商業捕鯨はほぼ全世界で禁止されているが、歴史的に鯨を主食としている一部民族には、捕鯨権が与えられている。ロシアでそのような民族になっているのは、極北のチュクチ自治管区の住民である。
捕鯨のような過酷で危険な仕事を、極北の民は気まぐれでやっているわけではない。野菜も果物もまったくなく、農業を営むことが困難な条件のもと、鯨こそが、他の海洋哺乳類と同様、数千年にわたり、北極圏沿岸部に暮らすチュクチ人とエスキモー人の主要な食料源になり続けた。摂取することで、これらの民族の身体は、セイウチや鯨の肉と脂肪から、厳しい気候の中で生き抜くために必要なすべてのビタミンとミネラルを抽出できるように、順応していったのである。チュクチ人自身は、鯨の肉を食べなければ、自分たちの健康状態が明らかに悪くなるだろうと話す。チュクチ人の平均寿命は45歳を超えないが、その中年期の20歳までには、歯が落ち始める可能性がある。
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むろん、時代は変わっている。今日、捕鯨者の村には、船で食料備蓄が供給されている。だが10月から6月までの冬期、海からここへ行くことは不可能。その上、自動車道も鉄道も、チュクチ自治管区のこの辺境の地にはほぼ続いていない。9ヶ月もの間、ロシアの他の地域からほぼ完全に隔絶された状態になるのである。そのため、伝統的な捕鯨は、一部の村民にとって、誇張なしに、生き延びるための手段なのだ。
捕鯨の中心地は、ベーリング海の沿岸の村ラヴレンチーとロリノ。国際捕鯨委員会の割り当てによると、地元住民には年間140頭以下の捕鯨権がある。捕獲した鯨は食用に限られており、鯨の部位を販売することは厳しく禁じられている。また、捕鯨の際に狩猟銃を使用してはならないため、今日の捕鯨方法は数世紀前とほぼ同じ、銛を使ったものになっている。唯一の現代的な物はモーターボートだ。
写真:Geophoto
捕鯨自体は非常に危険である。どんな鯨でも捕鯨船の1.5倍ほどの大きさであるため、尾がぶつかるだけで船内の漁民すべてが犠牲になりかねない。ちなみに昔は、船から落ちた者を水中からひきあげなかった。救出によって鯨を逃す可能性があり、それが村民全員の飢餓を意味したため。
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時に数時間かけて捕獲される鯨は、村民の待つ岸辺まで銛のロープでけん引された。鯨が岸にあげられると、皆で一斉に解体した。解体しない部分は、永久凍土の中に掘られた特別な保管室に運んだ。ここで処理された肉は、何週間もかけて近郊の住民まで配られた。捕鯨者は自分の村の住民だけでなく、近隣の村の住民にも肉をわけていた。
捕獲され、死んだ鯨の一部には、特別な役割が与えられていた。チュクチ人はその一部から新たな鯨が復活し、再び人々のもとへ来ると信じ、海へ投げ入れた。チュクチ先住海洋動物捕獲者協会のウラジーミル・エトィリン会長はこう話す。「鯨が生きていれば、我々も生きている。鯨が死ぬならば、我々は鯨とともに死ぬ」
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