「彼の死が野党を結集するはずだった?」

「ネムツォフ行進」の参加者=

「ネムツォフ行進」の参加者=

イリヤ・ピタレフ/ロシア通信
 モスクワで、最近一年間では最大の野党抗議行動「ネムツォフ行進」が行われた。しかし、その参加者およびオブザーバーの推測によれば、抗議の潜在的なエネルギーは、今では別の次元に消えてしまっているという。

 組織されていないリベラルな野党勢力は、今年最初の大規模な抗議行動「ネムツォフ行進」を実施した。これは2年前に暗殺されたボリス・ネムツォフ第一副首相を追悼するもの。行進はモスクワ都心で行われたが、集まったのは数千人に過ぎなかった(モスクワ市警発表は5千人、独立系の推計で1万5千人)。これは過去2年間よりも低い数字だ(2016年は2万4000人、2015年は5~7万人に達していた)。

 しかもこれは、定期的に行われる野党の行動としてはほとんど唯一のもので、ネムツォフ暗殺以来の過去2年間で最低の数字を記録した。どうやら、当時の政治的な活発さは、近い将来においては誰も期待していないようだ――野党の指導者自身を含めて。2011年と2012年にポロトナヤ広場とサハロフ通りで「変化」を要求した「怒れる市民たち」は街頭から去り、今のところ戻るつもりはない。今日ここで行われた追悼記念行進は唯一の例外であるようだ。

 

台所での抗議

 「当時、人々は政治的な権利を取り上げられて憤慨していた。彼らは貧困層ではなく、食うに困る人たちではなかった。彼らにとって大事だったのは、自分の政権を選ぶ可能性を持つことだった」。ロシアNOWにこう語るのはドミトリー・ステパノフ氏。今、彼は37歳で 、IT関連製品販売のスペシャリスト。2011年の下院選挙後に、選挙結果を不正なものと認め、票を市民に返すよう当局に要求して、集会に参加した人々がいたが、その最初の一人だ。

 人々は集会に出かけたが、彼らを集会に導いた指導者たちはというと、はっきりした戦略を提示することができなかった。「それで我々はこの戦いに負けた。現在では、恒常的にモスクワの路上集会に参加するのは約300人に過ぎない。ロシア全体を見渡せばさらに1500人~2000人が加わるだろうが。ほかの数十万人はというと、事態の展開を待っている。なぜなら、今のところ何のために街頭で抗議しなければならないのか、それが何になるのか分からないからだ」。ステパノフ氏はこう考えるが、そう言う彼自身は、未だに集会に参加している。つまり彼は自分の路線をかたくなに守る300人のうちの一人であるわけだ。「でも、合法的な集会だけだよ」とステパノフ氏は付け加えた。

 彼の言葉は、野党指導者のそれとある程度重なる。今では「失望」が支配的な気分であると考えるのは、元下院議員で野党指導者のドミトリー・グドコフ氏だ。彼は、反抗的な気分はすべて台所の片隅に落ち着いてしまったという。「問題は抗議の形態にある。あの時の抗議は非常にエモーショナルで常に鮮烈だったが、今ではルーティンに変わってしまった」。グドコフ氏はロシアNOWにこう述べた。

 「人々は路上で政治的スローガンを叫ぶ覚悟があまりできていない。しかもその理由は、彼らがもはや変化を信じていないからというよりも、彼らの多くが恐れているからだ。ボロトナヤ広場での抗議集会に関連して裁判が行われ、ソーシャルネットワークで意見を述べたかどで刑事事件が立件された。これは恐怖を生み出し、普通の人間は、路上集会に参加して自分を危険にさらす前に、100回も考え直すことになる」。こうロシアNOWに言うのは、野党指導者の一人、イリヤ・ヤーシン氏だ。

 実際、国家の側では、こうしたことに関する立場はとっくの昔に固まっており、再三示されてきた。すなわち、法律は法律であり、それはすべての人のためのものである。大規模な無秩序を引き起こし、暴力を警察に対して行使することは誰にも許されない、と。「国家は残酷であってはならないないが、誰もが一定の規則を守るように見守らなければならない。さもないと我々は、かつて1917年にぶつかったような問題に直面することになるだろう」。こうロシア大統領は、1917年のロシア革命を念頭に置きつつ語っている

 全体として、どこもかしこも停滞している、というのはよくある意見だ。だが、抗議のポテンシャルをどう見るかという段になると、指導者も般市民も見解は様々に分かれる。しかし、今野党が提示する事柄は、単にもう効力がないようだ。

 

「野党は団結できない」

 「政治的抗議行動の将来は、社会、経済の基盤による」。ロシア連邦政府付属金融大学・政治学研究センターのパーヴェル・サリン所長はこう考える。だが、社会的、経済的な不満を政治的スローガンに変えることは、現在ではほとんど誰にもできないという。

 「抗議行動の最大のポテンシャルは、社会の領域に潜んでいる。それは生活水準の低下と関係があり、今では多くの人にとって明らかだ。しかもそれは貧困層に深刻な打撃を与えている。これは、例えば、自動車販売の統計からも見て取れる。エコノミークラスの販売は著しく落ち込んだが、高級車のそれは落ちていない。さらに、未解決の社会問題に加えて、新たに導入された有料駐車場の問題がある(*モスクワでは1時間あたり約360円払わなければならない。もっとも、『レバダ・センター』の世論調査によれば、57%のモスクワ市民は、都心に関しては、駐車の有料化を支持している ――ロシアNOW編集部)。クレムリンに近い政治研究センターのセルゲイ・マルコフ所長は、ロシアNOWにこう語った。

 だが、マルコフ氏の考えでは、このポテンシャルは現在“凍結”しているという。ロシアと欧米の関係が危機に陥っている状況下では、ロシア国民の大部分は、自国の政府への抗議を非愛国と受け止めるから。第二の理由は、野党がウクライナ危機への態度で信用を失墜したからだという。「クリミア問題については様々な態度をとることができるだろう。だが、反ロシア的な体制をあからさまに支持することは、もちろんロシアの野党に深刻な打撃を与える」。マルコフ氏はこう考える。

 一方、野党の指導者たちはしばしば、競争の条件が不平等であることを指摘する。例えば、マスメディアの利用の難しさにおいて既に負けており、ほとんど行政的なリソースを持たないから、と。「競走にたとえると、私だけが400m 全部を走らなければならない。ところが、政権の代表者は最後の100m だけでいいのだ。それなのにスタートは同時で、おまけに私のコースには障害物まである」。グドコフ氏は説明する。

 もっとも、いまだに集会に参加している人たちは、問題の根を別の点に見ている。「ネムツォフの死が我々すべてを団結させるなんて期待感が誰にあったのか知らないが、野党が団結できないのは、共通の目的がないためだ。つまり、ロシアに大きな変化を起こすという大目的がない。野党の各勢力は、政界から消滅せず、存在し続けるのが目的で、もっぱらこっちに取り組んでいるわけだ」。これがステパノフ氏の考えだ。

 

*2016年のデータは市民運動「白い計算機」の、2015年のそれは行進主宰者の提供。

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