ソ連映画の7人の女

『モスクワは涙を信じない』 / 写真提供:Kinopoisk.ru

『モスクワは涙を信じない』 / 写真提供:Kinopoisk.ru

ソ連映画に登場した女性像のなかで最も成功したばかりか、今日までアクチュアルな心理的タイプをご紹介しよう。ソ連映画は多くの点でハリウッドを模しており、独自のスター製造工場を持ち、絶対に観客に受ける人物像を集積していた。ゲシュタルト心理学の専門家であるナターリア・ケドロワさんが、古い映画に込められていた心理的タイプと、現代女性の欲求について語ってくれた。

 自立した女性 

 『モスクワは涙を信じない』(1980年度のアカデミー外国語映画賞を受賞)は、ゼロからすべてを獲得し工場長になったキャリア・ウーマン(ヴェーラ・アレントワ)の物語だが、ヒロインは、個人生活がうまくいかないことを嘆く。「まだあの人たちには言わないで欲しいんだけど、すべてが実現した今になって、オオカミみたいに泣き喚きたくなるのよね」

 これは一から十まで、自分自身で自分を創る女性のタイプだ。自己分析、意志力、自己管理、客観的な自己評価と、すべての能力が発達している。その一方で、忍耐し、じっと待つこともでき、自分を惜しまず、一歩一歩目的に向って前進していく。瞬く間にキャリアを築き、ローンでマンションを買い、子供を育てる。

 このタイプの女性は、誰にも何に対しても負っておらず、そのキャリアは、コネや上役の好感によるものではなく、知識、経験、能力の上に築かれたものだ。だから、仕事は妥協せず、決然と行うのだが…。

 

セルフィーするブロンド女性

『イワン・ワシーリエヴィチは職業を変える』/ 写真提供:Kinopoisk.ru

 『イワン・ワシーリエヴィチは職業を変える』は、最もポピュラーなコメディー映画の一つで、あのイワン雷帝がタイムマシーンで現代のモスクワに現れるという設定だ。ヒロインは、ナターリア・クスチンスカヤ演じるブロンドの美女で、やはり映画監督ヤキンのガールフレンド。映画全体では脇役だが、とても印象的。彼女はうまくヤキンを“ものにする”や、さっそく自分の女友達に片っ端から電話をかけまくる。「あのねガーリャ…ヤキンはやっとあのキキモラみたいな女を捨てたのよ!」

 彼女はいつも目立っていないと我慢がならず、もし誰か他の女性が注目を浴びたりするとパニックに陥る。モットーは「常にトレンディーであること」。この手の女性は、どこかのオフィスで働いているかもしれず、男にくっついているかもしれないが、どんな仕事をしているのかよく分からないことが多い。でも必ず「仲間の輪の中」にいる。彼女にとって重要なのは、あらゆる点で流行の先端を行き、しかも、それを見せつけてやることだ。

 

普遍的女性上司 

 やはり超人気のコメディー映画『ダイアモンド・アーム』の主人公(ユーリー・ニクーリンが扮している)は、ありふれたソ連の観光者で、たまたま気を失っている間に、腕に、大量の宝石をはめ込んだギプスを付けられるという奇想天外な筋立てだが、脇役の公共サービス課のいかつい女課長も印象に残る。たまたま主人公が女性といるところに来合わせた課長は(この映画では何でも「たまたま」起きる)、彼の「犯罪」を暴こうと躍起になり、こう叫ぶ。「人間を信用できることなんてほとんどないわ!」

『ダイアモンド・アーム』 / 写真提供:Kinopoisk.ru

 これは厳格で、内心攻撃的で短気かつ狂信的なタイプであり、感情は抑圧されている。ふつう、この型の女性は、中間管理職に就いている。彼女の欲求は、何か根本的、本質的な決定を下すことよりも、他者を支配すること。しかし、こういう女性は常に必要とされる。他人の思想やイデオロギーを鵜呑みにし、それをあたかも自分のもののように冷徹に遵守する女戦士なのだから。

 

何でもほどほどの優等生 

『コーカサスの女虜』のニーナ / 写真提供:Kinopoisk.ru

 これまた超人気コメディーの『コーカサスの女虜』は、誘拐婚の伝統を背景に、都市から山間部の親戚のもとにやって来た美人女子学生のニーナ(ナターリア・ワルレイが演じる)が誘拐され、ドタバタ喜劇が展開していく。

 このヒロインは、普通の教育ある家庭に生まれ、何でもバランスが取れている。ヨガをやり、数ヶ国語を学び、あちこち旅行しているが、すべてほどほどで、入れ込みすぎることはない。こういうタイプは、自分が興味をもったことに取り組むが、それを人生唯一の目的にするほど“狂信的”でははない。

 

世界のお祖母さん 

『シャーロック・ホームズ』/ 写真提供:Kinopoisk.ru

 ここでの『シャーロック・ホームズ』は、アーサー・コナン・ドイルの原作にもとづくソ連の連ドラ。リナ・ゼリョーナヤがミセス・ハドソンに扮している。彼女の信条は、「私はね、ドクター、誰がやって来て、誰が去っていくかなんてことは気にしないことにしています…あなたにもおすすめしませんわ」

 これは、「若者」つまりホームズとワトソンとは別の世代の人間で、我慢強く、開けっぴろげで、人懐っこい女性だ。新時代とその文化に平静に対しつつ、自身の価値観を捨て去ることはない。自分の経験を分かつ一方で、子供や孫の経験も好奇心をもって試してみる。彼女は世代間をつなぐ環だ。

 

ドブネズミの変身 

 『職場恋愛』は、モスクワのとある研究所の女性所長と部下との恋愛を描いた喜劇。この部下は、初めは出世のために所長に言い寄っていたのだが、やがて本気で惚れ込んでしまう。アリサ・フレイドリヒがコチコチの堅物のドブネズミのような所長を見事に演じている。最初の頃、彼女のモットーは、「プライヴェート・ライフ?ほかにも面白いことがたくさんありますよ!」

『職場恋愛』 / 写真提供:Kinopoisk.ru

 これは内心不安を抱えた、自分に自信が持てないタイプで、親愛な関係を築き、自分の女性性を認めるのが難しい。発達した知性と仕事の能力で、職業上で自己実現により、人間関係の欠落を埋めようとしている。 

 

妻にして母 

『愛と鳩』 / 写真提供:Kinopoisk.ru

 コメディー『愛と鳩』は、田舎に住む男性が、保養地で恋に落ち、家庭を去るが、結局、妻(ニーナ・ドロシナ)のもとに戻るというお話。彼女は働き者で、いつも忙しく、いつも疲れており、夫をあまり尊敬していない。ガミガミ言わないと、何もやらないと信じ込んでいる。この手の女性がキャリアを築くことは滅多にない。彼女の使命は、家庭全体の母であること(大家族であることもある)。もし、自分で働いて子供達を養わねばならない場合は、二つ三つの低収入の仕事に精を出して、何とか家族を養うが、自分自身の欲求には――“生理的な”それも含めて――無関心だ。

 

記事全文(露語)


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