ロシア人は、イギリスの作家トールキンが描いた小人ホビットのように、きのこというと目がない。季節が夏から秋へ移り変わるにつれ、ロシア人は、原始的な狩猟本能を刺激されるのか、体の中がウズウズしてしょうがない。長い杖と枝編み細工の籠を手に、彼らは獲物を求めて森に入り込み、ポルチーニ、白ボタンやアンズタケなどを血眼で探し回る。9月の日曜の夕方に散歩に出かけると、必ずといっていいほど、キノコの香りをプンプン漂わせる籠やバケツを手に、くたびれながらも誇らしげに郊外の電 車の駅を後に自宅へ向かう、きのこ狩り愛好家たちに出くわす。
この国民的とも言うべきロシア人の情熱は、何に由来するのだろうか? それは、長い歴史があるだけでなく、例外なく万人が共有しているものだ。老いも若きも、富裕でも貧乏でも、男性も女性も、すかした都会人も田舎者も、 ロシア人は何世紀にもわたり、きのこ狩りに血道を上げてきた。
その魅力は、キノコ探しの不確実性にある。次に目にするモミの木の下に 何が生えているかは、誰にも予測できない。それともその理由は、自伝『記憶よ語れ』の中で、作家ウラジーミル・ナボコフが、母親のほとんど狂気の情熱として明かした(“他の執着”について考察する前に)、狩りのスリルによるものであろうか。
「彼女にとって主な楽しみは、きのこを探し求めること自体にあった。[…]母は、滴をしたたらせる木々の下 から姿を現し、私の存在に気付くと、運悪く収穫がなかったかのような、喜びに欠けた変な表情をするのだが、それが獲物をしとめた狩人が感じる至福を周 到にひた隠した、張りつめた感情であることが、私には分かっていた」。
ナボコフの母親は、キノコを調理するために台所に立つことは決してなかった。 「…召使いは、キノコが入った包みを受け取ると、彼女が立ち入ることが決してなかった場所に持って行ったが、そのキノコの運命に対しては、彼女はさっぱり興味を示さなかった」。
だからといって、それがあなたの関心の妨げになる必要はないのだ!キノコが新鮮で安く、沢山出回っている間に、ロシアに数多ある伝 統的なキノコ料理のひとつを試してみるといいだろう。ここに、食欲をそそる大麦とジャガイモを使ったマッシュルームスープの現代版をご紹介しよう。 醤油、トマトピューレやマデイラ・ワインに浸してもどした乾燥キノコを加えると、独特のうま味が増す。きのこが沢山採れますように!
材料:
バター、大さじ6白ボタンマッシュルーム、4カップ、洗って薄切りにするポルチーニ、2カップ、ポータベロあるいはアンズタケ、洗って1.5センチ未満に角切りにする乾燥マッシュルーム、1カップ、水洗いするマルサラ・ワインまたはマデイラ・ワイン、2カップ熱湯、1カップ玉ねぎ、1個をみじん切りにするにんにく、つぶしてみじん切りにしたもの、小さじ3、食塩を小さじ1トマトピューレ、小さじ2出し汁、8カップ(鶏、マッシュルームまたは野菜味)セロリの茎、3本、筋を取り除きみじん切りにする未調理の大麦、1カップ赤茶色のジャガイモ、2個、皮をむいて角切りにするニンジン、大きめ2本、皮をむいて角切りにする新鮮なタイムの芽、小さじ1醤油、小さじ3好みに合わせて塩と胡椒付け合わせ用のサワークリームと新鮮なタイム
調理法:
- 乾燥マッシュルームを冷たい水で洗う。 底の浅いボウルに入れ、ワインと温水に浸す。 20〜30分間そのままにする。
- 底の厚い鍋に、泡が出始めるまでバター小さじ3を溶かす。薄切りにした白ボタンマッシュルームを加える。 バターがマッシュルームをまんべんなく覆うようにやさしく混ぜ、蓋をして火を中火から弱火に調節する。 たまにかき混ぜながら、マッシュルームが「汗」をかき、水分を出しきってから再吸収するまで、25分間調理する。 しばらく置いておく。
- 大きめのダッチオーブンの中に残りのバターを溶かす。 玉ねぎとニンニクを、半透明になるまでソテー風に炒める。 セロリ、ニンジン、ジャガイモと大麦を加え、野菜が柔らかくなり始めるまで5〜7分間調理する。
- トマトピューレと醤油を加え、野菜にまんべんなくかかるようにかき混ぜる。調理したマッシュルームを加え、混ぜ合わせる。
- ふるいか水切りボウルの底にチーズクロスかペーパータオルを敷き、それを未使用のボウルの上にのせる。 穴あきスプーンを使って、もどされた状態のマッシュルームをワインと水の混合液から取り出し、その液体を注意してふるいに通し、混じったごみを取り除 く。 マッシュルームと液体の両方を鍋に入れる。 木製スプーンでかき混ぜながら、内容物が鍋の底に焦げ付かないように注意し、とろ火でゆっくりと5〜7分間煮る。
- 出し汁、角切りにしたマッシュルームとタイムを鍋に加える。 蓋をして25分間調理する。 大麦とジャガイモのデンプンがスープにかなりのとろみを与えるはずだ。好みのとろみになるまで出し汁を追加してスープを薄める。 好みに合わせて醤油や塩胡椒などの調味料の加減を調節する。
- 底の浅いスープ用ボウルに注ぎ、サワークリームと新鮮なタイムの付け合わせを加える。
*ダーラ・ゴールドスティーンによる「ロシア風レシピ」より。では、プリヤトノヴォ・アペティータ(美味しく召し上がれ)!
ジェニファー・エレメーワ
アメリカ人フリーランスライターで、モスクワに長い在住歴を持つ。 彼女はユーモアたっぷりのブログ、ロシア・ライト(Russia Lite)の著者で、料理に関するウェブサイト、ザ・モスコヴォア(The Moscovore)の創設者および管理者だ。 彼女の次の著作『レーニンのバスタブ(Lenin’s Bathtub)』は11月に発売予定。