ロシアで結婚式に呼ばれたら

映画「苦い!」の一場面=kinopoisk.ru
 結婚式に呼ばれてしまった?それはおめでとう!ロシアの結婚式はいつだって楽しいものだ。くたびれて退屈しない間は。でもあなたならきっと大丈夫。この記事を読み、しかるべき準備さえ怠らなかったならば。

 1、あなたは、十中八九、大量に飲むことになる。甘んじて受け入れてほしい。これは避けがたいことだ。ロシアの結婚式では、アルコールはあり余るほどある。抵抗したって仕方ない。けれど、事前に打てる手はある。たとえば、式の始まる前に、スプーン一杯の植物油、または一かけらのバターを飲んでおく。一説によると、これこそまさに、酔いを可能な限り遅らせる秘法として、KGBの養成所で諜報員らに伝授されていた飲み方なのだ。

 2、ウソのように長い乾杯の音頭を何度も何度も聞かされることになるだろう。ただし、よいニュース。話の内容を理解する必要はまったくない。どんな話も最後には必ず、若い二人の多幸、健康、長寿の祈願に収束するのだから。ここで、あまりよくないニュース。中には乾杯の音頭にかえて詩を朗読する人もある。しかも、自作の詩を。ロシア人のすべてがプーシキンではない。ゆえに、乾杯の音頭が苛酷な拷問になることもある。なお、音頭があったら必ず飲むことが推奨される。第1項を参照。

映画「苦い!」の一場面=kinopoisk.ru映画「苦い!」の一場面=kinopoisk.ru

 3、出席者たちが口々に「苦い!」と叫ぶ。心配ご無用。多分、食べ物に問題があるわけではない。このやぶれかぶれな叫びは、厨房ではなく、若い二人に向けられたものなのだ。ロシアの伝統では、新郎新婦は甘いキスを交わすことによって、臨席者の飲む苦いウォッカに甘みを添えなければならない。ウォッカがそれで本当に甘くなるかどうかなど、誰にも知ったことではない。ただ、宴会が長引けば長引くほど、飲む量は増える。やはりキスには何らかの、酒をうまくする効果がある?再び、第1項を参照。

 4、ロシアの結婚式の主役は新郎でも新婦でも、その両親でもなく、幹事。この幹事が、いつ誰が食べるか、いつ誰が口上を述べるか、いつ誰が踊るか、等々を決める。彼こそが式の全過程を司る、演出家、監督なのだ。監督がウディ・アレンばりにアイロニカルなら幸いだ。だが、その気質がむしろデヴィッド・リンチに近いということもあり得る。そうなると、あらゆる出来事が際限なく引き伸ばされ、しかも長く続けば続くほど、その意味合いは謎めいてくる。ロシアの結婚式で出席者が不満を抱えたり、退屈だったりするときは、その責任は幹事にある場合が多い。鬱憤を晴らすには、もう第1項しかない。

 5、体を動かすゲームや、勝ち負けを競う出し物が、むやみに多い。中には力や敏捷性を競うものもある。どういうわけだか、綱引きだの「袋跳び競争」だのという他愛のない遊びが人気を博している。中には全く理解困難なしろものもある。たとえば「海が波立つ、一、二の、三」という、子供のよくする遊び。大の大人が、幹事の号令で、意味不明なポーズをとり、凍り付くのである。その時点までに飲み干したウォッカの量によっては、びしっと静止することなど、容易なわざではない。しかし、容易ならざる宴会にはならないなどと、誰が約束しただろうか。それを少しでもしのぎ易いものとするために、第1項を参照されたい。

 6、ロシアの結婚式では頻繁に殴り合いが起こる。喧嘩が結婚式の華であることを語った諺もおびただしくある。「喧嘩のない結婚式は風の中の金と同じ」というのもそのひとつ。恐れるには及ばない。ましてや、喧嘩の原因など探ってはならない。おおかた、ロシアの命運とか、国際政治とか、社会における男女の役割とか、スポーツとかといった事柄をめぐる哲学的な議論が白熱し、その中で、誰かが誰かに対し慇懃に不同意を表明でもしたのであろう。一にも二にも、放っておくことだ。彼らはあっという間に仲直りしてしまう。再び兄弟の契りを交わし、そして第1項に回帰するのである。

 7、喧嘩よりはるかに危ない、ロシア式結婚式における習慣。お金を求められる。帽子その他、袋または箱状のものを手に持った幹事があなたに近づき、何事かほのめかす。「ふたりが素晴らしい夫婦関係を結べるように」「娘/息子に恵まれるために」祈願の喜捨を、というのである。このようなことはいついかなるタイミングでも行われうる。用心して、ポケットには何枚かお札を用意しておくことだ。幹事の帽子にカードを置くことはお勧めしない。これについて、「損をした」とは思わなくていい。ちょっとしたご祝儀だと考えた方がいい。それよりは第1項を忘れないことだ。

 以上述べてきたことで、腰が引けてしまっただろうか。そうでないという人は、ロシアの結婚式でも水を得た魚であろうと、太鼓判を押せる。ともかくも、一度くらいは体験してみるといい。百聞は一見に如かず、だ。

このウェブサイトはクッキーを使用している。詳細は こちらを クリックしてください。

クッキーを受け入れる