=AP通信撮影
地上に生き残るための戦い
なぜ対戦相手、参戦国、または戦争地域のことを示唆しない、大祖国戦争という名称がロシアで使われているのだろうか。ロシア人やソ連諸国の人民にとっ て、この戦争は祖国の戦争以外の何物でもなかった。自由と祖国の独立を求めた戦争であり、生き残るための戦争だった。
ではなぜ頭に大がついているのだろ うか。それはこの戦争の勝利には多くの国が貢献しているものの、ソ連がドイツ国防軍を倒した中心国で、その役割を強調しているからだ。ドイツ軍はソ連軍と の戦いで、1340万人中74%にあたる1000万人を喪失した。
アメリカのルーズベルト大統領は第二次世界大戦の最中の1942年5月、ソ連軍の活動とそ の影響を評価してこう記した。「ロシア軍が連合国25ヶ国の軍隊よりも、対戦国の厖大な兵士と兵器に打撃を与えているという明白な事実を無視することはでき ない」。
ロシア人がこの勝利を誇りに思い、多くの戦線のひとつととらえたがらないのは当然のことだ。そしてドイツとその同盟国であるイタリア、ルーマニ ア、クロアチアが84万人を喪失したスターリングラード攻防戦と、ドイツとイタリアが3万人を喪失したエル・アラメインの戦いが同レベルの戦いと見なされ ることを理解できないでいる。ヨーロッパ諸国の多くの歴史教科書では、第二次世界大戦としてこの2つの戦いが同等に扱われている。
旧ソ連圏でも分かれる評価
ロシアでは功績を上げた戦争功労者の世代に対して、特別な尊敬の念がある。ただしどの旧ソ連諸国でも同じというわけではない。例えば、こんな作文を書いたリトアニアの子供がいる。
「老人が通りを歩いてハーケンクロイツをつけた今の若者を見たり、テレビでさまざまなファシストの集会を見たりするとどんな気持ちになる のか、多くの人が想像もできない。でももっとひどいのは、若くて体格の良い若者がお年寄りに近づいて、お前たちがソ連を手助けして平和を乱した、なんて言うこと」。
ロ シアの若者にもいろいろな人間がいるが、国と社会は祖国のために戦った功労者への暴言に強い憤りを感じる。21世紀初めでも戦争功労者を称えるイベントが たくさん開催されていたり、社会でこのような人々に人気があったりすることは、ロシア人にとって大祖国戦争の勝利が忘れがたき貴重な功績であることを示し ている。
「ゲオルギー・リボン」運動
「ゲオルギー・リボン」運動はこの良い例だ。これはロシア帝国とソ連の勲章のリボンと同じ色の象徴的なリボンを配布する社会活動で、2005年から毎年 対ドイツ戦勝記念日に行われている。これは社会が自発的に始めた活動であり、政府関係者が参加したのはしばらくたってからである。「ゲオルギー・リボン」の主催者は、「前世紀のもっとも恐ろしい戦争に誰がどのように勝利したのか、誰をそして何を誇るべきなのか、誰のことを忘れてはいけないのかを、若い世代 に伝える」ことが目的だと話す。
活動を始めてわずか6年で5000本以上のリボンが世界で配布されたという記録は、この運動の人気の高さを証明している。 ロシア語圏の国はすべて参加していると言える。世論調査によると、73%のロシア人がこの活動を肯定的にとらえている。プーチン大統領やメドベージェフ首 相も、ゲオルギー・リボンを胸につけて対ドイツ戦勝記念日を祝い、この活動を支持している。
国民がひとつになる5月9日が、ソ連時代から変わることなく大切にされていることは明らかだ。勝利をスターリン政権と結びつけ、孫やひ孫の世代に後ろめたさを感じさせようとしても、それはうまくいかない。現代のロシア人はこの大祖国戦争を、当時の政権がどのようなものであったかなど関係なしに、国民の功 績として受けとめているのである。
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