ロシア通信撮影
6月はロシアで夏休みの始まる月。だが9年生と11年生は例外である。11年生(日本の高校3年生に相当)はEGEを受ける。この試験は各地域で実験導入されていたが、2009年に中等学校の卒業試験と大学の入学試験が統合され、全国の生徒が大学を自由に選べるような制度になった。
モスクワ北東部の中等学校の卒業生であるレラ・シェヴェリョワさんは今年、モスクワのある医科大学の無償枠(学費が国家予算から配分される学生の枠)への入学を予定している。過去の統計からすると、それには3科目で約270点が必要である。つまり国語(ロシア語)、生物、化学で100点満点中平均90点をとっていなければいけない。
3科目の試験の準備のために、11年生の時ずっと両親は娘に家庭教師を雇わなければならなかった。学校のプログラムだけでは、これほどの高い点数がなかなか期待できないからだ。
社会は支持していない
EGEの最初の実験的試みは2001年にロシアの地方の一部で行われ、2004年にモスクワの行政区の一部で行われた。2009年に正式な全国試験となったが、いまだに社会で完全な支持を得られていない。ロシア「世論」基金の調査によると、EGEに賛成している人は全体の23%、反対している人は49%。
興味深いのは、大学の教授や中等学校の先生の方が、学生、生徒、保護者よりもEGEを信頼している点である。「全ロシア世論研究センター」の調査によると、EGEが入試プロセスを簡易にしていると考える教師が60%いる一方で、社会ではそれが43%にとどまっている。
批判が多かったのは、今年廃止されたEGEの選択式問題。廃止に賛成した人は44%にのぼった。
実力があらわれるのは新試験か旧試験か
EGEをめぐる議論の主な焦点は、2009年より前に導入されていた試験と比較した時の客観性。生徒はかつて、通っている学校で対先生の試験を受け、次に選定された大学の入試を受けていた。
モスクワのユジュノエ・ブトヴォ地区のある学校の担任であるナタリヤ・フョドロワ先生によると、EGEの主な欠点は「生徒の通学全期間の努力を考慮に入れていない」こと、また受験の際に「生徒が強く緊張して実力をなかなか発揮できない」ことだという。
社会も同様の考え方をしている。世論基金の昨年4月の調査では、回答者の66%が、以前の試験システムの方が生徒の知識レベルを客観的に評価できると考えている。2009年9月の調査では、このように考えていた人が55%だった。
学校の元副校長で、現在モスクワ高等経済学院教育研究所の指導教官であるイサク・フルミン氏は、EGEを支持している。以前のシステムだと、学校で先生が助けてくれることもあったため、生徒の本当の知識がゆがめられていたし、また大学入試をめぐっては贈収賄が現在よりも活発だったから、というのがその理由。
何にストレスを感じるのか
EGEは通っている学校ではなく、中立的な領域で受けることが定められているが、シェヴェリョワさんによると、入試でまったくストレスは感じなかったという。
「全然怖くなかった。自分の学校に一旦集まって、案内されて試験会場の学校に向かった。会場の入り口で携帯電話を渡し(携帯電話を持ち込むと退場させられる)、金属探知機をくぐり、受け付けを済ませ、教室番号を受け取り、開始まで20~30分待っていた」とシェヴェリョワさん。
誰もがこのように落ち着いているわけではない。フョドロワ先生は、会場の監視カメラ、金属探知器のフレーム、見知らぬ先生など、監視体制が子どもに大きなストレスを与えると話す。「ストレスによって病気が悪化したり、血圧が上昇したりする。鼻血をだした男子生徒もいる」
モスクワ郊外のコロリョフ市第5学校の心理カウンセラーであるヴェラ・グレブネワ氏は、生徒がEGEを恐れるようになったのは昨年からだと話す。インターネット上に試験問題が流出する問題が多数起きたことから、去年、監視カメラが各教室に導入された。
フルミン氏は、EGEの重要度が極めて高く、再試験をすぐに受けられないことが、生徒にとって大きなストレスの原因になっていると考える。「例えば英語試験TOEFLは年4回行われるが、EGEは1年後にしか受けられない」とフルミン氏。
教師や心理学者は、EGEが生徒の生活の中でそれほど多くのストレスを与えていないという意見で、おおむね一致している。「性格から、自分の能力に自信を持てない子ども、動揺しやすい子どもが一番、EGEで苦労する。かといって他の形式の試験に変えても、同じように怖がるのではないか」とグレブネワ氏。
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