密かな愛の贈り物『初恋』:秘められたストーリーが語る真実

刊行:2014年5月

角伸明 著

群像社

 

 ツルゲーネフ(1818-83)の中篇『初恋』(1860)は謎めいた作品だ。隣家の女性に対する少年の思慕を甘美に描いた叙情性の一方で、女性の心を奪うのは、なんと少年の父親である。父親に鞭打たれた腕に女性が唇を寄せる光景を少年が窃視するという、一見倒錯的なシーンは特に印象深い。

 そのような『初恋』を対象とした本書で、著者は理論や方法に依拠せず、いわば抜き身でテキストと向かい合っている。セリフや細部に込められた意味を、ときに時代状況も参照しつつ読み解き、父親とヒロインの純愛のかたちを鮮やかに浮き彫りにしていく。発表当時からしばしば背徳的と非難された『初恋』が、作者にとって最重要の作品であり続けた理由が明らかになる。

 小説を読むことの喜びと感動を思い出させてくれる名著。