バイカル湖=Alamy/Legion Media撮影
北半球のシャーマンの聖地はオリホン島。バイカル湖に浮かぶこの島は、北アジアのシャーマンの最後のとりでになった。チンギス・ハン時代の迫害から逃れて来たモンゴルのシャーマンの隠れ家となり、シャーマンはやがてブリヤートでの仏教の広がりとともに、ブリヤートのシャーマンになった。オリホン島とバイカル湖岸では、現在でも伝統儀式が行われている。バイカル湖とその周辺のシャーマンの聖地を、ロシアNOWが特集する。
シャーマン岩
アンガラ川の源流には、小さなシャーマン岩の断崖がある。そのまわりの川底には、貨幣がたくさんたまっている。古代ここに暮らしていた人々は、シャーマン岩に奇跡の力があると信じていた。ここで儀式を行い、いけにえをささげ、またぬれ衣を晴らすため、または名誉を守るために誓約を行っていた。容疑をかけられた人物は一晩中ここに取り残され、朝までに凍死していなければ、あるいは溺死していなければ、無実となった。
ルィトゥイ岬
写真:Geo Photo
ルィトゥイ岬はバイカル湖西岸に位置している。この場所は地元の人にとって聖なる場所で、旅行者の訪問が難しい場所である。ここには植物が生えず、人も暮らしていない。ここで道路は終わり、岸辺に沿った小道すらない。地元の人はルィトゥイ岬を呪われた場所だと考え、避けている。バイカル・レナ自然保護区内に位置しているため、岸辺に上陸する場合には、行政の特別許可も必要になる。
ホボイ岬
写真:Lori/ Legion Media
ホボイ岬(ブリヤート語でホボイとは犬歯を意味する)は、オリホン島最北の岬。断崖はするどい犬歯のようで、水域側から見ると、古代ギリシャのガレー船の船首に刻まれていた女性の体つきをほうふつとさせる。地元では断崖がデヴァ(若い女性、処女)と呼ばれている。ブリヤートの伝説によると、テングリ(バイカルのシャーマン)は、夫と同等の物をおねだりする妬みっぽい妻を石に変えたという。ホボイ岬は最近では、瞑想の人気スポットになっている。岸壁に反響するエコーが特徴。ここではめずらしい古代の残存草種を見ることができる。また冬は氷や透明なつららで装飾された美しい洞窟や、水面の断崖で長さ22メートルにもなる洞窟を見ることができる。
シャーマン断崖
写真:Lori/ Legion Media
バイカル湖でもっとも不思議な場所のひとつ、かつて「寺院岩」と呼ばれていたシャーマン断崖は、ブルハン岬にある。白い大理石、花こう岩、石英からなる断崖。有名なロシアの研究者であるウラジーミル・オブルチェフなどの、バイカル湖の初期の研究者は、この場所を沿バイカル湖のブリヤート人たちが恐れていると記していた。シャーマン以外は、この場所に近づくことができなかった。やむを得ず、ここに行かなければいけない場合は、バイカル湖の主の平穏を乱さないように、馬のひづめをフェルトとレザーで覆った。
シャーマン断崖の長さ12メートル、幅4.5メートルの洞窟は、礼拝の中心であった。ブリヤート人はこの洞窟に、バイカル湖の主であるエジン(ブリヤート語で神の意)が暮らしていると信じていた。ブルハン岬近くのフンジル村の住人の証言によると、古代シベリアに定住したさまざまな民族のシャーマンが、この洞窟を訪れたという。異教の司祭は今でも、ここでカルマを清め、呪いを取り去る儀式を行っている。
ボガトィリ岬
写真:Lori/ Legion Media
シャーマンをひきつけたのがオリホン島のこの岬。ロシア人旅行者が16世紀末にこの島に来た時、バイカル湖から空に向かって大きな火柱があがるのを見たことから、オグネンヌイ岬と呼ばれていた。火柱はよそ者を島の聖なる土地に近づけまいとしているようだった。
ブリヤートのシャーマンはここで、火、風、水の自然の力に関連した儀式を行う。1900年代初めごろまで、地元の部族の族長や長老は、岬に生まれたばかりの男児を連れてきていた。この場所に来ると、未来の指導者あるいは戦士が、特別な肉体の力や魂の力を得て、長生きすると考えられていた。
アルハナイ山
アルハナイ山(1665m)はブリヤートの仏教の聖地のひとつ。ふもとには大善寺院がある。この近くに位置する自然の洞窟の上部には、断崖深くまで入った亀裂があり、そこから滴る水には治効があると考えられている。
仏教僧の占星術的計算では、この頂上が中界への門、すなわち神のもとで人々が暮らし、神が暮らす場所だという。アルハナイ山の頂上の庇護者はデムチョグ神。チベット語では永遠の幸福を意味する。
古代からブリヤートとモンゴルの部族は、この場所を神霊化していた。ここには12ヶ所の聖なる場所があり、もっともあがめられているのがウウデン・スメ(門寺院)である。断崖の自然のアーチは、人間の世界とシャンバラを結ぶ路をつくっているという。アーチの下には、1864年につくられた小さな仏舎利塔スブルガンがある。
ブィク山
ブィク山はバイカル湖西端のイルクト川北部に位置している。ブリヤートの偉大なる祖先、地上の神、牧場と牧畜の庇護者であるブフ・ノイオンに関連している。現在この場所では、バイカル湖西部に暮らす、ブリヤートのシャーマニズムと仏教の儀式が行われている。
エヘヨルド丘
写真:rubur.ru
バイカル湖の西2キロメートルのアンガ川右岸には、エヘヨルド丘(42メートル)がある。人の手でつくられた丘のようであるが、地質学者はいまだに丘のプレートを人が運んできた形跡を見つけてはいない。
2000年にはバイカル湖先住民の春の祭り「エルドィン遊び」が100年ぶりに復活。以降4年に一度行われている。この遊びの見どころがエヘヨルド丘を囲む輪舞で、何日も続けられる。エヘヨルド丘を完全に囲むには700人必要。この祭りの平均訪問者数は2000~3000人。輪舞は昼夜を問わずに続けられるため、踊り子たちは何足もの靴をはきつぶしてしまう。祭りの時に丘の頂上にあがるのは、シャーマンだけである。
行き方
バイカル湖の聖地の多くはオリホン島にあり、外国人旅行客の巡礼の中心となっている。ホボイ岬、シャーマン断崖、ボガトィリ岬、ジマ山などがある。オリホン島への道中、エヘヨルド丘に立ち寄ることも可能。
*自動車で行く場合 イルクーツク市からカチュグ道を走り、オヨク、ウスチオルドィンスキー、バヤンダイ、コサヤ・ステピ、エランツィ、サフュルテなどの村を通過する。サフュルテのフェリー埠頭までの距離は250キロメートル。埠頭は5月から10月のシーズン、毎日7:30から22:00まで、30分間隔で船が出る。オリホン島の埠頭からフジル村までは、45キロメートルの砂利道もある。
*バスで行く場合 5月から10月までのシーズン、フジル村へはフェリー埠頭経由でバスが出ている。
イルクーツク市から毎日10:00に出発する(Ul. Oktyabr'skoi Revolutsii, 11 ost. Avtovokzal, Tramvai No.4)。所要時間は8時間。フジル村からの帰りのバスは8:45に出発する。
*船で行く場合 イルクーツク市から、ディーゼル船「バルグジン」号でフジル村まで行くことができる。夏のシーズン(6月中旬~)は毎日9:00にソルネチヌイ地区の「ラケタ」埠頭から出発する(Ost. «Raketa»、Avt. No.16)。所要時間は6時間。
聖地ブィク山はトルィ村近くの美しいトゥンキン谷に位置している。イルクーツク市からの距離は約180キロメートル。ふもとまでは自動車で行くことができ、その後1時間半ほどでのぼることができる。
旅行者に人気が高いのは、リストヴャンカ村付近のアンガラ川源流に位置するシャーマン岩。
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