ロシア越冬サバイバル・ガイド

=イゴリ・シャイマルダノフ
 冬場ロシアを訪れたことがないというあなたも、おそらくはお聞き及びであろう。この季節、厳しい寒波が我が国を襲い、もはや自動車は物の役に立たないので、人々は橇をクマに曳かせ、そのクマはウォッカを燃料として走る・・・等々の、珍奇な風説の数々を。実際にロシアで冬を越そうとする場合に、どんな心得が必要になるか。虎の巻にまとめてみた。

・我が国の冬はたしかに寒い。少なくともロシアの欧州部(ウラル山脈以西)では、零下10度が基本である。一部地域ではこれより遥かに恐ろしい数字まで気温は下がる。シベリアでは時に水銀柱がマイナス50度を指すことも。

 そんな事情であればこそ、よく外国で人に驚かれるのが、湿った風の吹く気温0度という条件下で、ロシア人が「おお、寒いな」と呟く・・・などというとき。予め断っておく。ロシアの冬はたしかに寒い。だが、だからといって、ロシア人が寒さに強いというわけではない。0度でも寒いときは寒いのだ。

・ある夜降り始めた雪が、その後いつまでたっても降り止まない。冬に雪が降ることは自明であり、ロシア人にはニュースにもならない。ただし、除雪当局は別だ。待ってましたとばかりに除雪車が大挙出動、車線という車線を占拠してしまうので、こんな朝には自動車で出かけないのが賢明。二丁先まで行くのにも普段の三倍は時間がかかる。それでもどうしても車で出かけたいという人は、30分ほど早起きすること。自分の車を見つけ出し、雪から掻き出し、温めるのにそれだけかかる。

・車よりなおひどい目にあうのが靴である。舗道にふんだんに化学融雪剤が撒かれる。これが靴によくない。雪がなくなるのは結構だが、靴に大きな染みや色褪せが生じることもまた避けられない。これをきれいに除去して靴を傷つけないことは至難の業だ。

=イゴリ・シャイマルダノフ=イゴリ・シャイマルダノフ

・ロシアの冬は思いがけないときに始まり、思いがけないときに終わる。時には12月に気温がプラスに転じることもある。これはもちろん、新年祭の雰囲気を台無しにするものである。積もった雪の表面がきらきら煌くこともなければ、雪だるまの姿も見えず、公園で「歩くスキー」を楽しむ人もいなければ、子供たちが橇遊びに興じることもない。しかし、これで冬が終わったと思うのは早計。12月が暖かい年の冬は長い。4月といえば、他の国ではもうビーチのバカンスの支度を始める頃であろうが、ロシアでは人らはマフラーに顔をうずめて歩き、子供は雪玉を投げて遊んでいる。こうした冬の気まぐれぶりは、自動車にとってまたひとつ悩みの種なのである。タイヤのチェーンをいつ着け、またいつ外すべきか、読めないのだ。

・ロシアでは俗に、冬結ばれたカップルは一番長続きする、と言われる。互いの恋心が3枚のセーターと2枚のコートを貫いて心を射抜いたということなら、さすがにその恋情は本物なのだろう、長続きもしよう、というわけだ。この説を裏付けることも反証することもあえてしまいが、忠告まで。あまり薄着し過ぎるのも、よくありません。

・冬、と聞いてロシア人が連想するのは新年祭である。大晦日~降誕祭(ロシア正教会の暦に従い1月7日に祝われる)にわたるこの祭典は冬季最大のイベントであり、これがあればこそ、冬は魔法の季節、おとぎ話のような季節なのだ。

=イゴリ・シャイマルダノフ=イゴリ・シャイマルダノフ

 カトリックのクリスマス(12月25日)はほぼ素通りだが、概して12月という月は、お祝い事の前の慌しさに満ちている。デパートなどは買い物客でごった返していて、両手に大量のプレゼントを提げた人波を掻き分けていくには俊敏さが必要だ。広場には市が立ち、公園にはスケートリンクが設けられ、そここに満艦飾のモミの木が建てられ、祝祭の雰囲気を盛り上げる。

・実務的な忠告。もし歳末に仕事上の会合をご計画でしたら、何はともあれ1月半ばに延期なさるようお勧めします。新年祭が近づくと、ロシア人はお祭りモードに突入し、プレゼントを買ったりモミの木を飾ったりする以外のことにはろくろく気が回らなくなる。新年も8日までは一国まるごと休業する。そういう次第で、重要な案件や催し物はどうぞ後回しに。

 ロシアには春や秋が来ないこともある。しかし冬は必ず来る。ときには4月にさえやって来る。ロシアで冬を越すことは、一筋縄ではいかない。だがその見返りに、あなたが他所では絶対に得られない経験をし、ポジティブな感情に満たされることは請け合う。

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