米大統領選とロシアのサイバー攻撃

ジェームズ・クラッパー・アメリカ国家情報長官=

ジェームズ・クラッパー・アメリカ国家情報長官=

ロイター通信
 「根拠ない」、「無力な」、「奇妙な」報告とロシアで評価されているのは、アメリカの情報機関を統括する「国家情報長官室(ODNI)」が公開した、ドナルド・トランプ氏の当選を目論んでロシアが仕掛けたとされるサイバー攻撃に関する報告だ。

 ODNIは、報告「最近のアメリカ選挙におけるロシアの活動と狙いの評価(Assessing Russian Activities and Intentions in Recent US Elections)」を公表。その中で、ウラジーミル・プーチン大統領はサイバー攻撃を組織し、アメリカの大統領選に介入したとして、非難されている。ロシアでは、この報告に対する疑問点が示されている。政治家や社会が特に指摘しているのは、裏づけが一切示されていない点だ。

 

また「魔女狩り」

 この報告を受けて、ロシア大統領府はこういった非難に「ほとほと疲れ果てた」とコメントした。「アメリカが自国の歴史のさまざまな段階において、このような『魔女狩り』の段階を経てきたことは理解している」し、このような「感情的な攻撃」は落着き、冷静な取り組みへと替わるだろう、とドミトリー・ペスコフ大統領報道官は話し、ロシア政府当局者も省庁もサイバー攻撃に無関係だと強調した。

 ロシア下院(国家会議)では、報告が「侮辱」だと評価されている。それも、アメリカ国民に対する侮辱だという。報告の半分はロシアのテレビ局「RT」の活動に関するもので、RTが選挙期間中、共和党候補のドナルド・トランプ氏寄りで、民主党候補のヒラリー・クリントン氏に否定的な観点を伝えていた、と書かれている。「ロシアの情報資源がアメリカの有権者の意見に大きな影響を与えた可能性があるという報告は、アメリカ世論に対する直接的な侮辱になる」と、ロシア下院情報政策委員会のレオニド・レヴィン委員長。アメリカの政治機構にとってさらに侮辱的なのは、「アメリカの政党の一つに関する複数の事実が明るみに出たことは、200年のアメリカ国家機構への脅威になった」という部分だと、レヴィン委員長。

 ロシア外務省のマリヤ・ザハロワ報道官は、交流サイト(SNS)「フェイスブック」の自身のページで、皮肉を込めてコメントした。「『ロシアのハッカー』がアメリカで何かを破壊攻撃したのだとしたら、それは2つの物だと思う。それはオバマ大統領の脳みそと、この『ロシアのハッカー』に関する報告自体」

 

ロシアがやったに違いない

 報告は、ロシア政府の狙いについての「いくつかの結論」が、ロシアのメディアやSNSで伝えられたロシアの政治家の発言にもとづいて出ている、と認めている。ロシアの親政府メディアもこの点に注目し、このアメリカの”センセーション”を批判的に受け止めている。「アメリカで、テレビと『ツイッター』をもとに、サイバー攻撃に関する報告がつくられた」と、「ヴズグリャド」紙は書いている。

 ロシアの政治家がトランプ氏の当選を「祝った」ということは、攻撃に関与したことを意味する、という報告の部分は、多くの人にとって奇異なものであった。報告では、例えば、証拠として、ロシア自由民主党のウラジーミル・ジリノフスキー党首の発言「トランプ氏が勝利したら、11月9日はシャンペンを飲むぞ」があげられている。バラク・オバマ政権の対ロシア政策の継続つまりはクリントン候補の当選を、ロシアの政治家や官僚が望んでいなかったことは、秘密でもなんでもなかったし、この喜びはわかりやすいはず、と政治学者で国際関係専門家のミハイル・トロイツキー氏はラジオ局「コメルサントFM」で話した。「喜んだからといって、トランプ氏を積極的に助けたという意味にはならない」とトロイツキー氏。

 

アメリカは評判をリスクにさらしている

 もしかしたら、報告の秘密の部分に証拠があるのかもしれない。これはトランプ氏の陣営、オバマ氏の陣営、情報特別委員会のみに開示されている。社会は内容の薄い部分からしか結論を出すことができない。「(秘密の)半分の部分のない報告は、極めて無力に見える。報告には、いかなる新たな結論も、いかなる(約束されていた)論証もない」と、反体制派でアレクセイ・ナヴァリヌイ氏に近い人物であるレオニード・ヴォルコフ氏はSNSに書き、報告で「SNSにおけるRTのデジタル活動フットプリント」が証拠としてグラフで示されている点を指摘した。「報告の秘密の部分の分析は、もっとまじめなレベルにあると信じたい」とヴォルコフ氏。

 今の問題は、この報告にどれほど真実味があるかということではない。政治環境の方が重要であり、報告そのもの以上の現実である。アメリカのすべての情報機関が報告に署名をしていることで、政治環境のまじめ度が示されている、とトロイツキー氏。「このような結論を出すことで、彼らは自分たちのプロとしての評判、おそらくキャリアまでをもリスクにさらしている...したがって、評判のリスクはかなり高い」

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