捜索部隊「リザ・アラート」のボランティア達=写真提供:「リザ・アラート」
6月10日、スヴェルドロフスク州で4歳の少年ジーマ君が行方不明になった。父と森で魚釣りをしていた。近くには母親のいたテントがあり、ジーマ君は母親の方に向かって歩いて行ったが、テントには来なかった。
写真提供:「リザ・アラート」
警察、非常事態省、一般のボランティア、そしてボランティア捜索部隊「リザ・アラート」が4日間探した。5日目に、ジーマ君を無事保護した。疲労し、体温が低下し、ダニに刺されていた。無事に発見できたのは、あらゆる機関が捜索にかかわったため。非常事態省の関係者は、夜間も森に残っていた。だが、このような国家機関とボランティアの協力が行われるのは、ロシアではまれ。積極的に探し、見つけているのはボランティアだ。
ボランティア捜索部隊が発見されたジナイダ・ゴルデエワさん=写真提供:「リザ・アラート」
ロシアには特別な行方不明者の捜索機構がない。街で人が失踪すれば、警察が捜索しなければならないが、人員が足りない。自然の中で人が失踪すると、非常事態省の捜索・救助隊が参加する。だが法律上、人の失踪は非常事態に該当しないため、活動は積極的ではない。
ロシア製ATV「Sherp」も捜索に使われている= 写真提供:「リザ・アラート」
行方不明者の捜索を専門的に行っているのは、ボランティア部隊「リザ・アラート」。
この部隊が登場したのは2010年。モスクワから100キロの森で、5歳の少女リザ・フォムキナちゃんがおばと一緒に行方不明になった。
行方不明になった日は、毎年恒例の「モスクワ市の日」にぶつかったため、警察は当直体制で、5日間、リザちゃんの捜索はほとんど行われなかった。捜索が始まったのは、インターネットにこの情報が掲載されてから。ボランティアが失踪場所に集まった。森でどうやって人探しをしていいかわからないという人が多かったが、それでも300人が集まった。10日後、リザちゃんとおばが遺体で発見された。リザちゃんが死亡したのは9日目。1日遅かった。
発見されたファイナ・ニコラエワさん(76)=写真提供:「リザ・アラート」
ボランティア捜索部隊リザ・アラートを創設したグリゴリー・セルゲエフさんは、この捜索にボランティアとして参加していた。リザちゃんの問題が起こるまで、問題の規模を理解していなかった。多くの人と同様、国家機関が探してくれるのだろうと思っていた。「森で迷子になったら、探してもらえるものだと思ってた。リザちゃんの件で、そうではないことが判明した」
捜索救助犬=写真提供:「リザ・アラート」
この問題が起こった後、人を探すボランティアをまとめるプラットフォームが必要なことが明らかになった。こうして、リザ・アラートができた。これはアメリカの自動捜索システム「アンバー・アラート」からヒントを得た名称。
2017年第1四半期、リザ・アラートには1317件の依頼があった。部隊はロシアの多くの都市にあり、ボランティアはひんぱんに活動している。
リザ・アラートの活動で警察とは異なる第一原則は、依頼に即座に対応すること。=写真提供:「リザ・アラート」
サマラ州ではどのように捜索しているのかを、地元の代表ウラジーミル・リャボフさんに聞いた。取材は、捜索道具の積まれた車の中で行われた。リャボフさんの携帯電話がひんぱんに鳴るため、取材は何度も中断された。誰かが失踪した可能性があるため、リャボフさんは電話を取らないわけにはいかない。また、通りすがりの人を見ては、携帯電話を調べて、行方不明者の写真と比べる。
写真提供:「リザ・アラート」
部隊はサマラ州で2014年に活動を初めた。事務所はなく、すべての仕事がインターネットを介して行われる。リザ・アラートの活動で警察とは異なる第一原則は、依頼に即座に対応すること。ボランティアは依頼日に現場に行くことができる。第二原則は、金銭的な支援を個人で受けないこと。すべての寄付金は、携帯無線機、懐中電灯、携帯電話、コンパス、紙、テープ、車両、ガソリンなど、捜索用の道具や他の必要な品物の購入にあてられる。「人の捜索で金儲けをしていると思われたくない」と、ボランティアは自分たちの立場を説明する。
「12歳以下の児童は最優先。部隊が他の人の捜索を始めていたとしても、児童が行方不明になったら、部隊の大部分がそっちの現場に向かう」とリャボフさん=写真提供:「リザ・アラート」
積極的なボランティアはここに約40人いる。つまり、自分のプライベートな時間や家族を犠牲にして、常に捜索に向かう用意のある人。さまざまな年齢や職業の人がいる。
発見されたタチアナ・ペチョンコワさん(71)=写真提供:「リザ・アラート」
「警察に入った届け出のみをもとに活動している。去年は390件の依頼があった。警察、非常事態省の統一指令局と情報協力契約を結んでいる。我々の支援が必要になると、連絡してきて、行方不明者の重要なデータすべてを提供する」
サマラ州には、ロシアの他の地域と同様、特別な行方不明者の捜索機構がないため、リザ・アラートは重要な捜索に関わることが多い。街の中で失踪した場合は、ボランティアが現場に行って、捜索用の印を貼る。通りすがりの人に聞き込みを行い、情報をインターネットに掲載する。
写真提供:「リザ・アラート」
「優れた情報源は、ベンチに座っているお年寄りの女性。何でも知っている。あとは犬の散歩をする人。あと、病院にも電話をかける」とリャボフさん。平均して、捜索には3日かかる。
発見されたガリーナ・コロトヴキナさん(80)=写真提供:「リザ・アラート」
森の中で行方不明になった場合は、探しかたが異なる。家族や親せきに、どこに向かった可能性があるか、出かける前にどんな話をしていたか、健康状態はどうか、ストレスのかかる状況にどう反応するかなどを聞く。そしてボランティアがグループにわかれて、場所の調査を始める。ここには機転や不測の事態への心の準備が必要だ。
平均して、捜索には3日かかる=写真提供:「リザ・アラート」
「森のキノコのはえているところで無事発見したことがある。お年寄りの男性がキノコ採りに行って行方不明になっていた。家族に、普段はどこへ行くのか、と聞いたら、同じ森のことを話した。だがそこでは見つからなかった。どんなキノコを探しに行ったのかを確認してみると、たくさんの白キノコ(ロシアでは白いキノコは特定の場所でしか生息せず、とても価値が高い)と言われた。キノコ採取者に聞いたところ、家族が言っていた森には白キノコがないことがわかった。あるのはそこから30キロ離れたところだと。言われた場所に行ってみたら、その男性がいた」とリャボフさん。
夜にも捜索が行っている=写真提供:「リザ・アラート」
「ある時は、ノルディックウォーキングのポールを持った人が行方不明になった。その痕跡に沿って歩いていたが、本人から遠ざかっているとは思わなかった。本人は12時間が経過して、非常に疲れたことから、ポールを自分の前に置いて寄りかかりながら歩いていた。我々はポールの跡を見て、ある方向に進んでいると判断したが、実際には逆方向に歩いていた」とリャボフさん。
発見されたエレーナ・ヴァリャエワ(ホージナ)さん(75)=写真提供:「リザ・アラート」
一番大変なのは子ども探し。青少年は家から、小さな子どもは幼稚園や学校から失踪する。統計によると、子どもの行方不明者は大人より少ないが、捜索では優先する。
「12歳以下の児童は最優先。部隊が他の人の捜索を始めていたとしても、児童が行方不明になったら、部隊の大部分がそっちの現場に向かう。児童は災難で行方不明になることが多く、健康被害を受ける可能性がいつでも高い」とリャボフさん。
子供向けのレクチャーも行われている=写真提供:「リザ・アラート」
サマラ州では、国家機関はあまりボランティアを支援していないが、活動を評価している。たとえば、ロシア連邦保健省サマラ州災害医療教育センターは最近、リザ・アラートのボランティアのために、被害者の応急措置の講座を開いた。
児童は災難で行方不明になることが多い=写真提供:「リザ・アラート」
主な支援を行っているのは企業。携帯通信会社「ビーライン」と「メガフォン」は、部隊のボランティアの通信料を無料にしている。航空会社「UTエアー」は、部隊のボランティアが捜索で飛行機に乗らなければいけない場合に、無料航空券を提供している。行方不明者の家族も感謝し、装備品などを贈っている。
部隊のボランティアは、ロシアに行方不明者の統一捜索システムができればと夢見ている。ボランティア、国家機関、商業分野を統合するセンターである。この案を作成しながらも、捜索活動を続ける。他に探す人はいないのだから。
レクチャーでは子供に対し、緊急事態に役立つ情報が提供されている=写真提供:「リザ・アラート」
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