ヤマル半島 // タス通信撮影
ロシアには多種多様な民族がいる。サハリンからカリーニングラードまでの広い領域に、100を優に超える民族が暮らしている。どの民族にも独自の言語、伝統、文化がある。北方少数民族も同様に、数千年この地に暮らしてきた。
40の少数民族
北方少数民族に数えられるのは、北部に暮らす総人口5万人弱の民族で、北方先住民族に数えられるのは、伝統的な生活を送る独立した民族社会。
2009年にロシア政府が打ち出した「少数民族安定的発展構想」によると、この基準にあてはまるのは40民族。その居住領域は広範囲にわたる。例えば、サーミ人はフィンランドとの国境に近いコラ半島に暮らしているが、アウレト人とエスキモー人はアメリカ・アラスカ州に近いチュクチ半島東部とウランゲリ島に暮らしている。
チュクチ人やエスキモー人などの一部民族は、ロシア国内でも良く知られているが、ガナサン人やニヴフ人は平均的なロシア人にほとんど知られていない。認知度だけでなく、人口においても差がある。2010年の調査によると、北極海沿岸とシベリアの広範な領域に暮らすネネツ人は4万5000人いるが、ネネツ人に近いエネツ人の人口は200人ほどで、そのうちエネツ語を話せる人となると、かなり限られている。
北方少数民族の伝統的な生活様式は厳しい環境に適したもので、漁猟、トナカイ飼育(遊牧生活が多い)、イヌ飼育などが昔から行われてきた。しかしながら、北部の辺境の地でも都市化が進んでおり、遊牧民は街に移住しながら、他の民族に徐々に同化してきている。これにはソ連時代に遊牧民が定住生活を強いられたことも影響している。もう一つの問題は、産業の発達にともなう環境の悪化。自然と共存してきた北方民族にとって、これは生活様式を破壊するものだ。
専門家の意見
写真提供:タス通信
ロシア北方・シベリア・極東少数先住民族協会のグリゴリー・レトコフ会長によると、現在ロシアには優れた法的基盤があり、北方先住民族は国家によって保護され、ソ連時代とは異なり、トナカイ飼育をする遊牧民の転向先は農業になっている。
それでも、まだ足りないという。何よりも、伝統的な漁猟を定める法律を改正し、天然資源の利用を緩和することが必要だ。他には環境。「石油ガス・プロジェクト推進において、産業が伝統的な生活様式に与える悪影響を評価する必要がある」とレトコフ会長。シベリア、北部、極東で生産活動を行っている大手企業の利益が、時に先住民族の利益に反することがある。
また、「民族の属性を定める手順に関する規定」も必要である。これは北方民族のアイデンティティの問題だ。異なる民族の結婚が進み、徐々に他の民族に同化していくと、一部民族は消滅する可能性がある。例えば、少数民族のケレク人は20世紀初め、チュクチ人に完全に同化した。独自の伝統と習慣を維持し、保護することは、その民族だけでなく、ロシア政府にとっても非常に重要な課題である。
一方、ロシア行政アカデミーの助教授で、社会学者、民族学者のダリヤ・ハルトゥリナ氏は、北方民族の大部分の今後について、楽観的な見方を示す。「現在、北方民族の出生率は十分高い。そのため消滅の危機にはなく、古代文化の維持も可能。ただし、男性の寿命の短さ(主にアルコール依存症による)と乳幼児の死亡の問題に取り組まなくてはいけない」
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