ハバロフスク(モスクワ東方8500キロ)のマーケティングマネージャー、アレクサンドル・ゴロフコさんは、北朝鮮を訪れて、この国の実態を自分の目で確かめることに決心。そして、有頂天で帰ってきた。「メドゥーザ」誌のダリア・ミコライチュク記者が、彼の言葉をこう伝えている。「別の惑星にいるようだ。そこには携帯電話がなくて、人々はいつも幸せ」
ゴロフコさんも、それが物事の一面にすぎないことをよく承知しているが、次の休暇では、2014年に開業した、北朝鮮の馬息嶺(マシンニョン)スキー場で過ごす予定だという。世界の他のスキーリゾートと競合できると、北朝鮮は主張しており、10の滑走コースと60のスポーツ施設を備えている。1日の費用は約100ドル(約110円)で、観光客はあまり来ていない。
北朝鮮の馬息嶺(マシンニョン)スキー場、2017年2月20日=AFP
北朝鮮ツアーを販売している会社のマネージャー、エレーナさんによれば、月に5人ほどがマシンニョン・スキー場へのツアーを購入するとのこと。スキーに加えて、ゴルフツアー、登山、結婚式、ハンティングなどを提供している。しかし人々は、北朝鮮旅行はまだ危険だと考えている。
例えば、ジャーナリストのナジェージダ・アルセーニエワさんは、こんなケースがあったことを指摘する。彼女の同僚が、列車の窓からカメラで外をのぞいたところ、国境警備員がライフルを向けたというのだ。
北朝鮮の馬息嶺(マシンニョン)スキー場=AFP
北朝鮮のガイドは、観光客の行くところならどこへでもついてきて、見るべきではないものを撮影したり、地元の人々と触れ合ったりすることを禁じている。しかしそれでも北朝鮮は、極東諸国の観光の一中心地になろうとしている。韓国の消息筋によると、彼らの北のパートナーは、2017年には100万人に、2020年には200万人にまで観光客を増やしたいとしている。
とはいうものの、その同じ報告によれば、2012年に北朝鮮を訪れた外国人はわずか4500人、2014年はその3分の1にすぎなかった。しかし、隣国のロシアに対しては、他国よりも低い料金が設定されている。
北朝鮮の馬息嶺(マシンニョン)スキー場、2017年2月19日=AFP
ナタリア・コチュゴワ沿海地方広報担当によると、北朝鮮での休暇は、ロシア共産党員の間で人気があり、共産主義者のための特別なホテルさえある。北朝鮮は、イデオロギーの“真の力”を目の当たりにできる国なのだ。 「あそこの人たちは本当に指導者を信じていますからね」
「もし、ろくでなしみたいに振る舞い、規則に従わないのでないかぎり」、北朝鮮の安全に問題はない、と同氏は確信している。彼女はまた、最近死亡したアメリカ人学生のオットー・ワームビアさんも、許可されているものとされていないものを事前に教えられていたはずだという。
大人だけが北朝鮮を訪れるわけではない。毎年、ロシアの児童のグループは、サマーキャンプ(松涛園〈ソンドウォン〉国際少年団野営所)に行く。 2週間のツアーの価格は約4万ルーブル(約8万円)。
サマーキャンプ 松涛園〈ソンドウォン〉国際少年団野営所=AP
ロシアの少女、エヴァさんも、このツアーに参加した。彼女によると、ロシアの子供たちは北朝鮮の児童から隔離されていたが、夕方には一緒に踊ることが許された。また、両国の子供は、通訳者を通して、メモ書きを交換した。多くの北朝鮮児童は、休暇を取らずに寄宿学校で勉強していたという。エヴァさんは、彼らの育てられ方が気に入ったとのこと。
サマーキャンプ 松涛園〈ソンドウォン〉国際少年団野営所=AP
北朝鮮には、フェリーで行く方法もある。万景峰号(マン・ギョンボン)92号が、ウラジオストクから北朝鮮に乗客を運んでいる。マリーナ・オグネワさんは、このフェリーで、羅津(ラジン)のリゾートへ旅行した。3万ルーブル(約6万円)で、7日間のオールインクルーシブのビーチツアーだった。彼女はツアーにご満悦で、現在、ビデオブログ「北朝鮮に行こう」を運営している。
「私はあそこの人たちは飢えていると聞いていたけど、食事はとても良かった。政治的宣伝についてもいろいろ聞いていたが、私たちは普通に休暇を過ごした。みんな人も良かったしね」
金剛山リゾート、北朝鮮=AP
旅行会社「Fregat Aero」は、北朝鮮での行動規則に関するパンフレットを、客に提供している。それによると、観光客は、現地のガイドに贈物をすべきである。女性には香水や化粧品、男性にはアルコールとタバコ(ただしアメリカ製でないもの)がいい。軍人の写真を撮ることは禁止。宗教について話すのもご法度。ロシアのほうが生活が楽だと言うのもいけない。
「私たちはどんな国に行くのか分かっていたから、ツアーのガイダンスを慎重に聞き、指導者たちの記念碑にはお辞儀をし、10ユーロ分の花束を献花したけど、ツアーの最後のほうになると、イライラしてきた」
マリアさん(極東連邦大学大学院生)は、北朝鮮のビーチで休暇を過ごした。無人の浜辺で日焼けし、安価な魚介類を食べていたという。携帯電話サービスはないし、近くには工場もない。休暇には理想的な所だと思われた。ただ、ガイドはいつも観光客に目を光らしており、時々は観光客たちとおしゃべりすることもあったが、スーツをビシッと着ていて、身体を焼くことも泳ぐこともなかったという。
金剛山リゾートのホテル、北朝鮮=AP
「私たちはどこを旅しているのかわきまえていた。そこには自由がないことも。でも何が禁止されているのか、それを常に探していた」とマリアさんは言う。彼女はあるとき、北朝鮮の少年がビーチにいるのを見て、キャンディーを贈りたいと思ったが、彼にとって危険だと分かっていた。そこで彼女は、彼の近くを何気なく通り過ぎ、キャンディーを入れた袋を地面に置いていった。彼女は、少年がすぐにそれを取って逃げたのを見た。
マリアさんが北朝鮮を出国する際、彼女の携帯電話は、国境警備員によって慎重にチェックされた。警備員の一人が、シルベスター・スタローンのミームを発見。スタローンは滑稽なヘアスタイルで、「スタローンがもしロシアに住んでいたらどうだろう?」と書いていた。警備員は、スタローンについて尋ね、マリアさんが彼を知っているかどうか、アメリカの映画を持っているか聞いた。警備員は彼女の携帯で米映画を探し、スタローンとの関係について調べるのに40分を費やした。しばらくして、全員に列車に乗ることを許可した後、警備員は彼らのコンパートメントに入ってきて、ロシア語で尋ねた。「君たち、アメリカ映画を持ってないかなあ?僕はすごく見たいんだけど」
*「メドゥーザ」誌の記事を抄訳
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