潜水艦での生活

潜水艦の乗組員は、なぜ、天井に吊るされているハンマーにキスしなくてはならないのか?なぜ、魚の干物を肴にワインを飲むのか?なぜ、何年もひたすらトイレ掃除をやらされる乗組員がいるのか?ある乗組員が、水中での日常生活について語ってくれた。

儀式:ハンマーにキス 

 潜水艦の処女航海に際しては、乗組員全員が浄めの儀式を行います。私の場合はごく簡単なもので、船室のランプシェードに舷外の水を満たして飲みました。とても渋くて苦いやつを…。すると手書きの証明書が渡されて、私は晴れて潜水艦の乗組員になれました。艦によっては、「ハンマーの接吻」なる儀式が加わる場合もあります。天井に大槌が吊るされて、船が揺れるときにそれにキスしなくてはなりません。その意味は不明ですが、分からなくとも黙って従うこと、それが、乗り組むときに教わる第一の規則なのです。

 

勤務:広島型原爆800個分とともに 

 どの潜水艦にもたいてい乗組員の班が二つあります。一つが休暇に入ると(一回の自律航行が終わるごとに)、もう一つが交替します。自律航行の期間は、50日から90日までいろいろです。まず初めに、課題が次々とこなされていきます。たとえば、水に潜って他の潜水艦と連絡を取り合うこと、最大限の深さまで潜ること、射撃の練習などです。すべての訓練の完了が司令部によって確認されると、いよいよ実戦用に配備されます。

 北極の氷の下を航行する多くの場合には、潜水艦は衛星に見つからず、海に氷のない場合には、水深100メートルでも気づかれてしまいます。私たちの任務には、臨戦態勢での海域のパトロールと攻撃された場合の兵器の使用も含まれていました。16基の大陸間弾道ミサイルを搭載している一隻の潜水艦は、地表からたとえばイギリスをまるごと消し去ることができます。一基のミサイルは、10発の核弾頭を備え、一発の弾頭は、広島に落とされた原爆5つか6つ分に相当するので、私たちは、日夜、800個の広島型原子爆弾を運んでいたことになります。

AFP / East News撮影

日常:いったんトイレ掃除に当たると・・・

 閉じられた空間で暮らすのはさほど苦ではありません。何かと忙しくて8時間当直していますから。毎日15時には「小整頓」が行われ、全員が受け持ちの場所を片づけます。制御パネルの埃を払う人もいれば、トイレ(船首部分にある水夫用の厠)をきれいにする人もいます。悲しいかな、自分の持ち場は変わることがないため、いったんトイレ掃除に当たってしまうと、ずっとトイレ掃除をさせられる羽目になります。

 

食事:ビールとワインの折衷案

 食事は申し分ありません。朝食は、たいてい、トヴォログ(カッテージチーズ)に蜂蜜やジャム。昼食か夕食には、かならず、イクラやチョウザメの背肉がつきます。毎日、100グラムの辛口の赤ワイン、チョコレート、そして、ヴォーブラ(干物や燻製にするカスピ海産のコイ科の魚)をいただきます。まだソ連の時代に潜水艦の乗組員の食欲を増進させるものについて議論された際、ビールとワインに意見が分かれたのちにワインに軍配が上がったのですが、ビールの肴であるはずのヴォーブラもなぜかそのまま残されたのでした。

チェスとドミノ以外に潜水艦の乗組員にとって気晴らしになるのは、四足のお気に入り、つまりペットだ。=ヴィターリイ・アニコフ撮影/ロシア通信

 

規則:○○よ、進め!

 規則は、私たちのすべて。といはえ、笑い話になることもあります。たとえば、ロシア軍教練操典33条によれば、駆け足での移動は「ベゴーム・マールシ(駆け足、進め)」の号令で始まりますが、あるとき、師団の副司令官が雪隠へ行くと、錠がかかっているので、艦長の主任補佐官に「一等航海士、トイレを開けよ」と命じても、一等航海士は背を向けて座ったまま応じません。副司令官が業を煮やして「一等航海士、駆け足で鍵を持ってこい」と告げても、相手が馬耳東風なので、こう畳みかけます。「駆け足と言ってるのが聞こえんのか? 駆け足! 何を待っておるのだ?」。すると、一等航海士は、空き時間にはいつも目を通している操典を閉じて、ぽつりと言いました。「海軍大佐殿、私は「マールシ(進め)」の号令を待っております」

 

艦長:飛行機に「停船」を命じる 

 艦長はさまざまだが、怖れられる存在であることに変わりはなく、その命令に背いたり口答えしたりしようものなら、最低でも戒告に処せられる。これまでに私が出会った艦長のなかで最も異彩を放っていたのは、ガポネンコ(変名―編集部)海軍大佐。

ロシアの潜水艦の乗組員たちは、氷の張った海中でも泳ぐ=YouTube

 あるとき、大佐は、下へ降りてきて辺りを見回し、「何をしておるのか?」と訊ねました。転舵の練習をしているところで隣の潜水艦685号と連絡を取り合わねばなりません、との返事を聞くと、大佐は、いきなり制御パネルの前に立ち、マイクを手にこう告げました。「685号、こちらは681号、スローヴォ(海軍用語で停船を意味する)をお願いします」。すると、「こちらは685号、スローヴォはできません。了解」との返答。大佐が、苛々して「スローヴォを命ずる、至急!」と語気を荒げると、向こうも、負けじと「繰り返しますが、スローヴォはできません! 了解」と応酬。大佐は、すっかり頭に血がのぼってこう叫んだ。「俺は貴様にスローヴォを命じておるのだ! 至急、いいか! 俺は海軍大佐のガポネンコだ! 基地にやってきたら、吊るしあげてやるからな!」。すると、気まずい沈黙が流れ、生きた心地もしない無線技師が、恐る恐る呟いた。「海軍大佐殿、す、す、すみません、私のミスでした。正しくは683号で、685号は、飛、飛、飛行機でありました」。ガポネンコ大佐は、制御パネルを叩き壊して船室へ戻ると、潜水艦が浮上するまでもう姿を見せませんでした。

 

元記事(露語)

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