「エホバの証人」をロシアで禁止

「エホバの証人」の会議=

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 「エホバの証人」の大会を訪問した取材記者は、ロシアNOWの記者だけであった。世界中に800万人の信者を抱えるこの宗教団体は4月20日、ロシアでの活動を禁じられた。

「エホバの証人」の会議=Getty Images「エホバの証人」の会議=Getty Images

 「エホバの証人」または「聖書研究者」に、ロシア当局が文句を言ったことはなかった(その一つの特徴は、「エホバの証人」が、聖書の一部を独自に解釈していること)。良い時期には、当局は認めず、また注意を向けなかった(一度だけ政治的弾圧の犠牲者と認められたことはあった)。悪い時期には、当局は禁止し、弾圧した。たとえば、スターリンの命令によって、1951年、8000人以上の信者がシベリアに追放された。

 当時、ソ連にいた信者数は約1万人。今はそれを大幅に上回る、16万5000人(ロシア連邦司法省付属国家宗教評価専門家評議会のロマン・シランチエフ副会長のデータより)が一斉に違法扱いとなった。団体側は、今回の措置を厳しすぎると考えている。ロシアではここ数年で、エホバの証人のいくつかのコミュニティが閉鎖され、団体の本60冊以上が過激主義的な資料のリストに登録された。3月15日には団体を過激派組織と認定し、完全に禁止するよう、司法省が最高裁判所に提訴した。司法省の説明によれば、団体の刊行物に、この団体が他の宗教より優れているという考えや、他の宗教の関係者への暴力を正当化するような記述が見つかったのだという。セルゲイ・ゲラシモフ第1司法次官は3月15日、裁判所の判決前に、ロシア国内での団体のすべての部門の活動を差し止める命令を出した。

 約1ヶ月続いた裁判では、司法省はエホバの証人の現地部門に対する数十の判決を求めたが、これに団体の管理センターは反応しなかった。団体側の弁護士は、現地の部門が法的に管理センターの下部組織となっているわけではないため、部門に対するクレームがあったとしても、団体の活動を全般的に禁止するものにはならないと話していた。また、管理センターは裁判に出廷することもなく、司法省からの警告を受け取ることもなかった。とはいえ、過激主義的だと認められた刊行物が以降、管理センターによってロシアに搬入されることはなかった。

 エホバの証人を禁止しようとする動きは当初、政府に忠実な役人や公人にさえもあまり理解されなかった。たとえば、大統領直属市民社会発展・人権問題評議会の会員で、現代世界宗教・政治戦略研究センターのセンター長であるマクシム・シェフチェンコ氏は、司法省の提訴が思想・良心の自由の基本原則に反すると考えた。「エホバの証人は過激主義的な団体とは言い難い。テロで団体名を聞いたわけでもないし、反政府行動を呼びかけたわけでもない。自分たちの教えが絶対的な真理だと伝道していることがしばしば批判の対象になっているのであって、これは他の多くの宗教団体でもあること。エホバの証人が監視されている理由は一つ。『人から人へ』の原則で活動しながら、複数の地域でロシア正教会の競合になっていること。モスクワ総主教管区と同調する高官の手が特殊機関に届いていることは明らか」とシェフチェンコ氏。

 

しっかり警備された王国会館

 ロシアのエホバの証人の管理センターは、サンクトペテルブルクにある。私はセンターに電話をかけてみた。まだ裁判は進行中であったが、司法省が公式に活動を差し止めた後だった。かけたのは、公式ウェブサイトに記載されている番号。驚いたことに、事務所はまだ活動していて、丁寧な男性の声が聞こえる。モスクワの大会を訪問したいと言ってみた。法律言語で「活動差し止め」とは、あらゆる集会の禁止も意味するが、男性はミハイロフスカヤ36と開催場所を言い、「毎週土曜日と日曜日」と言った。

 週末、クレムリンから12キロの開催場所に行ってみる。1920年代に薄羅紗の工房として建設された2階建ての邸宅がそこにあった。ソ連時代は文化会館として使われていたが、現在は「ロシア登記簿」のデータによれば、民間が所有している。団体は、この邸宅を「エホバの証人の王国会館」と呼んでいる。ここを完全に所有していることは明らかだ。

 王国会館のわきには数十人の行列があった。入口には同じ黒いジャケットを着た警備員がいる(後でわかったことだが、警備員も信者である)。私が関係者ではないことを悟った一人の警備員は、私を呼び、訪問の目的について長々と聞いてきた。それでも通された。上着をクロークでぬいで、300席あるホールに入る。中はほとんど満席だった。空席がなかなか見つからず、最後列に一つあって座ろうとしたが、顔全体に傷の入った体格の良い男性(名札には「管理者アナトリー」と書いてある)がそこに近づいた。男性は私にいろいろと聞いてきた。私は誰か、どこに暮らしているのか、マスコミ関係者なのか(私は唯一の記者でなおかつ内緒だったが)などと。そして、携帯で様子を撮影してはいけないと警告してきた(それでもこっそり数枚撮れたが)。また、どうやってこの会議について知ったのかとも聞いてきた。私は「幸運だった」ことがわかった。ただの会議ではなく、管理者ほぼ全員が集まる半年に一回の大会だったのだ。私のいたホール(これは小ホールだったことがわかった)では、動画放映のみが行われた。活動自体は2階のメインホールで行われる。ここにはもっと多くの人がいる。アナトリーは質問をした後、私にとがめるべきところなど見出せなかったが、それでも、大会後に自分のところに来てくれとしつこく言った。

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限りなき感謝

 スクリーンには舞台で向き合ってる男性2人が映っている。2人の兄弟の演劇を演じている。弟の嫁が深刻な病にかかっていて、輸血が必要だが、団体は輸血を厳しく禁じているため、兄に相談に来た。「賢明な人の助けが必要なんだ」。会話は兄の教えで終わる。「重要なのはエホバを信じること。人が死んだとしても、エホバはその人を生き返らせることができるのだから」。ホールでは拍手が起こった。

 出席者のほとんど全員が聖書とメモ用のノートを持っている。会場の注意を特に引いたのが最後のあいさつ、地域監督人ニコライの報告である(地域監督人は50~100人の市のコミュニティを複数管理しており、寄付金で生活しながら、教義活動を行っている)。ニコライはまるでコムソモールのようだ。整った髪型の若者で、熱い目をしている。しばらく沈黙した後、劇的な声で、ひどい罪すなわち不信、またいかにそれを回避するかについて話した。そして警告した。「エホバはもうじき、不公正な旧世界を破壊する。そして信仰から逃れていない者だけが完全に報われる」。報告の最後には、ニコライの呼びかけで、ホールの人が立ち上がり、「マルセイユの歌(ラ・マルセイエーズ)」をほうふつとさせる「43番の歌」(「目覚めて、しっかり立ち、力強い者になりなさい」)を歌った。その後、ニコライはホールの人にこう聞いた。「困難な状況でこの大会を企画した人にささやかな感謝をしませんか」。盛大な拍手がなる。

 ホールには「全世界的なことへの寄付」と書かれた大きな箱が2つある。一般信者(恐れた様子も、洗脳された様子もない人々)は喜んで寄付をする。集まった金額はわからなかったが、1000ルーブル~5000ルーブル(約1950~9750円)紙幣が投げ込まれていた。

 

今日のアポカリプス

 表に出ようとすると、アナトリーにつかまる。エホバの証人についてもっと知りたくないか、そして既婚者かと聞かれた(潜在的な信者でも、非信者との結婚は推奨されていないことが後でわかった)。そして電話番号を交換した。中年女性のエカテリーナとも話すことができた。エホバの証人では、毎週末に信者の誰かの家で茶会が行われるとのことで、そこに行くことで話が決まった。エカテリーナから、エホバの証人にはたくさんの禁止事項があることを聞いた。国家公務員になってはいけない、デモに参加してはいけない(反政府、親政府のどちらでも)、軍に入ってはいけない、国歌斉唱しない、夫婦のセックスであっても呻ってはいけないなど。

 どうしてエホバの証人に入信したのかと聞くと、こう話した。義父に殴られ、床に座って絶望し、神に祈っていた時、マンションのドアの呼び鈴が鳴った。外にエホバの証人の人が立っていた。エカテリーナは2冊の本をもらい、これが自分の人生、そして義父の人生をも変えた。今は2人とも自宅でエホバの証人について話し、本を提案し合っているという。この話が本当かどうかはわからないが、団体の信者全員にとってなじみの話だ。エホバの証人の名付け親ジョセフ・フランクリン・ラザフォードによれば、法律の勉強をしていた時、古い低級本の販売で金を稼いでいた。客に相手にされない日々が続いたため、お金ができたら、誰か若い本の販売人から本を買ってあげようと誓った。そのような本として、偶然エホバの証人の文章を手にした。ラザフォードはこれを神の示現と考え、信仰に身をささげた。 

 エカテリーナは本で資金を稼いでいるわけではない。「全世界的なこと」へは、月に50~100ドル(約5500~1万1000円)寄付している。私は彼女から何も頼まれなかった。とはいえ、ただ茶会に行くというのは難しいだろう。というのも、エカテリーナから数日間、非信者にとっては不可解な内容のSMS(ショート・メッセージ・サービス)を受け取り続けているからだ。「イライラしないで。すべてがかなうから」、「私が言おうとしていることは原書の啓示。反キリストは世界にすでに存在している。もう秒読み段階よ」、「映画『ターミネーター』の全5作はアメリカのメシアニズムのユダヤ人が撮影した」、「もう20年これを知っているけど、私はこのせいで精神病院に送られようとしている」。サンクトペテルブルクのテロが起きた日には、「啓示第15章2詩。確認して。ガラスと炎の海について書いてある」と。いかなる過激主義もない。ただ不健康なだけだ。

「エホバの証人」の信者がモスクワ州オディンツォヴォ地区でパンフレットを配る。=アレクサンドル・アルテメンコフ/タス通信「エホバの証人」の信者がモスクワ州オディンツォヴォ地区でパンフレットを配る。=アレクサンドル・アルテメンコフ/タス通信

 

「あきらめない」

 エホバの証人がセクトなのか、普通の商業詐欺師なのかについて議論されるには理由がある。だが今や他の刑法典の容疑がかかろうとしている(最大で懲役6年)。ロシア連邦国家会議(下院)社会統合・宗教組織問題委員会専門家評議会のウラジーミル・リャホフスキー会員は、監視不可避だと考える。「今、多くの人が、『誰かがそれをやることはないだろう』と言っているが、必ず起こると言いたい。認められた実績がある。2009年にタガンログのコミュニティが禁止され、2012年に捜査用の撮影が行われ、集会の事実が確認されて、立件された。この件は長く続き、2015年末に裁判所の判決が下された。罰金と執行猶予付きの懲役だけだったが、有罪判決であった。今はもっと徹底したもので、個別のコミュニティではなく、ロシア全土の話になっている」

 アナトリーに電話をかけ、「裁判所が『エホバの証人』を完全に禁じたらどうするか」と聞いてみた。「神に祈る。我々をつぶそうとするものは悲惨な末路を遂げた。ヒトラーは我々を焼き尽くしたがり、スターリンはシベリアに追放したがった。奴らは今どうしているか。呪われてる。我々は生きている。今も生き延びている。あきらめようとはしていない」。「どうやってあきらめないようにするのか」という質問には答えなかった。エホバの証人の幹部は、最高裁判所に上訴しようとしている(上訴までの期間は1ヶ月)。暴力も過激主義もなしに。