ロシア人はなぜドラゴン(クマではなく)に取り憑かれているのか?

ヴャチェスラフ・プラツィンダ撮影
 ロシアにあるのはレーニンやかつての偉大な詩人の記念碑ばかりではない。ロシア人は『ゲーム・オブ・スローンズ』に出てくる神話の獣も大好きである。

 ドラゴンはロシアでもっとも一般的な彫刻の一つであるのを知っているだろうか。この恐ろしい羽根のついた蛇はロシア国内の多くの都市で目にすることができ、多くの市や街のシンボルともなっている。驚いたという人もいるかもしれない。

1.カザン(モスクワの東方800キロ)

カザンの象徴であるジラント(タタール語で「ジラント」は「蛇」という意味)。「カザンの日」の祝いの時。後ろにはクル=シャーリフ・モスク。

 羽根のついた蛇「ジラント」はタタールの叙事詩に登場する生き物で、カザンのシンボルである。伝説によれば、ジラントは地元の山に住んでいた。現在はカバン湖に住み、シュユンビケ皇后の宝を守っていると言われる。ドラゴンのイメージはカザン・ハン国の国章や紋章にも描かれていた。現在は黄金の冠を戴くドラゴンのイメージはカザンの旗と紋章に描かれ、建物やフェンスなどにも飾られている。

カザンファミリーセンター

 さらに2つの有名なカザンのドラゴンがカザンファミリーセンターを守っている。ユニバーシアードのために建設されたこのセンターの建物はタタールの伝統料理を作る大釜に似た形をしている。

2.リペツク州(モスクワの南方400キロ)

 ロシア人にどこに行くのか?と尋ねたときに「“どこか”山だよ」という答えを耳にすることがあるかもしれない。しかしこの伝説の山を実際に見た人はいない。(というのもこのフレーズは自分がどこに行くのかを言いたくないときに使うからである)。しかしこの場所は、“どこか”山屋外アミューズメントパークと呼ばれる公園の中で見つけることができる。ズメイ・ゴルイニチ(直訳は「山のドラゴン」)と呼ばれる3つの頭を持つ巨大なドラゴンがここの王である。スラヴの民話によれば、このドラゴンは生と死の境界線であるカリノフ橋を守っている。ドラゴンは人を怖がらせ、口から火花や煙や火を吐く。公園の中でズメイ・ゴルイニチは最も人気のあるアトラクションである。毎週末、6時半にこのドラゴンが火を吐いているのを見ることができる。 

3.ソチ(モスクワの南方1,600キロ)

彫刻「金毛羊皮」、ソチ。

 ソチのドラゴンは金毛羊皮を守っている。アルゴナウタイについて描いた古代ギリシャ神話を基にした象徴的なこの作品は10年ほど前にソチに現れた。作者らは、2014年の冬季オリンピックと最初のオリンピック大会との結びつきを表したかったという。この金毛羊皮に触れると金運が上がるとか。信じるかどうかはさておき。

 4.ペテルゴフ(サンクトペテルブルグの西方45キロ) 

カスケード「チェス盤の丘」。建築家たちはヨハン・ブラウンシュタイン、アレクサンドル・ル・ブロン、ニコロ・ミケッチ、ミハイル・ゼムツォフ、ユーリ・フェリテン、ニコライ・ベノワ。.ペテルゴフ、下の公園。

 「ロシアのベルサイユ」と呼ばれるペテルゴフはロシアでもっとも有名でもっとも風光明媚な観光スポットの一つで、毎年数百万人の観光客をサンクトペテルブルグに誘っている。公園は美しい噴水がたくさんあることで知られる。中でも最も古いものの一つが巨大なカスケード「チェス盤の丘」。その上部の穴の部分を守っているのが3頭のドラゴンだ。水はドラゴンの口から出て、下にあるプールに落ち、そこから下の穴に流れていく仕組みになっている。

5.プーシキン(サンクトペテルブルグの南方25キロ)  

ドラゴン橋の彫刻。プーシキン市の野外博物館ツァールスコエ・セローにあるアレクサンドロフスキー公園。

 ロシア皇帝の夏の離宮であったプーシキン市(以前はツァールスコエ・セローという名であった)は多くのロシアの詩人や芸術家にインスピレーションを与えてきた。ここには18世紀にロシア帝国で人気があった中国風の面白い橋がいくつかある。ドラゴン橋には大理石の台座に4つの鉄の羽根のついた大蛇が飾られている。

6.ウラジオストク(モスクワの東方9,000キロ)

 ルースキー島にある極東連邦大学のキャンパスのシンボルは「友好のドラゴン」である。学生、スタッフ、そして訪問客に愛される存在だ。彫刻はオランダの芸術家ジョシュア・ペニングスによって作られたもので、2013年に大学に寄贈された。伝説によれば、賢くて勇敢なドラゴンは叡智と知識を与えてくれる魔法の宝石を持っていたが、それを落としてしまった。それが数世紀を経て、今大学がある場所で見つかったというのだ。以来、ドラゴンは知識の庇護し、怠惰を追い払う者と見なされている。

7.クラスノヤルスク(モスクワの東方4,000キロ) 

 2018年の夏、ゲーム・オブ・スローンズのデナーリスの子どもそっくりな像がクラスノヤルスク近郊に現れた。鉄製の巨大な像はニヤニヤし、羽根をはためかせている。しかしながら、尾には何か問題があるようだ(まだ作られていない)が、地元の人々は今のままのドラゴンが気に入っているという。どのようにしてこの像が現れたのかは明らかではない。

8.エリスタ(モスクワの南方1,300キロ)

エリスタの噴水「少年とドラゴン」

 カルムイク共和国の首都エリスタも独自のドラゴンで知られる。1995年に街の中心部に作られた少年とドラゴンの噴水はカルムイクの叙事詩に基づいている。伝説によれば、地元の少年が豪雨と雷を伴って現れる獣を撃退した。ドラゴンを追い払うことで、勇敢な少年は村と人々を破壊から守ったのである。

9.アギンスコエ(モスクワの東方6,500キロ)

ザバイカル地方のアギンスコエ村の近くに位置するアギンスキー・ダツァン(仏教の寺院)。

 アギンスキー・ダツァン(寺院)はザバイカル地方最大の仏教寺院である。最初の寺が建立されたのは19世紀初旬。規範にしたがって建設されたダツァンは多くのドラゴンの彫刻で飾られている。ドラゴンは知と天の力のシンボルとされている。

11.モスクワ

マネージュ広場にて。

 槍でドラゴンを殺める聖ゲオルギオスは中世からモスクワのシンボルとなっている。彼は人々を守り、外からの侵入者からの擁護者である。このシンボルはモスクワとロシアの紋章にも描かれている。そしてもちろんモスクワの中心部を飾る記念碑の一つにもなっている。

もっと読む:

このウェブサイトはクッキーを使用している。詳細は こちらを クリックしてください。

クッキーを受け入れる