇場が来てくれればと思う。それぞれの劇場で出し物を上演できるし、6月の白夜の時期は、路上でも城塞でも、その他の屋外の開けた空間でも可能だ。この都市自体が、その建築からして演劇的なのだから」

鈴木忠志氏構成・演出の『世界の果てからこんにちは』=ナタリア・ススリナ撮影鈴木忠志氏構成・演出の『世界の果てからこんにちは』=ナタリア・ススリナ撮影

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