今も日本の面影

ロシア連邦サハリン州の州都ユジノサハリンスクはロシア風でありながら、日本の面影が色濃く残る。この都市は第二次大戦後にサハリン島南半分の統治が日本からソ連に移るまで、「豊原」と呼ばれていた。日本的な特徴は今でも街の外観に残っており、ソ連時代の建築物と不思議な調和を保っている。ユジノサハリンスクには朝鮮系住民も多く暮らしている。    

 ユジノサハリンスクの起源は1882年に流刑囚が開村したウラジミロフカ村。日露戦争後の1905年にサハリン南部が日本統治下に移り、45年まで豊原に樺太庁が置かれた。

作家とサハリン

チェーホフの「サハリン島」
アントン・チェーホフは1890年4月21日、モスクワからサハリンへ旅立った。結核を患っていたチェーホフにとっては困難な旅であった。サハリンに到着は1890年7月11日。チェーホフは一人で徒刑囚と流刑囚の調査を行ったほか、女性の置かれている状況、医療統計、先住民の暮らし、日本領事館の仕事などすべてが興味深く映った。10月13日に調査旅行を終え、シンガポール、セイロン、オデッサ経由で12月9日モスクワに到着した。その5年後の1895年夏、「サハリン島」が出版された。

 全島がソ連領になった第二次大戦後の46年、行政中心地としてユジノサハリンスクと名づけられた。

 日本は45年まで、同じく日本統治下にあった朝鮮半島から労働者をサハリンに送った。現在も、多くの朝鮮系住民がこの島で生活を営んでいる。ユジノサハリンスクには「日本軍国主義」の被害者、朝鮮人にささげた記念碑がある。

 日本と朝鮮に加え、サハリン先住民ニブヒ族、ウィルタ族、アイヌ族の文化遺産も独自の魅力になっている。

 

右ハンドル車とキムチ 

 貝塚良雄氏が設計した帝冠様式の樺太庁博物館の建物は現在もサハリン州郷土博物館として使用されている。博物館の敷地には日本とロシアの大砲、日本の九五式軽戦車とソ連の国章が仲良く並んでいる。

 ユジノサハリンスク駅前にはレーニン像(ソ連の有名な彫刻家エフゲニー・ブチェティチ作)が立つ。州裁判所にはソ連とロシア両方の国章がある。

村上春樹の「1Q84」
村上は2003年にサハリンを訪れた。わずか1週間の滞在であった。村上作品をロシア語に翻訳したサハリン出身の翻訳家ドミトリー・コワレーニンが島の案内役となった。その9年後に出版された「1Q84」にはサハリンに暮らす先住民族ギリヤーク人(ニヴフ人)に関する記述が出てくる。旅行の準備で研究していたチェーホフの「サハリン島」から、ギリヤーク人の生活や民族的特徴を引用している。「1Q84」がベストセラーになったため、「サハリン島」が日本で再出版された。

 他のロシア極東の街と同様、ユジノサハリンスクでは右ハンドルの中古日本車をたくさん見る。そして人気の高いウイスキー「ブラックニッカ」や「サントリー」の密輸品を含む日本製品の販売店が多数建ち並ぶ。

 サハリンは極東地域で人気のある「ピョンス(朝鮮まんじゅう)」の元祖。これは白菜、香辛料、ひき肉の入った蒸しまんじゅう。キムチやククスなどの朝鮮語はすっかり定番となっている。サハリンに来たら、朝鮮料理を試食してみよう。 川でサケが産卵するこの島はイクラの産地だ。ただし安価のイクラを見つけることはできない(密漁品は別)。サケの塩漬け、くん製、干物、また地元住民が窓で干す珍味ニシキュウリウオなど選択肢が豊富だ。

 魚以外での自慢は、何と言ってもイワツツジのシロップ(1.5リットルで約1500円)だ。 ここではバルト海沿岸の産出品に見劣りしない琥珀(こはく)が採掘される。店で琥珀の装飾品を買える。

 

チェーホフ自慢  

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噴火で森が滅んだ

 地元のもう一つの自慢はアントン・チェーホフだ。1890年にサハリンを訪れたチェーホフは徒刑囚や地元住民と交流して、有名なルポ「サハリン島」を執筆した。 ユジノサハリンスクには現在、チェーホフ・センター(劇場)、チェーホフ像、「サハリン島」文学博物館がある。 このほかの観光スポットとしては、日本人が11906年に鉄道を敷設したことに関連する鉄道技術屋外博物館、さらにスキー・ジャンプ台やロープウエーのあるスポーツ施設「山の空気」などがある。 サハリンは島! サハリンは19世紀まで半島と考えられていたが、ロシア帝国の航海者、ゲンナジー・ネベリスコイ提督がこれを否定した。サハリンのゴッドファーザーであるネベリスコイ提督の生誕200周年にあたる今年、新しい像の除幕式が行われた。街の通りは「サハリンは島!」という文字で装飾された。 

 

①旧樺太庁、現在は州立博物館  

 1896年にアレクサンドロフスキー監視所に創設されたサハリン州立郷土博物館には自然、歴史、ロシア連邦市民の文化遺産など約20万点が所蔵された。1937年建設された旧樺太庁の建物は第二次大戦後に国有化され、1946年にサハリン州立郷土博物館として開館した。

②小さな島に固有の動植物  

 独立した島、山岳地形などの条件が小さな島に固有の動植物を出現させた。植物は1500種以上。哺乳類は90種。トナカイ、ヒグマ、ミンク、オオヤマネコ、ジャコウジカなど。海洋生物ではシロシュモクザメ、マンボウ、ナマコ、その他海洋哺乳類のイルカ、トドなどがいる。

③温泉好きにはたまらない 

 島の北東部にダギンスキエ温泉がある。水の特徴はケイ酸が豊富でアルカリ性であること。水温50度の温泉もあれば、水が飲める泉もある。北西部にはシネゴルスキエ鉱泉がある。ここの成分は珍しく、炭酸、炭酸塩、塩化化合物、ナトリウムに加え、ヒ素を含む。