匿名のロシア政治情報が人気

ロイター通信
 メッセンジャー・アプリ「テレグラム」の政治チャンネルが、ロシアで人気となっている。数万人が読み、ジャーナリストも引用している。専門家は、ロシアの政治に閉鎖的な面があることから、人々がテレグラムで消息通を追いかけているのだと考える。

 1月中旬、国営放送「ロシア24」でおかしな光景があった。3人のジャーナリストが、バラクラバ帽をかぶった人物とインターネット電話「スカイプ」で会話。その人物はコンピュータで音声を変えて、質問に簡潔に答えていた。自分のことを、非ズィガリ(ネズィガリ)と名乗った。テレグラムのロシア政治の「専門家情報」を公開している匿名チャンネル「非ズィガリ」と同じ名前である。

 非ズィガリとは、ロシアの政治ジャーナリストであるミハイル・ズィガリ氏に関係している。ズィガリ氏は、匿名取材にもとづくロシア政治の変遷について詳細に説明している本「全クレムリン勢」の著者。非ズィガリ氏のふるまいがズィガリ氏に似ているため、非ズィガリすなわち「私はズィガリではない」と強調しているのである。非ズィガリ氏が誰なのかは明らかになっていない。

 さて、翌日、非ズィガリ氏のチャンネルには、自分はバラクラバ帽をかぶらない、取材には応じない、ロシア24に登場したのは自分ではない偽称者だ、との主張する内容がアップロードされた。

 

テレグラムの政治チャンネル

 現在約2万9000人が読んでいる非ズィガリ氏のチャンネルは、2015年11月に登場した。一番人気だが、テレグラムの唯一の政治チャンネルではない。非ズィガリ氏は、政府内のグループ間の対立を説明しながら役人および政治家の辞任や任命について書いているだけでなく、国際サッカー連盟(FIFA)が今年秋に「2018年FIFAワールドカップ・ロシア大会」の開催権をはく奪するなどといった驚きの予測までしている。

 他の匿名チャンネル「メトディチカ」(登録者数1万3500人)は、政府、議会、省庁の内情、また歴史や報道されたことのない独占コメントを伝えている。

テレグラムを読むロシアの役人・政治家        

 注目度の高いチャンネルでも、閲覧する人の数では従来のマスメディアにはかなわない。ロシアの国営テレビ「第1チャンネル」の視聴者数は1000万人を超える。だが、非ズィガリ氏によれば、テレグラムの政治チャンネルは全国民に読んでもらおうとはしていないのだという。対象は政治に関心のある人、誰よりもジャーナリスト、政治学者、役人・政治家だという。

 役人・政治家はテレグラムにかなり注目している。地方通信「ウラ・ル」は、大臣や知事が非ズィガリやメトディチカを大手マスメディアの報道よりもよく読んでいると、内部の消息筋の話として伝えている。

 ある知事がウラ・ルに話したところによれば、地方の役人・政治家は連邦レベル(中央)で何が起こっているのかを理解するために、テレグラムの匿名者の「リーク」情報を読んでいるのだという。「クレムリンの関係者は内部事情を我々に教えず、地方の上層部と相談もしない」と消息筋。テレグラムのチャンネルは最も信頼性が高いというわけではないが、情報源であることは間違いない。

 

証拠のない情報

 一部の人気政治チャンネルの所有者は、名前を隠していない。その中で最も有名なのは、政治学者レオニード・ダヴィドフ氏のチャンネル「ダヴィドフ・インデックス」(登録者数2万500人)。ニュースサイト「レンタ・ル」の取材に対し、ダヴィドフ氏は、匿名にする必要がなく、名前と定評のある人物の文章の方が信じてもらえる、と話した。

 ただ、匿名の方が自由に発言できるとも話す。「もちろん、自分の名前のチャンネルにしているのだから、境界線を引かなくてはいけない。これを自己検閲だと考える人もいるが、私は常識だと考える」とダヴィドフ氏。非ズィガリやメトディチカにはこのような制限はない。特定の政治家についての情報には、本人の名声にかかわる内容が含まれていることも多いが、文書などで証明されているわけではない。情報源が開示されることもない。

 「テレグラムに匿名であらわれる個人の名声にかかわる情報を証明するのは不可能」と、政治専門家でシンクタンク「ミンチェンコ・コンサルティング」の代表であるエヴゲニー・ミンチェンコ氏はロシアNOWに話す。情報源もその発信者もわからない匿名チャンネルの情報を信じることはできないと、ミンチェンコ氏。

 

匿名情報の魅力

 非ズィガリまたはメトディチカの信ぴょう性を確認することは極めて困難であるが、人気は高まる一方だ。専門家は、ロシアの政治が極めて閉ざされているため、あらゆる情報源、特に内部事情を知っていると主張する者に注目が集まるのだと考える。

 「情報不足により、検証不可能な情報でも信じられてしまう」と、政治学者のミハイル・カリャギン氏は話す。モスクワ国立国際関係大学のワレリー・ソロヴェイ教授も同様に考える。「クレムリンは何をしようとしているのかという情報を出したがらない。だが人々は知りたがっているため、情報を提供できる情報源に飛びつく」

 テレグラムの匿名のチャンネルは「リーク」を核として構築されているため、秘密を知れるという感覚がある。こういったものは成功しやすい。「テレグラムは匿名だから、公式な非匿名の情報源よりも正確で信用できると、人々が感じる。普通のマスメディアが省庁の『消息筋』の話として伝える時も同様だが、テレグラムは究極」とソロヴェイ教授。