メイドのアリョーナさんとナースチャさん=
ナタリア・ススリナ撮影メイドのアリョーナさん(アリョ先輩)とナースチャさん(ナースチャん)によれば、平日の来客は多くないそう。とはいえ、午後3時に開店して15分たつかたたないうちに、店内のテーブルの半分はうまる。一日で一番忙しい時間帯だ。ロシアのポップスと人気アニメソングが交互に流れてくる。ロシアのバンド「ウマサーマン(Uma2rmaN)」、グループ「イヴァヌシキ・インターナショナル(Ivanushki International)」、古いソ連映画のサウンドトラックが流れたと思ったら、日本のアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の主題歌や宮崎駿監督の作品の曲が流れてくる。
店はこぢんまりとしているため、人が大勢いる気がする。来客の多くは男性の一人客だが、二人組もいる。
2人の女子学生に近づいてみる。テーブルの上にはケーキがあり、興味深そうに店内を見まわしている。2人は近くにある早稲田大学の学生だ。「メイドさんたちはめちゃめちゃかわいくて料理おいしい!ケーキしか食べていないけどめっちゃおいしい」と、一人が笑顔で答えてくれた。大学の専攻はロシアとは無関係だが、ネットでイタカフェのことを読み、ロシア料理を試食しようと来店したのだという。
ナタリア・ススリナ撮影
イタカフェには10人ほどの常連客もいると、アリョーナさんとナースチャさんは話す。訪問客の中にはアニメやサブカルチャーのコスプレの愛好家も多い。
「今、『ユーリ!!! on ICE』というアニメがロシアに関係のある内容になっているため、それを見てこういう『イタカフェ』へ行ってみたいと興味を示されたり、一ヶ月前ぐらいに来たお客さんからは、ここでユーリ(『ユーリ!!! on ICE』)のアニメファンだけで集う食事会できないかと問い合わせもあったり。そういった人たちがここにきてくれる」と、この店の考案者の一人でマネージャの大森拓也さんは話す。
早稲田大学の学生のように、ネットやテレビでイタカフェのことを知り、興味を持って来店する人も多い。ここでは文字通り、ロシアの家庭料理がふるまわれる。ロシア女子のメイドが手づくりしているのだ。大森さんによれば、テレビ東京の番組「モヤモヤさまぁ~ず2」で紹介された後、来客が大きく増えたという。この番組では、番組を進行するお笑い芸人とアナウンサーが来店し、ナースチャさん、アリョーナさん、カーチャさんと話し、コーヒーを飲み、メイドの一人と記念写真を撮影した。このような一人との写真撮影は1500円。メイドが二人になると2500円支払うことになる。来客の半数は、このサービスを利用する。
メイドの二人との写真撮影になると2500円支払うことになる。
メニューにのっている、ビネグレット(ビーツ入りサラダ)やオリヴィエのようなロシアの伝統的なサラダからボルシチやデザートまでの料理すべてを、メイドたちが毎日手づくりしている。これが他のメイドカフェと大きく違う特徴の一つである。通常は半製品が使われているため、料理というよりも雰囲気を求めて来店する人が多い。
イタカフェを訪れる人は、料理と雰囲気の両方を求めている。シチー(キャベツのスープ)、ボルシチ、ビネグレット、シャルロットカ(リンゴケーキ)などのロシアの家庭料理を食べることのできる店は、東京であっても少ない。日本語が堪能なロシア女子と交流する機会もあまりない。
ここは雰囲気も家庭的である。アリョーナさんとナースチャさんは、来客とフレンドリーに話すよう努めている。それでも、日本の普通の店で使われるような挨拶や応答も欠かさない。日本語とロシア語の両方で、「いらっしゃいませ!/ダブロ・パジャーロヴァチ!」、「ありがとうございます!/スパシーバ・バリショーエ!」などと言う。
ナタリア・ススリナ撮影
ナースチャさんは、「肉入りソバ粥」用のニンジンをおろし金でシャリシャリすりながら、仕事の大変な部分について語ってくれた。
「ジャガイモの皮むきを3~4キロ分もしなければいけないことがある」。それでも、疲れを感じないのだという。「実際のところ、ここで働くことが好き。なぜか疲れない。自宅のキッチンにいるみたいだからかな。前の仕事はもっと大変だった」とナースチャさん。
ボルシチ=ナタリア・ススリナ撮影
一番人気のメニューはボルシチ、次はピロシキ。ピロシキは本日の分がなくなってしまったため、記者はボルシチを頼んだ。ボルシチには、サワークリーム、マヨネーズのどちらかを入れることができる。伝統にしたがって、サワークリームを選ぶ。ボルシチの味は本当に家庭的。濃厚なブイヨンにビーツとたっぷりの肉が入っている。まるで誰かの家に寄って昼ごはんを食べているよう。
ナースチャさんは、ボルシチの味をオリジナルに仕上げるのに工夫が必要だったと、営業秘密を教えてくれた。レシピを守っているのにブイヨンの濃厚さをなかなかだせず、鍋を変えてみると、しっかりとしたブイヨンができた。鍋底の薄さが問題で、薄いと十分なブイヨンにならない。鍋底を厚くすることで、ブイヨンに深みがでるという。
ナタリア・ススリナ撮影
大森さんによれば、メニューを増やすことを計画中だという。リピーターはすでに、すべてのメニューを食べつくしているためだ。「リピーターはたくさんいて、メニュー選びに困ってる」とナースチャさん。とはいえ、メニューは決して少なくない。クラスノダル地方のタマニ村のロシア・ワインや発砲ワイン「アブラウ・デュルソ」まである。ところで、来客の中でアルコールを注文していた人はいなかった。
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