チュクチ自治管区は、ロシアの中でも厳しい大自然の土地として知られている。でもここに行けば、チュクチ海とベーリング海から吹いてくる新鮮な空気を胸 一杯に吸い込んだり、北極圏の動植物や大昔のチュクチ人がつくった不思議な遺跡を見たり、対岸のアメリカを眺めたりすることができる。
チュクチ自治管区はロシアとユーラシアの最北東端の地だ。面積は72万1500平方キロメートルと日本の2倍弱の広さがあるのに、人口はわずか5万人とロシアでもっとも人口の少ない地域の一つとなっている。ここに住む人の半数は北方の少数民族だ。
チュクチ自治管区の季節
この地はツンドラだ。丘陵性の広大な土地はコケ、低木(矮性の白樺、ネコヤナギ)、草でおおわれている。短い北極圏の夏にはベリー、キノコ、花などの色彩豊かなじゅうたんが現れるが、雪がとけずに残っている場所もある。
雨と霧の時期が終わる10月末には初雪が降り、翌年の6月まで降雪がある。冬季は極夜で太陽が1日2~3時間しかのぼらない。海岸部はロシアでもっとも風の強い地域で、風速80メートルを記録する。
短い春が訪れる6月末になると何メートルにも積った雪がとけ始め、足を踏み入れることのできない湿地に変わる。そして7月と8月には再び芳しき夏が訪れるのである。
ここの先住民であるチュクチとエスキモーはお祭り好きで、毎年冬になると犬やトナカイのソリの競争が、夏にはベーリング海の海岸で「ベリンギヤ」 フェスティバルが行われる。
チュクチ自治管区のほとんどの領域が北極圏内に位置している。厳しい気候(平均気温は-4.1~-14度)にもかかわらず、1300種の植物、400種 の魚、220種の鳥と、多種多様な動植物が存在している。ホッキョクグマ、シベリアビッグホーン、コククジラ、シロナガスクジラ、ミンククジラなど、ここの多くの動物がロシア・レッドデータブックに登録されている。また多くの動植物が生物熱のある場所に生息している。
地元住民の生活の哲学
チュクチ自治管区のどの建物のドアも、内側に開く構造になっている。雪が屋根まで積るため、外側に開けることができないからだ。開けたらまずはトンネルを掘らなければならない。
ここの先住民であるチュクチとエスキモーはお祭り好きで、毎年冬になると犬やトナカイのソリの競争が、そして夏にはベーリング海の海岸で「ベリンギヤ」 フェスティバルが行われる。フェスティバルでは民族アンサンブルが公演し、民族工芸の職人がそれぞれの作品を紹介し、民族スポーツのチームが競争する。夏の終わりにはチュクチ自治管区の首都アナディリで、先住民の民族フェスティバル「エルガフ」が行われる。
夏の間は捕鯨を見ることもできる。先住民は環境に特別な敬意を払い、クジラを陸にあげた後はそのクジラが再び生まれて人々の元に戻ってくるよう、一片をカットして海に放り投げる。
ウィトィグラン島
チュクチ自治管区にはシロクマの揺籃の地として有名な、最北の自然保護区「ウランゲリ島」がある。北極圏の島々の中で最大の生物多様性を誇り、全北極諸島よりもその種類は多い。
クジラの骨の聖地とキノコ人間
チュクチ自治管区南東に位置する無人島のウィトィグラン島には、不思議な北極文化の遺跡がある。それは500メートルに渡って大きなホッキョククジラの 肋骨と頭蓋骨が地面に刺さった、クジラの小路だ。肋骨の高さは5メートルにもなるが、このような骨が他の場所から運ばれてきたのはすごいことだ。小路の先 には石が敷き詰められた「道」が伸び、そこをたどると石で環を描いた丸い広場に到達し、中心部では灰の入った古代の炉を見ることができる。研究者らはこの場所を古代エスキモーの聖なる場所と考えるが、クジラの小路が古代エスキモーの口承民族芸術で伝えられていないことは驚きだ。
もうひとつの現代まで残っている古代遺跡はペグトィメリ岩絵だ。20~30メートルの崖に掘られた絵で、2000年ほど前のものとされている。狩りの場 面や、頭部がキノコのような人間風の生き物が描かれているが、実際にこれが何なのかについては研究者の間で意見が異なる。古代マヤ人の絵と比較し、幻覚性 キノコの使用を推測する研究者もいれば、古代エスキモーと宇宙文明の接触の絵であると考える研究者もいる。
行き方
モスクワから首都アナディリまでは、飛行機でしか行くことができない。またチュクチ自治管区内も道路が少ないため、集落から集落へ移動するのに飛行機またはヘリコプターを利用する必要がある。夏は海路を使うこともできる。チュクチ自治管区のどの市町村に行くにも、FSB(ロシア連邦保安庁)の特別許可を 受けなければならない。これはロシアとアメリカの国境が近いためである。
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