=イゴリ・ストマヒン / Strana.ru
イゴリ・ストマヒン / Strana.ru
百人の騎手が、刈られた秋の野の端に整列した。女性は、婦人用の乗馬服、男性は、暖かなフロックコートに毛皮帽。狩猟係の合図で、隊列は、ゆっくりと前進し、獣を求めて野をまさに梳る。
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「ノウサギ!」ふいに誰かが叫ぶ。
フロックコート、長いスカート、ハット、その他の19世紀のアクセサリーのことを忘れて、騎手たちは、ギャロップで野を駆けるが、ノウサギは、三つ跳んで草茫々の谷間へ逃れると見えなくなる。
モスクワ郊外のイサヴィツィ村は、すでに18年、馬上散歩やアクティヴ・ツーリズムの愛好者たちを惹きつけている。1996年、馬上狩りの組織者で主任狩猟係のエフゲニー・マトゥーゾフさんは、チミリャーゼフ名称ロシア農業大学の動物技師学部を卒業する際、馬に関する論文を執筆した。当時、エフゲニーさんは、1812年の時代の軍事的歴史的再現に興味を持っており、ボロジノ平原に立つべく四人の友人と共にモスクワ郊外のとある厩舎で馬を借りた。
エフゲニーさんは、笑いながら当時を振り返る。「ひどい痩せ馬たちでしたが、ないよりはましでした。私たちは、槍騎兵の制服を纏い、それらの馬に跨り、胸を張ってボロジノへ向かい、騎馬戦に参加しました」
観光乗馬拠点「アヴァンポスト」誕生
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あるとき、彼らの厩舎が取り壊されて馬たちが屠られることを知ると、エフゲニーさんは、クラスメートたちと共にお金を集めて(約4万ドル)、すべての馬を買い取った。
仲間たちは、一年間、モスクワ郊外のモジャイスクの厩舎へ移り、そこで、暮らし、働き、眠った。屋根のない厩舎や、馬のいる厩舎の房や、寒いときには暖かい馬糞のうえで。
エフゲニーさんは、融資を受け、卒業論文のテーマを変え、モスクワ州の馬の飼育の救済に乗り出したが、プロジェクトは、採算が取れなかった。馬の飼育はお金がかかり、モスクワから100キロ離れた所へ貸し出すのは意味がない。当時、馬に乗れるところといえば、モスクワのいくつかのスポーツ学校か、モスクワ郊外の限られたコルホーズやソフホーズか、遠いバシキール地方やアルタイ地方にある乗馬施設くらいしかなかった。人々を惹きつけるためには、乗馬の旅のほかに何か特別のものが必要であり、そこで思いついたのが、「ボルゾイ犬との馬上狩り」というプロジェクトだった。
「最初からお金を儲ける気はありませんでした。こうした息抜きがもっと広まればいいなと思っていたのです。私たちは、当時はまだ関心が薄かった乗馬の拠点を造っていました。私たちは、面白半分にモスクワじゅうに広告を貼り、モスクワ~モジャイスク間の電車でそれを配ったりしていましたが、それが大当たりしたのです」
時代の先駆者
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モスクワのベラルーシ駅から電車でモジャイスクまで行き(片道1,5~2時間)、駅からタクシーで「アヴァンポスト」へ(運賃は100ルーブル〔約300円〕ほど)。
・料金は、二時間コースが1500ルーブル(約4500円)、三時間コースが2000(約6000円)
・乗馬コースの開始時間は、11:00、14:00、17:00。普段着OK、初心者大歓迎。開始時刻の30分前に来れば、簡単な指導が受けられる。一週間の乗馬の旅の料金は、季節ごとに設定されている。現在、エフゲニーさんは、観光乗馬拠点「アヴァンポスト(前哨)」の社長そしてロシアにおける動物ツーリズムの創始者であり、彼の大牧場には年間1万5000人以上が訪れている。狩りに来る人は300人ほどで、プログラムを始める前に、エフゲニーさんは、野原で改めて狩りのルールをみんなに説明する。
「馬一頭分の間隔をあけて野の端に整列し、ノウサギやキツネが間をすり抜けないようにその間隔を保つこと。みなさんの課題は、同じテンポで静かに野を梳るように進むことです。私が振る手をよく見ていてください…」。そう言うと、エフゲニーさんは、いろいろと簡単な合図をしてみせた。「止まれ!」、「進め!」などなど。そして、手で合図をすると、ハンターたちは、黙って次の野を目指して移動しはじめる。
「ボルゾイ犬との狩り」は、秋冬限定のもので、5月から晩秋にかけて、「アヴァンポスト」では、一日から二週間に及ぶ乗馬の旅が行われる。夏には、「未開の西部」というフェスティバルがあり、それに先立って、最も人気のある一週間のプログラム「カウボーイカ」が催される。参加者は、インディアン、カウボーイ、ギャングの三班に分かれ、野営を築き、毎日、組織者から新しい課題を与えられ、目的を達するために競い合う。
初心者も一週間で人馬一体
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エフゲニーさんは、こう語る。「そうしたプログラムに参加したことのない初心者を見ていると面白いですよ。最初は、どちら側から馬に跨るかも知らないのですが、一週間もすると、みんな一心同体になります。馬と一緒に、進み、飲み、駆け、眠ります。誰かを呼ぶと、相手は馬と一緒に振り向きます。多くの人は、町へ戻ると苦しみはじめます。ゲームでは手綱を緩めて本来の自分を見いだしたので、もうオフィスのプランクトンの状態に戻りたくないのです」
馬に乗ってタイムスリップするこうしたプログラムは、ロシアでは他に類をみない。組織者は、人々を別の現実へ連れていく。その目的は、他人の役割を演じずに自分自身を発見して自分の潜在意識に自由を与える、そして、過去の自分を想い出してその時代をそのまま生きてみることを、人々に教えること。
エフゲニーさんは、こう述べる。「デッキチェアに横になるだけが休息ではありません。休息の主眼は、活動の切り替え。なにもどこか遠くへ行く必要はありません。大切なのは、休息にあてられる時間にいつもと違うことをすることで、そうやって、脳を「再起動」させるのです。うちのプログラムに参加する人たちは、毎回、何かちょっとした発見をしています」
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