労働市場は人材不足

11月のデータによると、不足しているのは下働き労働者10万人、運転手6万2000人、石工3万7000人、コンクリート工3万1000人、左官、荷役、調理師、大工、裁縫師各2万8000人=タス通信撮影

11月のデータによると、不足しているのは下働き労働者10万人、運転手6万2000人、石工3万7000人、コンクリート工3万1000人、左官、荷役、調理師、大工、裁縫師各2万8000人=タス通信撮影

ロシアの労働市場の人手不足は深刻だ。政府や行政は若者の職業のステータスを上げ、専門教育システムを改革しようとしている。一方で専門家は、中国やベトナムを中心とした、東・東南アジアの国々から外国人労働者を呼び込んで、問題を解決すべきだと提言している。

肉体労働者、中級技術者が足りない 

 人手不足の問題はモスクワだけでなく、産業が発達している地方にも存在している。例えば、サンクトペテルブルク、ウリヤノフスク、ウラジオストク、リャザン、ペルミなどがそうだ。

 ロシア連邦労働・就業局は、国内市場の求人や職種を分析している。11月のデータによると、不足しているのは下働き労働者10万人、運転手6万2000人、石工3万7000人、コンクリート工3万1000人、左官、荷役、調理師、大工、裁縫師各2万8000人。

 だが中等職業教育を受けている求職者の中で、これらの職種を専門としている人は、ほとんどいない。このような職種を経験したことがあっても、短い期間である場合が多い。経験があるのは下働き労働者7万3000人、石工2000人、コンクリート工2000人、左官、裁縫師各5000人、調理師1万4000人、大工7000人など。

 

ソ連的解決法 

 ソ連時代は、高等教育機関や職業訓練学校を卒業した専門家の人数と求人数の不一致の問題を、厳しい配属システムで解決していた。専門家の居住地が完全に 無視されることが第一の特徴。当時はこれに対して批判的な意見がとても多かった。大学を卒業した若手専門家が、広大なソ連の一方の端から他方の端へ何年間 も飛ばされ、家族や友人などに一切会えないということも普通だった。その代わり、すべての工場で労働力が確保できていた。

 ソ連崩壊とともに、このシステムもほぼ消滅し、現在では国立の軍事学校や警察学校でしか存在していない。これらの学校の生徒は、1年生の時点で卒業後の進路を知っているため(国が決める)、就職活動をしなくて済む。若い将校は軍、警備隊は地方警察に行く。

 

労働者の仕事がおしゃれでなくなった 

 ソ連では労働者への崇拝があったが、ペレストロイカが始まると工場の仕事がおしゃれではなくなった。現代の親たちは、子供が労働者になることを嫌がる。「工作機械の前に立つ戦争時代じゃない」とよく言う。

 ロシア科学アカデミー社会学研究所のレオンチイ・ブィゾフ上級研究員は、これを世界の時流、すなわち「世界的な脱工業化によって、(大都市が)産業から 離れ、製品の製造ではなく、多種多様なサービスを行うようになっている」と考える。「若者は工場で働くのを嫌がり、その国の国民で労働に携わろうとするのは、40歳以上の世代ばかり。下働き労働者とは今日、自分の可能性を制限し、可動性を失い、酒を飲む人々の運命ととらえられている」。

 大都市の若者は、比較的高い給与と、汚れや寒さなどのないオフィスの快適な条件で、骨抜きにされたという。「オフィスの事務仕事の給与の平均は、工場仕事の給与と同等で、1ヶ月900~1200ドル(約9万~12万円)ほど。この状況で若い世代の選択肢が事務所になるのは明々白々。同じお金で工作機械の前に立つのは、甘えのない上の世代の人間のみ」

 

政府の取り組み、プログラム 

 政府や行政は肉体労働職を普及させようとしている。モスクワ市はすでに、学校の子どもたちにエンジン、化粧品、洋服、ケーキなどの工場を見学させる「児童に工場を」プログラムを、2年続けて推進している。さらに職業訓練学校の改革プログラムを試験的に実施し、企業に直接教鞭をとってもらっている。また、学生1人あたり最大9万ルーブル(約27万円)の学費を助成する予定。企業は若き卒業生の就職を3年間保証しなければならない。

 このプログラムによって、前世紀の工作機械で学び、現代的な企業に対応できない専門家を、職業訓練学校が送り出さなくなる。

 専門教育の普及を行っているのは、国際運動「ワールドスキルズ(WorldSkills)」。ロシアが参加したのは2012年。国家的および国際的な技能の大会であるところが新しい。このようなシステムによって、参加者や指導者が、教育や仕事の国際基準を知ることができる。モスクワで11月初め、 第2回国際技能競技大会が行われた。  

 サイモン・バートレイ総裁はこう話す。「国際基準を習得した参加者が、それぞれの専門教育機関の実践に加わること、卒業生が将来的に他の国の若き専門家と同等であると感じることが重要」。

 

企業は出稼ぎ労働者にシフト 

 サンクトペテルブルク市の市民であるイリヤ・リッレさんは、市内の大手民間企業で高所作業員として5年間働いた。「6人の班だったけど、全員が平均して2400ドル(約24万円)、時期によっては3000ドル(約30万円)以上の月給を受け取っていた。去年、会社が高所作業のアウトソーシングを決定して、全員を解雇した。今は必要に応じて、ベラルーシや他のCIS諸国の出稼ぎ労働者を採用しているらしいけど、月給は半分以下の900ドル(約9万円)だって聞いた」

 出稼ぎ労働者の方が採用されやすいのが現実だ。安全技術の違反や保護具の不貸与といった条件の悪さにも、文句を言わないため。

 

「ハイテク分野の人員を養成すべき」 

 国立経済高等学院・地域経済学・経済地理学講座主任であるアレクセイ・スコピン教授は、ロシアの工業化時代が過去のものとなったことから、若者は労働職にこだ わる必要がなくなったと考える。「中国やベトナムといった東・東南アジア諸国から出稼ぎ移民を受け入れて、ロシアの労働者不足の問題を解決すべき。これらの国々の若者は、子供時代から工場で仕事をするための準備をしているため、理想的な人材資源。CIS諸国の若者は専門教育を受けていないから、工場作業員としての準備ができていない。屋外清掃員、調理師、ウエイターは可能かもしれないが」。自国の人材を必要としている経済分野は、ハイテクに特化している軍 需・防衛企業のみだという。これらの工場には出稼ぎが不在なため、毎年4~5万人の作業員を育成する必要がある。